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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第1章 異世界転移で山賊に再就職!
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第十三話 打擲

「えっ!?」


 うなだれていたカレンが顔を上げた。

 弘と駐屯兵リーダーを交互に見るのだが、弘としては刑罰が言い渡された後なので「俺の方を見られてもなぁ」と思ってしまう。

 カレンの隣で立つ尼僧が暫く抗議していたものの、駐屯兵リーダーによって言いくるめられてしまった。頼りにならないこと、この上ない。


(はなから頼る気もねーけどな)


 こうして弘は詰め所前へと引き出されることとなった。


(棒叩き刑って、時代劇とかでよく見かけるアレだっけ?)


 確か膝立ちか正座となり、両手首を首の後に通した棒か何かに縛り付けて固定し。あとはモップの柄のような長い棒で叩くのだ。ただし、弘の記憶が曖昧なので、時代劇の拷問シーンとゴチャ混ぜになっているかもしれない。

 だが、詰め所前で座らされた(一応、自発的に正座している)弘が見たのは、あまりにも太い棒だった。

 自分の前後に兵士が1人ずつ居て、それぞれ長い棒を持っているのだが、どう見ても警官が持つ警棒より太い。


(何だありゃ? 麺打ち棒より細いけど、あれで50発とかマジかよ?)


 正面に駐屯兵リーダーが立ち、その脇にカレンと尼僧が立っている。

 その他、やけに人数が多いと思ったら、民家から住人がワラワラ出てきていた。

 夜中に軍隊が騒がしくしていたら気にもなるだろうが、罪人の棒叩き刑と聞いて家に戻らないところを見ると、このまま見物していく気らしい。中には弘に対して罵声を浴びせながら、石を投げる者が居るので、死んだ民兵の身内が混じっているのかもしれない。

 そして、駐屯兵リーダーが大声で弘の罪状と刑罰を述べると、周囲の民間人らはホンの少し落ち着いたようである。

 やはり、カレンが主張した『弘は巻き込まれ者である』という部分が効いたらしい。ただ、それでも弘に対して厳しい目を向ける者が皆無となったわけではなかった。

 そんなピリピリしているが少し微妙な空気の中、棒叩き刑が開始されたのである。


「それでは開始しろ! 始め!」


 まず、背後から右肩口に一発。

ドス! みしぃ!


「ぎっ!?」


 重い音と同時に、骨の軋む音が聞こえた。

 それとセットで爆発するような痛みが発生する。

 歪む視界の端でカレンが顔を背けたようだったが、そんなことを気にしている余裕はない。

 ブンッ……ぼぐぅ!


「おぶっ!?」


 今度は横殴りに顔を殴られた。

 視界に星が飛ぶどころではなく、一瞬、意識が飛びかけている。

 歯を食いしばっていなければ、バラバラと永久歯がこぼれていたかもしれない。


(こりゃマジできついわ。よそのチームと喧嘩したときに、後ろから鉄パイプを入れられたことあるけど、コレに比べたら屁でもねーな)


 ビュッ……ごき!

 今度は後頭部。今度こそ本当に、視界内で星が飛び交っている。

 周囲で見物人どもが歓声をあげているようだが、よく聞こえない。


(こいつら、50発叩くまでに俺のこと殺す気だろ?)


 早い段階で頭部に2発貰ったせいか、痛覚が無くなりつつあった。しかし、喜ぶべきことではない。ボウッとしたまま殴られたのでは、耐えることもままならないからだ。

 何とか意識をとどめるよう歯を食いしばり続ける弘は、頭部から垂れる血で見えづらくなった視界の中、カレンを見た。

 もう10発目ぐらいだろうか、この頃になると、カレンは両手で顔を覆って俯くような姿勢を取っている。それを尼僧が慰めるような素振りをしているのだが……。

 バシイ! ……びき!

 右上腕の何処かで骨にヒビが入った……ような気がする。

 もはや身体のどの部分がどう痛いのか、それすらもわからない。

 そんな中で弘はカレンの様子を見続けた。


(泣いてんのかよ? バッサバッサと山賊斬り殺した奴がねぇ……)


「20ぅ!」


 どすっ!

 振り下ろされた棒が、鈍い音と共に背中へ叩き込まれた。 

 どちゃ……。

 今のは弘が前のめりに倒れた音だ。顔面から石畳に激突したのだが、幸か不幸かか痛みは感じない。

 そのまま数秒間動かなかった弘は、微かに目を開け躰を揺すった。


「ン……を? いけね……座ってなくちゃな……」


 もそもそ蠢きながら身体を起こす弘を見て、先程まで騒いでいた見物人が静まりかえる。

 執行人の兵士2人も戸惑ったように顔を見合わせ、次いで駐屯兵リーダーを見たが、リーダーは苛立ったように叫んだ。


「手を休めるな! あと30打あるぞ! 手早く済ませるんだ!」


「は、ハッ!」


 そうして棒叩きが再開される。

 バキ! バシィ! ガキ! ズド!

 夜の町に木霊する打擲音。

 だが……。

 残る30打が叩き終えるまで、弘は二度と倒れることはなかった。




「よし! 刑罰終了! その者は町の外へ放り出しておけ!」


 50打目が終わったところで、駐屯兵リーダーが宣言した。

 見物人達は白けた様子で帰宅していくが、その数は最初に集まったときよりも少なくなっている。

 通常なら数発で音をあげると言われる棒叩きに、弘が耐え抜いてる姿を目の当たりにし、不死の化け物でも見たような気になったのだ。また、最初は良くとも人が棒で叩かれ続けている様を見て気分を悪くした者も居たことだろう。

 兵士達も詰め所に戻っていくが、多くは気の抜けたような表情である。

 その他の者も姿を消し、詰め所前には弘と、彼を引っ立てる兵士。そしてカレンと尼僧が残るのみとなった。

 両脇で抱えられ、引きずるようにして連行される弘の耳に「カレン様? もう終わりましたから……」と言う尼僧の声が聞こえてきたが、弘には振り向く余力がなかった。

 そして、彼は町の門前で放り出される。


「その顔、二度と見せるなよ!」


 嬉しい捨て台詞まで頂戴した。

 やれやれ、やっと終わったか……と、地面を掴む手に力を込めるが……どうにも力が入らない。


(肉を叩いて柔らかくする……みてーな目にあったからなぁ。朝まで寝てたら、少しは回復するんかね? それか、このまま死んだりしてな……)


 頬を大地につけたまま、弘は目を綴じる。

 とにかく寝て意識をなくしたいところだ。

 が、その彼の腕を掴む者が居た。


(あん?)


 誰だ? と思うまもなく、躰が引き起こされる。と言っても立たされたわけではなく、躰を抱き起こされた形だった。

 かなり億劫に感じたが苦労して目を開けると、そこに自分を抱き起こすカレンの顔があった。


「……いいのかよ?」


 この町の連中の手前、刑罰を受け終えたとは言え、元山賊団関係者に手助けするのは立場上まずいのではないか?

 そう言おうと思ったが、口の中が切れて痛いため上手く喋れない。

 そんな弘に「大丈夫です」といって、カレンはすぐ脇に視線を向けた。追従して視線を向けると、そこでは尼僧が兵士に対して何かを渡している姿が見えた。


(金でも渡してるのか? ああ、目ぇつむって貰ってんのか)


 なぜカレン達が、このような行動を取るのか。弘には、まるで見当がつかない。 

脳内で?マークを大量生産していると、その尼僧が小走りで近づいてくる。

 ふわっとした黒髪をヒモで束ねて纏めており、清楚な雰囲気の美人だった。ただし表情はきつい。


(にこやかにしてりゃ、優しい系のお姉さんで通りそうだけどなぁ)


 そんなことを思っている弘に、尼僧は手の平をかざしてきた。

 なんだ? と思うと同時に、手の平に青白い光が発生する。


(ひょっとして治療魔法ってやつか? 山賊仲間から、そういうのがあるとは聞いてたけど。実際に見たらビックリだ)


 徐々に、いや、かなりの速さで痛みが引いていく。討伐戦で負った傷も治っていくのだから凄い効果である。


「……叩き刑は打撲傷なので、早く治ると思います。ただ、切り傷や骨折などは痛みが消えるのに少し時間が……」


 声も優しい感じだ。やはり本来は気の優しい性格なのだろう。


「カレン様の御命令でなければ、放っておくところなのですが」


(前言撤回。やっぱ、きついわ。この人……)


 そうこうしているうちに身体の各部が動くようになったので、弘は尼僧の止める声を聞かずに立ち上がった。自力で立つと、やはり全身に痛みが走るが、歩けないほどではない。


「門兵に金握らせたり、この人に治療させたり……あんたの指図かい?」 


 何とか踏ん張りつつ言うと、カレンがコクリと頷いた。

 弘は「そうか」と言うと、数秒おいてから頭をボリボリ掻く。そして言った。


「礼は言っておくぜ? ゴメスさんの頼みは俺を捕縛はしても殺さない……ってところまでだったからな。そっから先のことは、あんたがしてくれたことだ。尼さんも、怪我とか治してくれてありがとうよ」


 素直に礼を述べたことが驚きだったのか、尼僧は目を丸くしていたが「いえ……」と一言のみ言うと、目を逸らしてしまう。

 その反応に弘は小首を傾げたが、改めてカレンに向き直ると、なぜ怪我を治すことまでしてくれるのか聞いてみた。そこまでの義理も義務もないと考えたからだ。


「それは……山賊の頭目さんに、殺さないって約束しましたから」


「その約束を、棒叩き刑の後ろまで持ってきたわけか。律儀というか何と言うか……」


 尼僧が言うところでは、カレンは弘を捕縛した際、少しでも刑罰が軽くなるよう駐屯兵リーダーに掛け合ったらしい。実際、この口添えがなければ弘はテュレどころか山中で殺されていたとのことだ。


「そうだったのか。そいつは世話になった。そういや、尼さんの名前は聞いてなかったっけな?」


「シルビア・フラウスと申します。こちらはカレン・マクドガル様」


「ああそう。俺は沢渡 弘……って、もう知ってるんだっけな? 裁判で言ってたし」


 更に聞くと、当初、カレンは弘が無罪放免されると思っていたと言う。

 ゴメスの言うとおりなら、弘は『流れ者が巻き込まれただけ』に過ぎないからだ。

 しかし、彼女は弘が討伐戦で、何人もの兵士を負傷させた件について失念していた。シルビアがフォローして説明したところでは、「ゴメスとの約束で、頭が一杯になっていた」とのこと。


(ないない、そりゃないぜ~)


 門兵の目もあるので口には出さなかったが、弘はカレンの残念な一面に呆れた。

 結果的に弘は叩き刑で死にかけたわけだが、さすがに責任を感じたカレンが門前まで追いかけてきて、シルビアに治療を頼んだというわけだ。 


 江戸時代の棒叩き刑は死んだら駄目らしいですが、本作の場合は執行側があわよくば殺す気なので、50打という数値設定にしてみました。

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