第四十四話 行動方針
数分後。
弘とラスは、揃って説教をされていた。
それぞれのリーダーが各自に……ではなく、ムーン1人が説教主だ。
ジュディスは「あたしが言うより、ムーンに言って貰った方がイイと思うし」と、お任せモードである。もっとも「ラスだけ贔屓するようなら口出しはするわよ?」と念押しすることは忘れていない。
「では、手短にいくぞ? 事情は聞いたがラス、お前が悪いと俺は思う。ただしヒロシ? 口論を飛び越して手を出すのは感心しないな。依頼人の前で騒ぎを起こしてどうするんだ? そういうわけで俺の決定はこうだ……罰は双方に与える」
「ええええっ!? そりゃないぜ、ムーン! 俺はアンタの仲間で……」
「いい加減にしろ、ラス。俺は仲間だからと言って贔屓はしない。そもそも、お前はクロニウスから加わった新入りなんだから、もっと控えめにしろ! ……ヒロシは何か言うことはあるか?」
ムーンに聞かれた弘は、肩をすくめて見せた。
「別に何も? 先に手を出したのは俺だからな。で? 罰ってのは何だ?」
「そうだな。この次、キャンプを張ることがあったら……お前達2人だけで、一晩中見張りをして貰おうか? それでこの話は終わりだ」
有無を言わさずに言い放つと、ムーンは村長から聞いた話を説明しだした。
村長の話では、やはり村は八本足のヒグマに襲撃されたらしい。
食料保存庫が破壊されて保存食が台無しになったが、幸いなことに人的被害は出なかったとのこと。
「その壊された食料庫ってのは?」
「もう片付けたそうよ。村長さんの話ではね」
弘に答えたジュディスが、ムーンの後を継いで説明する。
八本足のヒグマについては、一頭のみ確認されていた。
元々の四肢に加え、胴のあたりから左右合わせて4本の足が生えており、それぞれが元々の前足のように使える。足自体は通常より長く、高いときでは4mほどの高さに背が達したという。
「何か吐くような攻撃はしないっぽいわ。要するに……足が長くて多いヒグマってことね」
見たことも聞いたこともないモンスターのことなると、他に言いようがないのだろう。
説明を締めくくったジュディスは、少し苦笑しているようだ。
「で……だ。抜け駆けした連中の話だが……」
再び話し出したムーンによると、2日前の午前中、確かに一組の冒険者が村を訪れたらしい。全員男性でリーダーを含む戦士3名、魔法使い2名、偵察士が1名の編成だったとのこと。
この編成が、弘にしてみるとバランス悪く感じる。
ゲーム知識で言うなら戦士数名、頭脳労働及び魔法攻撃用に魔法使い、治療回復役で僧侶、罠解除や偵察用に盗賊という編成がスタンダードなのだが……。
「僧侶なしっていう編成は、よくあるのか?」
この弘の質問に、ウルスラが小声ながら答えてくれた。
「僧侶は居た方が望ましいって感覚が、冒険者としては一般的ね。修行名目で冒険者について行く僧侶って実は多いんだけど。パーティーに居て欲しいからと言って、暇な僧侶がつかまるとも限らないわけで……」
「抜け駆け組は、その僧侶のあてはなかったが、代わりに魔法使いを2人組み込むことができたというわけだ」
後を継いでムーンが説明した。どうやら、ヒソヒソ話が聞こえていたらしい。
「バランスで言うなら、戦士・僧侶・偵察士・魔法使いの構成ができていれば大抵の事態には対処できる。だが、パーティーごとにやりやすい組み合わせってのはあるんだ。人それぞれという奴だな。で……話を戻すぞ?」
釘を刺された弘とウルスラは、互いに苦笑してからムーンに向き直った。
「え~と、何処まで話したかな? そう2日前に出発した連中は、まだ戻ってきてないそうだ」
淡々と語っているようで、ムーンは何処か嬉しそうな口調である。
(抜け駆け野郎どもが痛い目を見て、ザマァ! って気分なんだろうな)
他人の不幸を喜ぶというのは格好悪いとは思うが、ズルした者達が目的を果たせていないと聞けば、弘とて悪い気はしない。
問題は、抜け駆け組が全滅していることを前提として話が進んでいること。
「それでいいのか?」と思う弘であったが、今居るパーティーメンバー達は誰も心配している様子がない。
やはり冒険者である以上、パーティー全滅による死などは珍しくないのだろう。
(映画やドラマで見かける『職業意識』って奴だろうが……予定していた頭数が減った件については問題視しなくていいのか?)
そこをムーンに聞いてみると、彼とジュディスが村長と話をした結果、必ずしも討伐を主目標としない方向で方針転換したらしい。
「抜け駆けした連中の名は聞いたことがない……まあ、新人なんだろうが、それでも冒険者パーティーが一組、出かけたまま帰って来ないんだからな。俺達が二組居るからと言って、安心できた話じゃない」
何とかなるかもしれないが、パーティーから死人が出るかもしれないというわけだ。
「村長が言うには八本足のヒグマは一頭だけらしい。冒険者一組を壊滅させられる奴が、どれほどのモノなのか? そこを確認しなくちゃならん」
あと何組かの冒険者パーティーが必要なら、それを村長に伝えて、冒険者ギルドと話し合って貰う。資金の都合がつけば、新たに数組を雇えるだろうし、それが駄目なら……。
「ここの領主に掛け合って貰うしかないな」
「領主の軍隊だか私兵だかに頼るってことか? あれ? 前に聞いたんだけど、こっちの世界じゃ獣害なんかで軍隊は動かないって……」
「こっちの世界?」
ムーンが小首を傾げるが、すぐに元の話を続ける。
言い間違いかなにかと勝手に解釈したのだが、この時、ジュディスの視線が少し鋭くなっていたことに弘は気づけなかった。
「確かに獣害程度では国軍は動かない。領主の私兵だってそうだ。しかし、自分の領地で村が獣害による大損害を受けてるのを放置したまま……となると、領主としては王都に対して面目が立たないんだ」
だったら、わざわざ身銭を切って冒険者を雇わずとも、最初から領主に泣きつけば良いのではないか?
だが、それをやると後々に面倒があるのだ。
「面倒って……何?」
「『領主たる私が救ってあげた。ありがたかろう? そういうわけで徴税を少し高めにする』ってことになるのよ」
ジュディスが不機嫌そうに言うのを聞き、弘は納得がいった。
税金というのは利率が上がると、それを下げるのに時間がかかる。長い目で見れば、今この時、少々お高くついたとしても、即金で冒険者を雇った方がいいのだ。
(消費税なんて、俺が生まれる前にできた税だってのに、上昇するばかりだもんなぁ……)
しかしムーンの話を要約すると、今回の仕事は討伐から偵察に変更。弘達で何とかなるなら、それに越したことはないが無理なようなら、村長に報告して依頼は終了。
あとは村長の判断で、冒険者の追加を依頼するか、領主への陳情へ切り替えるかを選んで貰うということなのだ。
「なんだなんだ? じゃあ、偵察だけで済んだら、儲けは減るってことじゃねーか!」
「死なないよりはいいだろう? ……よし、取りあえずは場所を移動だ」
ラスが騒ぎ出したので、ムーンは皆を村の外れへ連れ出した。
いつまでも村長宅の前で騒ぎ立てるわけにはいかないのである。
そして村を出るまでの間も、ラスは文句を言い続けた。
「でもよぉ? 今回の報酬って高かったんだろ? それを不意にしちまうなんざ、その冒険者としてすたるって言うか……」
「うまくヒグマの戦力把握ができれば、冒険者の増援を頼む際にも、俺達の名を加えてくれる。と村長は言ってくれている。そのときには、冒険者の頭数は増えるだろうが報酬も上乗せされているはずだ」
ずかずか歩くムーンは譲る気配がない。
「でもお、冒険者が増えると分け前も減る……わよねぇ?」
「なんだって?」
ラスではない女の声。
誰が言ったんだ? と振り返るムーンが見たのは、ジュディスパーティーのウルスラだった。
「ウルスラ……だったか? 君は確か、商売の神の信徒だったな? 金に汚いのは結構だが、汚すぎると命を縮めるぞ?」
「臆病者の手から儲けが逃げる……と、我が神の教えにあるのだけど~」
厳しい顔のムーンと、にこやかながら目は笑ってないウルスラが対峙する。
睨み合いは数秒間続いたが、やがてムーンが村の外に向き直った。
「俺の方針は偵察に変更だ。その上で、俺達で何とかなりそうなら討伐はする。だが、無理なときは諦めて! 村長に報告してから、クロニウスに一度戻るんだ! だから村を出たら、そのまま山の森に入る! いいな!」
節々区切りながら怒鳴るように言うと、ムーンはもうウルスラを振り返らなかった。
そしてムーンパーティーのメンバーが後に続き、ジュディスも歩き出したことで、残る弘達も自然と歩き出した。
ウルスラは最後に歩き出したが、その際、弘に対して小さく舌を出して笑っている。
「えへへ、怒られちゃった♪」
「助け船を出せなくて悪かったが……」
まだ冒険者としてのお作法や仁義が良くわかってないので、二人のやりとりを参考にさせて貰ったのだ。そこを説明すると、ウルスラは和風美人な顔で嬉しそうに微笑む。
「あらあら? 気を遣ってくれてるのね? お姉さん、嬉しいわ~」
「いや、同い年だから」
つっこみつつ弘は前方を行くムーンの背を見た。
今前を歩く男は、少し難はあるようだがベテランの冒険者だ。
少し性格的に不安なところもあるが、パーティーの安全を優先する言動には好感が持てる。
この男から学べるだけ学ぼう。
そう思った弘は、ふと少し前まで行動を共にしていた女性冒険者達を思い出していた。
(そう言えば、カレン達。今頃、何してるかなぁ……)
※しばらくは朝7時過ぎの投稿になると思います




