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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第3章 パーティーメンバー、俺だけ!
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第三十話 オークの洞窟(1)

 走りながらではあったが、弘は短弓に新たな矢をつがえており、残る3体に対して更に1射くらわせる。もっとも、そんな状態で放った矢が当たるわけもなく、矢は見当違いの場所へと飛んでいった。


(だが、相手をビビらせたぜ!) 


 相手に駆け寄りながら何かを投射し、体勢が崩れたところへ斬り込む。

 山賊討伐戦でも使った戦法だが、あのときよりも弘は格段に強くなっていた。


「かっはあああ!」


 手に持った短弓をオーク達に投げつけ、バスタードソードを振りかぶって躍りかかる。それと同時に発した声は、大きく息を吐き出すようなものだった。

 本当なら雄叫びの一つもあげたいのだが、近くに別のオークが居るかもしれないので可能な限り声は出さない。 

 まず、手近な1体……手斧を持った個体に弘は斬りつける。

 両手持ちで力一杯振り下ろした剣はオークの左肩口に入り、胸のあたりまで斬り込んだ。そのオークを足で蹴って引きはがすと、次に近い位置で立っていた短剣持ちのオークに剣を突き出す。こちらは驚きつつ身を引こうとしていたが、バスタードソードの切っ先は革鎧を貫通してオークの胸に潜り込んでいった。


「ギャバガブ!」


 倒れながらオークが吠える。

 残る1体に、弘は振り向きざま剣を振り下ろし……。

 ガッ!


「へっ?」


 固い音と共に剣が止まった。

 見れば、オークは手に持った盾で弘の剣を食い止めている。そして、腰の短剣に手を伸ばしながら大きく息を吸った。


(やばいぞ! 仲間を呼ばれるっ!)


 ここまでやったのに他のオークを呼ばれたら、それで一気に形勢が逆転しかねない。

 だが、剣は盾に食い込んだままで、なかなか抜けなかった。


「ぐっ……警棒出ろ!」


 弘は剣から手を離しつつ、警棒を召喚する。


「ピギャ……」


 叫ばれそうになったが、弘は出現した鉄トゲ警棒を握り締め、オークの顔面に向けて突き上げた。狙いすました攻撃ではないし、振りかぶる等の勢いづけもしていない。

 しかし、それがオークの顔面に当たったことで、少なくとも仲間を呼ぶ行動は阻止できたようだ。


「ぴぎ、ぶ、ぶぎゃ!」


「うるせぇよ!」


 鼻を押さえて呻くオークを、弘は鉄トゲ警棒で滅多打ちにする。

 最初の何発かまでは立っていたオークも、暫くすると、うずくまるようにして倒れ動かなくなった。


「はぁはぁ、やったか?」


 弘は警棒を左手に持ち替え、倒れたオーク達に気を配りつつバスタードソードを回収した。かなり盾に食い込んでいたが、盾を足で踏むことにより剣を引き抜く。

 そして倒れたオーク達に歩み寄り、1体1体確実にトドメをさしていった。

 モンスターとはいえ亜人である。

 いささかやり過ぎのような気がするが、そんなことを言っている場合ではない。


「他のオークは……来ないな?」


 周囲を見回して近づく者が居ないことを確認した弘は、そこでようやく安堵した。

 奇襲攻撃は成功したのである。

 そして始まる物品回収。

 手斧や短剣、そして手槍などは、町で売ることを考えてアイテム欄に収納した。

 大きく切り込みが入ってしまった盾は、壊れ物であるが装備していくことにする。


「盾……ねえ? 前は方形だったが今度は円盾か。すぐに壊れそうだけど……まあいいか」


 オーク達の革鎧も剝ごうと思ったが、これは手間が掛かるので断念した。モタモタしているうちに残りのオークが来ては困るのだ。


「レベルは……上がってないのか」


 レベル13に達するには、まだ経験値が不足しているらしい。

 残る6体だかを倒せばレベルアップできる気もするが……。


「まあ、やってみないことにはなぁ」


 奪えるだけ奪った弘はしゃがみ込み、オークの衣服でバスタードソードに付着した血脂を拭った。

 剣は各所で欠けが生じていたものの、まだまだ使えそうだ。


「少なくとも曲がっちゃあいない。さあ次いってみるか」


 この数日の間で何度も戦ったせいか、弘は戦闘が絡む行動に慣れつつある。

 ゲームだけでなく、映画や漫画による知識なども動員し、この場合どうすべきか……とも考えるようになっていた。

 そして今思っていることは……。


(やっぱ一人っていうのは調子に乗りすぎだったな。次からは誰か誘おう……)


 というものだ。

 冒険者を仲間にした場合。戦闘は楽になるだろうが、依頼報酬は山分けになる。


(金は惜しいよなぁ。でも死んだら元も子もないし……)


 少しばかり悩みながら、弘は沢の上流を目指して歩き出した。 



 半時間後。

 件の洞窟を弘は発見する。

 森の中の開けた部分、山肌に洞窟がポッカリ口を開けていた。


(お~……山賊時代を思いだすな)


 あの洞窟の入口に槍を持った山賊が居て、その隣りに同じく槍を持った自分が立っている。

 ほんの少し前だが、自分にとっては大事な思い出だ。

 だが、目の前の洞窟入口で立っているのは山賊ではない。醜悪なオークなのだ。


(また4体か……。村長が言ってたが、家畜とか持っていくし、女子供も襲うんだってな? 今んところは拉致られた奴はいないってこったが。胸くそ悪い話だ)


 オークのような亜人は、人間と交配可能なことが多い。

 それはゲーム等で得た知識だったが、どうやらこの世界でも適用されるようだ。


(気分悪りぃが……さて、どうしたもんかな?)


 数はさっき倒したのと同じだが、今回は状況が違う。

 すぐ近くに住処があるのでは、洞窟前の4体と戦っている間に中から増援が来るだろう。


(音も立てず、あの4体を始末する……か。無理だな)


 無音殺傷とか、サイレントキリングと言ったことだろうが、弘はアッサリ断念した。

 ゲーム等では盗賊や忍者、あるいは特殊工作員が得意とする技術として知られるが、それと同じことが自分にできるとは思えなかった。


(せめて1体か2体ならなぁ……)


 あいつら……数、減らねぇかな……。

 弘は切実にそう思う。

 考えてみれば標的の総数は10体前後。仮に12体いたとして、すでに4体倒したから残りは8体。目の前の4体と戦って、更にもう1回4体と戦わなければならないのだ。


(連戦にも程があるだろ? いや回数はともかく、1戦あたりの数は減らしたいんだけどな~)


 そうして洞窟を発見してから、半時間ほどが経過する。

 時間的には昼時と言ったところで、小腹の空いた弘は非常食の干し肉を囓っていた。


「ぶぎ? ぶぎゃぎゃ?」


「ぶぶっ、ぎゃぶがぶが?」


 突然、洞窟前で居る4体のオークが騒がしくなる。


(なんだ? 干し肉のニオイでも嗅ぎつけられたか?)


 回収しておいた短弓をアイテム取り出ししながら、弘は藪から視線を向けた。

 オークのうち1体が、弘の居る方向を指さして何か言っている。


(うわマジか? こっちに来るぞ!?)


 2体のオークが弘の居る方へ歩き出したため、弘は右方へ移動した。

 こういうとき、ガチャガチャうるさい金属鎧を着てこなくて本当に良かったと思う。

 移動するオーク達が、ブギャブギャ言いながら通り過ぎるのを見送ると、弘は洞窟入口を見た。

 今、見張りは2体だけとなっている。

 一気に仕掛けるべきだろうか?


(……ん~、それもいいけど出かけた2体が気になるな、あいつら何しに行ったんだ?)


 山賊時代の自分に置き換えて考えてみる。

 自分は洞窟入口の見張りをすることが多かったが、たまに洞窟を離れることがあった。それは食料調達のための狩り等だが、ではオーク達も狩りに出かけたのだろうか?

 ……少し考えてから弘は、ある可能性に思い当たる。


(あいつら、戻ってこない4体を捜しに行ったんじゃねーの? だとしたら放っておけんわ) 


 倒した4体のオークを発見したら、きっと大騒ぎして戻ってくることだろう。

 そうなったら、可能な限りの手勢でまとまって行動されかねない。

 追いかけて始末しなければ……。

 洞窟前に残った方の2体を倒すことも考えたが、やはり内部から増援が来る可能性が怖い。ここは堅実に、拠点から離れた2体を倒すべきだろう。

 弘は方針を決めると、気づかれないようにオーク達の後を追いかけた。

 ……。

 実のところ、彼らを始末するのに時間はかかっていない。

 4体の死体が転がる沢付近まで追跡し、仲間の死体を発見したオークが驚きの声をあげたところで、背後から短弓により攻撃。これが頭部に命中して一撃で倒せたため、そのまま突進して、身体ごとぶつかる……ヤクザまがいの突き刺しにより2体目を仕留めたのである。

 この戦闘により、弘はレベルアップを果たした。


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