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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第2章 再出発、冒険者にジョブチェンジ!
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第十六話 転移者の立場

 さて、多少の問題があるとはいえ屋内泊が可能となったものの、門兵詰所の留置場は大して広くない。本来、数人単位の問題者や捕縛者を放り込むだけの部屋であるから仕方ないが、3人で泊まる分には充分であろう。ただし、調度品の類は一切ない。

 強いて言えば鉄格子付きの小窓が、高い位置にあるくらいだろうか。つまり、夜だというのに照明器具の類がないのだ。


「少し待っててください」


 シルビアが背負い袋からランタンを取り出すと、そのまま門兵達の所へ行って火を貰ってきた。野外においては火口箱などを使用するが、せっかく火の気があるのだから、そこで着火させて貰う方が手っ取り早いのである。

 灯りの点ったランタンを下げてシルビアが戻ってくると、弘達は殺風景な留置場の真ん中で座り込んだ。


「あらためて自己紹介させていただきます。私はカレン・マクドガル。王都から来た者で……」


 妙に楽しげに語り出したカレンであるが、そこまで言ってフリーズしてしまう。チラッとシルビアを見ると、溜息をついていた。弘が思うに、余計なことまで言いかけて言い繕おうとしたものの、上手く言葉が続かなかったのだろう。


「言いにくいことがあるなら、別に言わねーでいいから」


「……はい。それで、私は冒険者ギルドの登録上、戦士なのですが……」


 たどたどしく言うので要約すると、次のようになる。

 カレン・マクドガルは、17歳。王都からきた戦士だ。

 現在は冒険者ギルドに所属する戦士なのだが、騎士になるべく試練をこなしている途中らしい。


「なるほどな。俺が世話になってた山賊団の討伐に加わったってのも、騎士になるための試験とかがあって、国から指定された『武勲』目標を達成するためだったってわけか」


 弘が言うと、カレンは「すみません」と謝罪した。


「もう済んだ話だから何度も謝らなくてい~よ。で? 従者探しがどうとかってのは? 騎士になるのが目的だってことだから、今のうちから候補を探すってことか?」


「は、はい……」


 カレンが頷いた。そのことも国から与えられた試練なのだそうだ。


「じゅ、従者探しは追々やっていくつもりではあるのですが……」


「あん? でもさっき、そこのシルビアさんが、従者探しを焦るとかどうとか、言ってたじゃん?」


 確かに言っていた。

 言われた時のカレンは慌てて否定していたのを、弘はハッキリと覚えている。


「それは……その……」


 指摘されたカレンが言葉に詰まるが、そこへ助け船とばかりにシルビアが割り込んできた。


「確かにカレン様は焦っておられます。ですが、そのことは家庭の事情によるものだと思ってください」


「お、おう、家庭の事情ね? オーケーだ」


 家庭の事情。

 そう言われてしまうと、突っ込んだ質問はできない。


「そ、それで……ですね」


 弘が納得すると、再びカレンが話し出す。


「当面の目標は修練を積んで強くなることです」


「ゴメスさん相手にタイマンで勝てるくらい強いってのに、まだ修行とかすんのかよ……」


 呆れ顔の弘に、カレンが困り顔となった。


「ええ。なぜなら、最終的に……」


「すとおおおおおおっっぷぅ!」


 またもシルビアが割って入る。


「また家庭の事情ってやつか!? 複雑で難儀な感じなんだな?」


「御理解が早くて助かります。カレン様も、色々と秘密事項が多いのですから、あまり軽々しく話さないでください」  


 言い方がきつくなっている。

 カレンが喋ろうとした内容は、そんなにも問題あることだったのか?

 最終的に……なんだと言いたかったのだろうか?

 それもまた家庭の事情というのなら……あまり考えない方がいいのだろう。

 シルビアはカレンに話をさせたくないらしく、これでカレンの自己紹介は終了だ……とばかりに自分の自己紹介を始めた。

 シルビア……シルビア・フラウスは22歳。子供の頃から修行をしている尼僧だ。


「カレン様とは幼なじみの間柄で、長年の付き合い上、旅に同行しています」


 それを聞いたカレンが「え~?」といった声を漏らしたが、シルビアが鋭い眼光で黙らせる。

 弘としては「カレンを様付けで呼んでるんだから、どう見ても『お付きの人』って感じだけどな~」と思うのだが、シルビアが『そういうこと』にしたいらしいので、敢えてツッコミを入れたりはしない。


「以上です」


「短いな。まあいいけど……」


 三つ年下に、二つ年上か~……と呟きながら、弘は「本当かは知らんけどな」と付け加えた。途端に2人から「年齢詐称なんてしてません!」と息ピッタリな抗議を受ける。


(幼なじみってのは、本当かも……)


「次は俺だな……」


 異世界者であるから、必要以上にベラベラ身の上話をしたいとは思わない。

 しかし、女2人が包み隠しもあるが自己紹介をしたので、自分だけ黙っているというのは弘の性分上、不可だ。


(そうなると、何処まで話すか……だな)


 今のところ、異世界転移までを含めた身の上話をした相手はゴメスだけである。

 今度は歳の近い女性が2人。

 果たしてどういった反応があるか……。

 馬鹿にされるか、信じて貰えないか、あるいはゴメスのように信じてくれるのか。


(……興味あるな)


 暫く考えた後で、弘は身の上話を隠すことなく話してみた。内容は異世界から来たことに始まり、ゴメスに話したこととほぼ同じである。

つまり、ステータス画面等の『能力』については、ゴメスの時と同様に話さない。


(ん~……2人の反応次第だが、能力の話はした方がいいかもな) 


 暫くとはいえ共に旅をするのだから、能力についてはすぐに知られてしまうことだろう。

 さて、2人はどういう反応を示したか?

 まず、カレンは大いに驚いている。半信半疑のようだが、それでも納得できるよう考え込んでる様子が見て取れる。


(素直だ……)


 一方、シルビアは可哀想な人を見る目で弘を見ていた。

 かなり心外だが、これが普通の反応なのだろう。


「別に信じてくれなくてもいいぜ? 俺はゴメスさんと比べて、あんたらがどういう反応するか見たかっただけだからな」


「ゴメス……さんは、山賊団の頭目だった方ですね?」


 カレンが一瞬、辛そうな、そして申し訳なさそうな表情を見せたが、それでも弘に聞いてきた。


「ゴメスさんの時は、どういう反応だったのでしょう?」


「頭から信じてくれた。まあ、本心はどうだったかわからんけどな」 


 そう説明すると、シルビアが「まあ!」と驚きの声をあげる。

 こんな話を信じる奴がいて驚いたのか、ゴメスの器の大きさに驚いたのか。

 後者であると勝手に思うことにした弘は、次いで、ウンウン頷いているカレンを見た。

 こっちは真剣に弘の話を受け止めてくれているようだ。


(他人から聞かされる突飛な話を、こうも鵜呑みにしてるようで大丈夫か~?)


 ちょっと心配になったが、シルビアはともかく、カレンには『能力』を見せてもいいかな? と弘は思う。

 この場で披露したら、シルビアにも見られることになるが、そんなに無理して隠すほどのことではないし……と、弘はステータス画面を展開した。

 ステータス画面だけでは、他にウィンドウを出しても他者に見えはしない。

 だが……。


「いいか? この手を見ててくれよ? ……メリケンサック」


 ……フッ……。

 音もなく、両手に鉄トゲのメリケンサックが装着された。

 それを見たカレン達が驚愕する。


「え、えええっ!?」


「いったいどこから!?」


 続けて樫の木の警棒も出すと、2人は言葉が続かなくなった。


「召喚魔法みたいなものだと思うんだが、こっちの世界に召喚魔法ってないのか?」


「召喚魔法はあるけれど、精霊や魔物を呼んだりするものばかりだし……」


 その後、弘はレベルという概念や、ステータス画面を展開できるかどうか、アイテム収納といったことについても二人に聞いてみた。

 結果、そういった能力は聞いたことがないとのこと。


(へ~……俺って特別な奴っぽいのか……)


 とはいえゴメスと話したときと同じで、自分が勇者か何かだと浮かれるようなことはなかった。今に至るまでの経験や出来事が強烈すぎて、そういう気分にはなれなかったのである。

 カレンは、弘が居た世界について興味が湧いたのか色々聞こうとしてきたが、そのうちウトウトし出したので、シルビアの提案により就寝することにした。


(そういや今何時ぐらいだ? 俺も、かなり眠い……)


「俺も眠くなってきたから、向こうの隅で寝るわ……」


「あの、サワタリさん?」


「はい?」


 シルビアが呼び止めるので、弘は腰を下ろしなおした。


「先程の異世界から転移したというお話しですが、無闇に話さない方がいいですよ?」


 弘は大きく頷く。


「ああ、珍しいってんで珍獣扱いされたり騒がれるのは嫌だからな」


「違います。それもあるでしょうが、もっと難しい問題です」


 難しい問題? 何かあるのだろうか?

 少し考えて思い当たるところがなかった弘は、シルビアに話の続きを催促した。


「サワタリさん。あなた、御自分が『国籍不詳の不法入国者』だって理解してますか?」


「お? お、お~~~~~っ! そう言えば、そうだ!」


 寝入っているカレンの手前、弘は小声で驚きを表現した。

 言われてみれば、弘は王様等の国家機関によって召喚された転移者ではない。シルビアが言うとおり、国籍不詳の不法入国者なのだ。


「てことは、例えば軍隊なんかに俺のことがバレた場合。スパイ扱いで取っ捕まったりするわけか」 


「可能性はあります。とはいえ……」


 そこまで真剣な表情だったシルビアは、一転して表情を和らげる。


「これからサワタリさんがなろうとする『冒険者』は、身元不詳な方が多いですから。あまり問題にはならないかもしれませんね」


「ああ、そう」


 なんだ心配させやがって。

 そう思う弘であるが、シルビアとの会話で得た情報はかなり重要だ。

 確かに冒険者登録を済ませれば、大した問題にはならないかもしれない。身元保証は、冒険者ギルドがしてくれるのだから。


(けどよ、本格的に調べられたら面倒くさいことになるには違いないよな。俺が考えても、俺みたいな奴は怪しいわけだし)


 やはり、異世界転移の事情は可能な限り秘密にするべきだろう。少なくとも、今回のように『相手の反応が見たいから』などというのは、以ての外だ。


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