↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第3章 パーティーメンバー、俺だけ!
34/197

第三十四話 オークの洞窟(5)

「合成って……召喚品をか? マジ?」


 召喚品合成という開放能力名を見た時、弘の脳裏に浮かんだのは自転車シリーズの召喚品だった。

 まさか、と思いつつ能力発動。

 そのまま召喚欄を操作して自転車一式をタッチしたところ、なんと自転車が一台出現したのである。


「おお! おおおおお……って、やっぱしママチャリかよ……」


 ついに俺は、自転車を召喚できるところまで来た!

 そう思うと気分が盛りあがるのだが、目の前で鎮座するママチャリを見ていると、その盛りあがった気分が萎えていく……。


「せ、せっかくだし、アイテム解説を見てみるか……」



<シティサイクル>

 通称ママチャリ。女性服の着用状態でも運用可能な配慮あり。

 前カゴと荷台に、ある程度の積載が可能。

 耐久性は低い。

 航続距離は体力の続く限り。

 使用者が1m以上離れると消失します。



(へえ~? ママチャリって耐久力ありそうなイメージだけど、違うのか?)


 構造からして高耐久なわけないのだが、一般的なイメージからするとママチャリは頑丈なイメージである。普通に町乗りで使っている分には、長持ちすることから生まれた誤解なのだろう。

 次に弘の興味を引いたのは、航続距離と消失ルールだった。

 体力が続いて、跨がっている限り消えることがないというのは嬉しい話だ。

 1m以上離れると消えるのは、どうかと思うが支障はないだろう。


(……いや、アイテムを積んだままだと離れられないのか。ママチャリが消えちまうものな……。けど、俺にはアイテム欄があるから問題ないな)


 元暴走族の特攻隊長さんとしては、ママチャリに抵抗感があったが、自転車移動できるというのは非常に大きい。


「背に腹は替えられんよな~」


 トホホな気分で視線が動く。

 見た先は……洞窟の入口だった。


「まだ残りが居るかもしれんし……一応確認だけはしておくか……」


 ママチャリを消し、弘はアイテム欄から松明と火口箱を取り出す。

 購入時にブルターク商店で教わったとおり、松明の巻き布にオイルを染みこませ、火口箱に収納された火打石と火打金で火花を……。


「んん? 火花?」


 思い立った弘は、火打石等を箱に戻すと鉄トゲメリケンサックを召喚する。


(確か、毒とかで麻痺させるんじゃなくて、電撃……なんだっけ?) 


 若干の期待とともに念じると、トゲ部分で火花が散った。

 すると、見事に松明に着火したのである。


「お、お~……やってみるもんだな」


 召喚武器のスタン効果で着火が可能。

 ということは火口箱はお払い箱なのか? いや、そうはならない。

 MPを消費して召喚する行動が取れなくなることだって、あるかもしれないのだ。


(第一、人目につく場所でスタン着火とかやったら目立つだけだしな)


 そういう意味も込めて、火口箱は大事にしまっておくことにする。 

 考えてみれば、召喚能力を大っぴらにしないのであれば、普通の冒険者としてのグッズは、アイテム欄収納ではなく背負い袋に入れた方がいいのだろう。


(クロニウスに戻ったら、背負い袋の整理をしてみるか……)


 そんなことを考えながら、弘は洞窟の中へと入っていくのだった。 




 洞窟の中に、金目の物はほとんどなかった。

 人間から奪ったと思しき首飾りや腕輪などが、数点あっただけである。


「やっぱ金目当てで人を襲う山賊、おっと野盗なんかとは違うか……」


 元山賊だっただけに、言葉には配慮して野盗を例としてあげる弘であった。

 そんな彼が更に奥へ移動し、発見したものがある。

 自ら立つこともままならない、オークの乳幼児が3体。

 それを発見したとき、弘は松明を掲げたままで硬直した。


「これ、どうしろってんだ?」


 この後、弘は村の若い衆を連れて依頼完遂の現場検査を行うのだ。ここに放置しておくということは、依頼が完遂できていないということで……。


(いや、そんなことより。こいつら村人に殺されちまうんじゃねーか?)


 では、洞窟の外に連れ出して、何処かに放置するか?

 いや駄目だ。この辺りはダイアウルフが彷徨くような危険地帯なのである。次の日を無事で迎えられるという保証はない。沢に流すという手も考えたが、それで下流まで流れるか疑問だし、溺れて死ぬ可能性が高い。

 第一、無事に生き延びて成長したとして、それで余所の人間が襲われたらどうするのか?


「このまま放置して……村人に殺させた方が俺としちゃ楽……なのかもしれんけど」


 それは……なんか違うだろう? と弘は思った。

 オークとはいえ幼子を手に掛けることはしたくない。だからと言って、それを他人に押しつけるのは筋が違う。

 それに元々、弘が受けた依頼は『オーク討伐』なのだ。


「こういうのが嫌なら……最初から引き受けるなって話だよな?」


 倒したオークから奪った短剣を、アイテム欄から取り出す。

 それを痛いくらいに握り締めると、弘はオークの子に迫った。

 眼下では状況を察しているのかそうでないのか、オークの乳幼児が泣いている。

 ギリリ……。

 弘の口元から歯ぎしりの音が洩れた。


「悪いな。マジで本当にすまん。……俺のこと、恨んでくれていいから」




 数時間後。

 弘は村長の要請を受けた若者数人とで、洞窟までの現場検査を行っていた。

 最初の沢で倒した4頭、少し離れた場所で倒したオークとダイアウルフたち、そして洞窟前のオークメイジとオオトッケイヤモリに……洞窟内で殺害したオークの子供達。

 余さず案内した後、帰る道すがらで村の若い者が弘に話しかけてきた。


「凄いですね! 1人で来たときは大丈夫かなって思ってたんですけど……あ、すみません。でも、オークに魔法使いが混じってたのに、ダイアウルフやオオトッケイヤモリまで倒してしまうだなんて!」


 興奮気味に話しているが、弘は盛り上がる気分になれなかった。

 オークの幼子に短剣を突き立てた感触が、まだ手に残っているのだ。


「まあ……仕事、だからな」


 言葉少なに答えると、村の若者は気勢を削がれたようだったが、次いで遠慮がちに訪ねてくる。


「それで、その……オオトッケイヤモリとダイアウルフの件に関してなんですが……」


 なんだかウジウジと言いにくそうにしているが、何を言いたいか、弘にはわかる気がした。

 つまり、ヤモリと狼を倒した件は、依頼金外の出来事にして欲しいと言っているのだ。

 虫のいい話だが、依頼はあくまでも『オーク討伐』だった。

 途中で遭遇したモンスターの討伐に関しては、弘の都合によるものでしかない。

 この世界に来るまでの弘なら「いやいや、俺がモンスターやっつけたから、助かるだろ? 必要経費で上乗せしてくれよ」と交渉しただろう。

 だが、オークの子供を殺したショックが抜けきれない彼は、そういったことを考えるのが億劫になっていた。


「気にすんな。村に迷惑かけてたのはオークで、そいつらは俺が依頼どおり始末した。それでいいじゃねーか」


 うんざりした調子で言うと、若者達が目を丸くして囁きあっている。


「今まで色んな冒険者を見てきましたけど。……あなたのような人は初めてです」


「本当に感謝します!」


 何だか妙に感謝されているようだ。

 しかし、気疲れの激しい弘には、よく理解できていない。と言うよりも、妙に尊敬の眼差しで見てくる若者達が鬱陶しく感じられる。


「いいから、気にすんな」


 言葉少なに言うと、サバ村村長に現場検査の完了を報告するべく歩き出す。

 背中に若者達の尊敬の視線が集まるが、そんなこと弘はどうでもいいと感じていた。




 一通りの報告を若者達と共に済ませると、村長は弘の手を取り何度も礼を言った。

 最初は愛想笑いをしていた弘であったが、段々と面倒くさくなってきたのでギルドの派遣証を村長に差し出している。

 これに依頼完遂の検査署名……サインをして貰うのだ。

 村長は弘から書面を受け取ると、村の代表者らしく個人所有していた筆記具……と言っても羽根ペンだが……で、サラサラとサインをした。


「はい、これでサインしましたぞ。それで……せっかくですから、村を挙げて宴会など開きますので、サワタリ……さんも御一緒に……」


 いったい何を気遣っているのだろう? と弘は思う。

 村の脅威が去ったのだから宴会するのも良いだろうが、今はとにかくクロニウスに帰りたい。そしてギルドから金を貰ったら、1~2日は宿に籠もって寝て過ごしたいのだ。

 この時の弘は、それしか考えられなかったのである。


「いや、依頼が完遂できたんだから、俺は一刻も早くギルドに報告をしたい」


 本音は速やかに村を離れたいだけなのだが、今は客商売の最中だ。相手の心証を損ねないよう、言葉に気をつけながら弘は村長に言う。


(暴走族時代なら「うるせぇ! 俺に構うんじゃねぇ!」とか言ってただろなぁ)

 

「村の脅威が一先ず消えて、本当に良かったと思うぜ。それで宴会するって言うなら、俺みたいな余所者が居ちゃあ気を遣うこともあるだろ? 俺のことなんか気にしないで村の皆だけで楽しんでくれ」


 我ながら立派臭いことを言っていると思うが、これだけ言えば納得してくれるはず。

 言われた村長は「お、おおお……」などと言っていたが、気にせず弘は背を向けた。


「じゃあ、俺はクロニウスに帰る。また何かあったらギルドに依頼してくれ」


 そう言い残し、弘はサッサと歩き出したのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。