第三十二話 オークの洞窟(3)
<ダイアウルフ>
大型の狼。主に腐肉食、ときおり狩猟。
(記事が少ないな。俺のゲーム知識じゃ、ダイアウルフってな大したことのない雑魚モンスターで、他の雑魚モンスターの乗り物になってたような……)
その記憶とは違い、かなり強かったように思う。
少なくとも単体レベルではオークよりも上だった。それが連繋して襲ってくるのだから、木に登っていなかったらどうなっていたか……。
さて、レベルが上がったことで召喚武器に変化が生じていた。
鉄トゲのメリケンサックと鉄トゲの警棒に、スタン効果が付与されていたのである。
これには弘も大いに喜んだものだ。
単なる鈍器召喚から、付与効果ありの武器を召喚できるようになったのだ。これが喜ばずに居られようか。
さっそく鉄トゲのメリケンサックを召喚してみる。
フッと出現したメリケンサックを握って念じると、トゲの部分でバチバチと青白い火花が散った。
「ブッ……ひゃっはっはっはっ! これサイコー!」
思わず枝上で座りながら、ボクサーのように構えてみる。
「スタン……ナックル」
意味ありげに呟きつつ念じると、期待どおり、メリケンサックのトゲ先で火花が散った。
……。
「ぎゃはははははは! 『スタン……ナックル(キリッ)』って厨二病かよ! ぶへへ、げほっぐは!」
笑いすぎてむせてしまう。
散々笑った後でアイテム解説を閲覧すると、内容は以下のとおり。
<鉄トゲのメリケンサック(スタン効果あり)>
・鉄トゲのみならず、メリケンサックそれ自体にスタン効果が発生します。
・使用者自身には効果がありません。
・スタン効果は麻痺毒ではなく電撃属性なので、生物全般、不死系および精霊系、機械系のモンスターにも有効です。(例外あり)
・スタン効果の強度及び持続時間は、レベルアップにより上昇します。
とのこと。
これは、かなり高性能な武器である。
例えその一撃で倒すことができずとも、動きの止まった相手になら追加攻撃が可能なのだ。
鉄トゲ警棒のスタン解説も閲覧したが、こちらは大して違いがないので、弘は流し読みしてからステータス画面を消去……。
「いや、待て! 待てよ!?」
弘は、持続時間が切れて消失した鉄トゲメリケンサックを再度召喚する。
そしてメリケンサック装備のまま、バスタードソードを手に取ると……。
「むん!」
バリバリバリ!
バスタードソードの剣身から青い火花がほとばしった。
「やっぱりな! 思ったとおりだぜ! メリケン装備のまま剣を握ったら、スタン効果が剣に伝わるんだ!」
裏技的な使用法だが、電撃剣の誕生である。
問題点としては、メリケンサック装備の状態なので、メリケンの握り部分が邪魔になって、剣の保持が難しいというものがあった。
「メリケン装備を片手だけにするとか、工夫しなくちゃいかんか……」
ともあれ、これでレベル以上の戦いができることだろう。
思わぬパワーアップで気をよくした弘は、少しばかり休憩した後にオークから装備品を回収しつつ、オークの洞窟へ向かうのだった。
オークの洞窟に戻ってみたところ、見慣れないオークが居た。
毎度のことながら藪に隠れて様子を見ると、先程までのオークとは違う気がする。まず着ている衣服が複雑な紋様入りで、人間の頭蓋骨をはめたような杖を持っていた。また、頭部には狼のような動物の頭蓋骨を被っている。
(おー、見るからに魔法とか使いそうな奴だ)
せっかくレベルアップしたというのに、弘は何だか負けたような気分になった。
(けど、1体だけなら魔法を使われる前に倒せばいいことだ……ぜ?)
ズン……。
なにやら大きな音が聞こえ、振動まで伝わってくる。
若干引きつった顔で弘が見ていると、洞窟の中から四足歩行の何かが出てきた。
「はぁ!?」
陽光の下へ姿を現したそれを見て、弘は絶句する。
(ワニ? いや、トカゲか!? ……でけえ!!)
現れたのはトカゲだった。だが、あまりにも大きい。
広げて地を掴む足の幅が2m程、尻尾を含めた全長が5m程というサイズである。
全体的な印象はイモリやヤモリに似ているが……。
(てゆうか、イモリかヤモリか、どっちなのかサッパリわからん。……ああ、対象物解析すればいいのか)
ついつい忘れがちになってしまう自分に苦笑しながら、弘は対象物解析をしてみた。
<オオトッケイヤモリ>
主に夜行性で、主に動物食です。
気性荒くアゴの力は強い方。歯は鋭くなっています。
(『オオ』ってレベルを超えてる気がするんだが……。それにしてもこの解説文、ですます調だったり、箇条書きだったり……安定しねーな)
いや、問題はそこではない。
目の前に居るオオトッケイヤモリを倒すべきかどうかだ。
依頼の完遂という意味では放置していても問題はない。
弘の受けた依頼は『オーク討伐』だからである。
(じゃあ、あの魔法使いっぽいオークを始末して……それで帰っていいのか?)
そうした場合、この近隣にオオトッケイヤモリが放たれることとなる。
野生の熊とどっちが危険だろうか?
答え……どっちであっても危険である。双方共に大型の肉食動物なのだ。
(このくらいのサイズになったら、昆虫を補食する感覚で人間を襲うっぽいな)
ここで、魔法使いっぽいオークも対象物解析してみる。
<オークメイジ>
魔法を使える程度に知能が高いオーク。
良識や民度的なものはオーク並み。
運動神経弱し。力も弱い。
大型の動物を使役することがある。
(くそ~、あのヤモリ。やっぱりオーク集団の関係者……いや、関係生物か? なんかオークメイジが指図してるし……)
大きな目で見て討伐対象に含まれそうだと判断した弘は、アイテム欄から短弓を取り出した。ここ何回かの戦いでパターン化した感のある、『藪からの短弓攻撃』で先手を取ろうと言うのだ。
(最初に狙うのはオークメイジだな。一発で仕留めないと、魔法攻撃をくらうかも?)
そうなったら動きの鈍ったところに、あの大きなヤモリをけしかけられるかもしれない。
考えただけで逃げたくなる。
だが……弘は腹を決めた。
(ここで引き下がったら男がすたるってもんだ。オークを全殺しにして、ついでにデカいトカゲもしめて、それでイイじゃネーか! やるぞ! やってやらぁ!)
半ば自分に言い聞かせるように決断すると、弘はバスタードソードを抜いて地面に突き立てた。短弓を放った後、速やかに剣を掴み取って飛び出すためだ。
方針としては、短弓の一撃でオークメイジを倒せば良し、できなければ突撃してバスタードソードで仕留める。その際、鉄トゲナックルをスタン状態で召喚し、剣にスタン効果を付与することを忘れないこと。
オークメイジを倒したら、次はオオトッケイヤモリだ。
こちらは……。
(初対戦になるから臨機応変だな。食いつきと尻尾の攻撃には注意しなくちゃ……。あ、盾も使うか……)
倒したオークから奪った盾は、現在アイテム欄に収納中である。弘がバスタードソードで斬りつけたため、大きく切れ込みが入っており、すぐに壊れてしまうだろう。しかし、1回ぐらいの攻撃は防げるはずだ。
(トカゲをやるときは、横から腹を刺すのが良さそうだな……よし!)
弘は短弓を構えると、まずはオークメイジに狙いを定める。
ギリリリ……ヒョッ!
小さな風切り音とともに矢が飛ぶ。
ガッ!
「ぎゃぶが!」
矢が命中し、オークメイジが悲鳴をあげた。
だが、背中の真ん中に命中したのに死なない。
弘は舌打ちするや、地面に突き立てたバスタードソードを引っ掴んだ。
さっそく予定どおりにならなかったが、こうなったときのことは想定済み。矢で死なないのなら斬り殺すまでだ。
「素直に死んどけや! ブタ野郎!」
片手持ちで剣を振り上げ、洞窟前に飛び出す弘。が、その背後で聞き終え吠えのある吠え声が発生した。
ガウウウウウ!
「なっ!? うおあっ!!」
振り返ると、自分の後に続くようにしてダイアウルフが飛び出してきている。
まだ居たのか!? と言うより、いつの間に背後を!?
そう思う弘であったが、この状況はマズい。
前にオオトッケイヤモリと手負いだがオークメイジが居て、後ろからはダイアウルフが迫っている。
どちらを先に相手するべきだろうか?
「冗談じゃねぇぞ、ワン公!!」
弘は足を止めて振り返ると、ダイアウルフに向き直った。
今相手をしている中で、一番動きが速いと感じたからだ。




