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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第6章 ダンジョン探索!
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第百話 クリュセダンジョン(2)

 自分について説明する。

 これで何回目だろうかと思う弘であったが、長話になるのは間違いないので部屋を探すことにした。

 幸いなことに、空き部屋は数え切れないほどある。そのうちの一室……元は事務室だったらしい部屋を覗き込んでいたノーマが、皆を手招きした。


「丁度いい広さよ? 入口も人間サイズで、大型のモンスターは入ってこられないと思うし」


 言われて覗いてみると、確かに丁度いい広さだ。5メートル四方ぐらいで、机やロッカーの類は一切ない。ホコリが積もっているかと思ったが、意外や綺麗だった。


「こういう手頃な部屋は、他のパーティーも使ってるから。皆が使うとホコリが溜まりにくいのよ」


「なるほど。そういや、街道でもキャンプに利用されてる部分は、雑草とか雑木がなかったりしたな。あんな感じか」


 ノーマの説明を受けて頷いた弘は、この部屋に入ることを決めて皆を呼ぶ。入室後、最初にやったのは、床掃除だ。他パーティーの使用により綺麗だとはいえ、多少はホコリが積もる。寝る時はマントやシートを敷くとしても、やはりそこは気分の問題だった。何より、女性陣が掃除をすると言って、さっさと行動を開始したのである。

 弘は手伝いを申し出たが、彼の怪力を必要とする重量物はないため、カレン達に謝絶されていた。


「すぐ終わりますから。メルさんと、隅の……いえ入口の外で待っててくださいね?」


「カレン様。サワタリ殿に水樽を出していただきましょう。せっかくの屋内ですから、拭き掃除もしておきたいですし」


「それもそうね! さ、サワタリさん~」


 カレンとシルビアの間だけで話が進み、そのカレンが申し訳なさそうに弘を呼ぶ。


「ああ、聞いてたよ。水樽だな?」


 拭き掃除までするのかよ……と思ったが、冒険中に清潔な場所で寝られる機会は少ない。せっかくカレン達がやる気になっているのだ。ここは素直に協力すべきだろう。それに、このまま何もしないでのは何とも居心地が悪かった。


「ええと、水樽~……と」 


 ステータス画面を開いてアイテム欄を呼び出すと、水樽を指定して1樽だけ取り出す。瞬時に出現した水樽は最大直径70センチ。高さは100センチほどのもので、200リットルちょいの容量があった。

 なお、台座とコックを備えた飲料水用の樽を別に数樽購入してあり、一方でこうした雑用に使うための水樽も複数ある。


(何しろ空の樽を買って、共用の井戸で水を詰めただけ。雑用樽にいたっては、途中の川を使ったんな。安くついて良かったぜ)


「手桶も2つ出したから、好きに使ってくれ」


「ありがとうございます! 助かります!」


 手桶を渡すと、カレンとシルビアは嬉々として水くみを始めた。雑巾はどうするのかと思っていたが、剣の手入れ用に所持していたボロ切れを使用している。


「すげぇ気合いの入った掃除だ……。グレースはともかく、ノーマまで……」


 貴族のお嬢様に尼僧。ここまでは雑巾がけしていても、あまり違和感はない。学院や神学院では掃除当番もあるだろうからだ。しかし、エルフと盗賊……もとい偵察士が雑巾がけしている姿は、中々お目にかかれないだろう。

 その様子を、入口から顔だけ出して覗いていたメルが唸る。


「ここまでする必要性を、私は感じないが。女性は綺麗好きだからな。やはり、せっかくの屋内泊なのだし、少しの汚れも気になるのだろう」


「そんなもんすかねぇ。けど美人が4人揃ってケツ振ってるのは、目によろしいっすね」


「うむ」


 男2人で見守っていると、室内掃除は極短時間で終了した。それほど広くない部屋だし、4人がかりともなれば、まさにアッと言う間である。


「サワタリさん、メルさん。もういいですよ」


 カレンに呼ばれて入ってみると、確かに綺麗になっていた。さすがに壁の汚れはそのままだが、床に関しては敷布なしで寝転んでもいいぐらいだ。

 さて、ようやく部屋の中に入ったわけだが、今度はキャンプの準備をしなくてはならない。まず、行うことは結界張りである。

 この場合、僧侶が祈りを込めて浄化した聖水を部屋の四隅にまいて、魔除けの結界を張るという方法が1つ。こうすることで不死系のモンスターが容易に接近できなくなるし、ある程度のモンスター避けになるのだ。

 更に、メルが魔法結界を張る。これは空気や光のみを通す(施術時に内部で居た者の出入りは自由)不可視の魔法壁で、屋外でキャンプする際には虫除けの効果があった。結界の防御力は小石を投げて破れる程度だが、その際にはガラスが割れるような音がして警報にも使える。


「生物相手にはチクッとした痛みを与えるから、気休め程度の牽制にはなるしな」


 メルが杖を振りながら説明してくれた。そう言えば、レクト村事件の際には街道でムーンパーティーと合同キャンプをしたが、あの時も、こうやって結界を張ってくれていたのだろう。

 すべての準備が整うと、ようやくキャンプである。

 床の中央にランタンを設置すると、それを囲むように皆で座った。時間的には夕刻に近いと言ったところで食事をすることになったが、ここでまた弘のアイテム欄が活躍する。

 出発前に購入したパンや干し肉、それに野菜類を取り出して、皆に供したのだ。


「ヒロシの道具を収納する能力は、本当に便利だな。しかも、買ってから相当の時間が経過しているのにパンが硬くなっていない。それどころか、焼きたてだったときのまま、温かいぞ!」


 メルが褒めてくれているが、弘自身、パンが硬くなっていないのは驚きだった。


(買ったパンがいつまでもフカフカで……しかも、熱を保ったままか。今まで非常食ばかり放り込んでたから、気がつかなかったぜ。この分だと、他に買った肉や魚なんかも買ったときのままなんだろうな。てゆうかアイテム欄の中って、どうなってんだ?)


 考えられるのはアイテム欄収納されてる間、中では時間が経過しないという可能性だ。だとすれば、仲間の死体の持ち運びなどが便利になるだろう。なにしろ腐らないのだから。


(今まで気にしたことなかったけど、どれぐらいの大きさの物まで収納できるのか? どれほどの量までなら収納できるのか? その辺も気になってきたな)


 他では、これまで試したことはなかったが、生物を収納できるのかどうかも気になる。仲間全員をアイテム欄に収納して、自分はママチャリないし原付で高速移動。そういうことができれば、ギルド依頼を受けてから現地までの移動時間が短くて済むのだ。


(あとで皆と相談して、モンスター相手に実験してみるか……)


 そういったことを考えながら食事を終えると、いよいよ自分について説明するときがやってきた。

 弘は、ランタンの周囲に集まった仲間達を見回す。入口が右前方に見え、真正面にノーマ。右隣りにカレンとシルビアの順で座り、左隣にはグレースが居る。メルはノーマとグレースの間だ。


「え~と、俺の素性とか話せばいいんだっけ?」 


「できれば、君の力についても頼む」


「ああ、はいはい」


 メルの注文におざなりな返事をした弘は、自分について語り出した。まずは異世界から転移してきたこと。


「日本って国なんだが、俺はこっちの世界で言う平民だな」


「やはり異世界者だったか。その日本という国は、どんな国なのだ?」


 グレースが肩を寄せ気味に聞いてきた。二人きりであれば、自分も肩を寄せにいっていたかも知れないが、今は他メンバーの目もあるので、弘は動かず答えている。


「ん~……こっちの世界と比べたら、科学……カラクリとかが進んでるかな。魔法とかは、たぶん無いと思う。俺が知らないだけかも知れないけどな。ええと、緑が多い国で、グレースが来たら田舎の方は気に入るかも」


「宗教は、どうなのですか?」


「シルビアは、そこが気になるのか。さすが尼さんだぜ。でも、セーキョー分離だったっけか……日本に国教ってのはないかなぁ。仏教とか神道があって……。あとは外国の宗教とかゴチャ混ぜだ。信教の自由とかだっけな」


「それで国として成り立つのですか? にわかには信じられませんが……」


 国をまとめ……そして人々を教え導くために、宗教の力は必要不可欠。そう思っているらしいシルビアが驚いている。


「だって、そうだったんだし。俺の個人的な考えかもしれねーけど。日本人てのは『神様なら取りあえず何でもありがたい』って感じかもな」


「王様……国王陛下は、どういった方なのですか?」


 シルビアの質問が済んだと見たカレンが、怖ず怖ずと手を挙げた。


「日本は国民主権だぜ? こっちの世界には、共和制とか民主制とかあるんだっけ?」


 メルやシルビアが頷いているので、どうやら存在するらしい。


「ふうん。でも、王様って言うなら、ちょい意味合いが違うんだけど天皇陛下だな。日本人の象徴だ! 凄いんだぜ?」


 その後、幾つかの質問を経て、弘の召喚術を説明する番となった。


「本当は……こういうことをベラベラ喋るのは良くないんだろうけど。ここはダンジョンだ。俺が出来ることとか、知っておいて貰った方がいいんだろうな」


 前置きをしてから、弘は実演を交えつつ話し出す。

 自分の能力は、正式な名称は定かでないが武具や道具を召喚すること。他には道具類を収納・取り出しする能力がある。


(レベルアップに関しちゃ黙っておくか。理解して貰えると思えんし……)


 俺は戦う度に、段階的に強さが上昇するんだ……なんて説明をして、「はあ? こいつ何言ってるの?」などと言われるのは嫌だった。召喚術やアイテム収納については実演説明ができるだけに、レベルアップを説明するのは難しいのである。


「召喚品に関しちゃ、俺の意思で品目追加ができねぇな。あるとき突然、追加される感じだし。……こんなところだけど、もういいだろ?」


 さすがに喋りすぎて疲れてきた。

 弘が説明を締めくくると、グレースが手を挙げる。


「サワタリ、お前のような能力者のことを我は聞いたことがあるぞ?」


「マジで? 興味深いな。教えてくれるか?」


 グレースが聞かせてくれたのは、彼女が子供の頃、友好的な関係にあった別氏族の族長から聞いた話だった。


「異世界から来る召喚術士……。他の誰にも教えられず、学ぶことも真似ることもできない……ねぇ。似たようなことをクロムから聞いたな」


「クロムって……闘技場で戦ったレッサードラゴンのこと? 彼と話をしたの?」


 質問したノーマに頷くと、弘はクロムから聞かされた話を皆に説明した。


「この世界の魔法体系から外れた……か。そして召喚魔法ではなく、召喚術。呪文詠唱も魔法陣構築も必要としない、単なる行動手順……召喚するすべ。なるほど……実に興味深い」


 メルが何度も頷いている。その様子を「俺のこと、実験動物みたいにしだすんじゃないだろうな?」と不安になりながら弘が見ていると、シルビアがカレン越しに話しかけてきた。


「サワタリ殿は、この世界で何をするおつもりですか? レッサードラゴンを、他のモンスターと束にして倒せる力で、いったい何を?」


「何を……って、なぁ……」


 そもそも、この世界に来たのは自分の意思によってではない。出現位置だって、夜の山中だった。そんなところに放り出されたものだから、危うく死にかけたのは……今でも思い出せる恐怖体験である。


(誰かの都合で呼び出されたって聞いたら、それでまた腹が立つんだよな。そのせいで死にかけたんだし。見つけたら、やっぱりブン殴ろう……)


 この世界に来たときのことを思い出して、軽くイラッときたが、『何をするつもりか?』という問いに対しては、これという答えが見いだせない。

 当面の目標であった王都見物は先延ばしになっているし、ジュディスに贈答品を……というのは、今現在の行動理由に過ぎないのだ。


「特に目的って、やっぱ無いんだわ」


 暫し黙していた弘は、シルビアを見ながら頬を指で掻いた。


「来たくて来た世界じゃないし、俺を呼んだ奴がどこに居るかわからんとなると、召喚された目的も不明なわけだしな。行動方針としちゃ、あちこち見て回る……くらいか。前に言ったかもだけどな」


 加えて、元の世界に戻るつもりがないことを伝えたところ、シルビアは「そうですか……」と言って質問を終えた。どことなく嬉しそうに見えたが、室内照明がランタン1つなので、気のせいだったかもしれない。


「とまあ、そんなところだ。俺の話はもういいだろ? てゆうか、俺が異世界から来た件についちゃ、誰も『信じられない!』とか言わねーのな?」


 弘の指摘に、皆が顔を見合わせた。

 召喚術やアイテム収納に関しては、魔法のようなものとして解釈して良いと弘は思う。しかし、異世界から来た……という話は、この剣と魔法の世界においても突飛な話だと思うのだが……。


「いや、にわかには信じがたいというのは当然の思いだよ?」


 メルが皆を代表して発言する。


「しかし、君の召喚能力や物品収納は、ここに居る誰もが見たことないものだ。おまけにレッサードラゴンばかりか、エルフのグレースが伝え聞いた話などもある」


 グレースが頷いているのが、視界の端で見えていた。それを確認したのか、メルはグレースに対して頷き話を続けている。 


「今のところ、それが一番説明つく話なのだからしかたがない。疑って否定ばかりしても話が進まないし、ヒロシ・サワタリは『異世界から来た召喚術士』。それでいいじゃないか。それとも……君は私達に対して嘘をついているのかね?」


「いいや。嘘はついてない。……じゃあ、俺の話は終わりってことでいいな?」


 カレン達が頷くのを見て、弘はこのダンジョン探索について話を切り出した。

 今回、ダンジョン内滞在期間を3泊4日、延長期間を5日間と設定している。ここで少し休憩してから第5層を目指し、その先はマッピングしながら下層を目指すのだ。滞在日数が、1日日半ほどになった時点で引き返す。


「戻る方が早いだろうし、行きと同じだけの時間があれば余裕だろ? あと、危なくなったら即撤退だ。俺の期限的には10日程余裕があるし、2回目のアタックで出来るだけ下層まで潜れたら……と、こんな感じだけど、それでいいかな?」


 方針表明はともかく、最後に威厳が足りないかな? と弘は思った。せめてムーンのようにビシッと締めたいのだが、今の自分がやると、どうしても暴走族の集会風になってしまうのである。


(学生時代に部活とかしておけば良かったぜ)


 そうは思えど今更な話だ。

 とにかく、今は自分に出来る精一杯のことをやるだけである。

 仲間達から反対意見が出なかったので、今話したとおりに行動することとして、パーティーは休憩に入った。時間にして鐘1つ分程度……1時間ほど休むものとし、各々入口から離れた場所に移動(ランタンも移動させている)し、寄り添うように座り込む。

 弘の右隣にカレン。左隣にはグレースという配置が定番化しているが、彼女らの感触や甘い体臭に困りつつ、弘は部屋の入口を見ていた。


(野外……街道とかの野営も、アレはアレで緊張感があったけど。薄暗い部屋で、開放状態の入口がある状態ってのも……何だか緊張するな。結界を二十に張ってるってのにな)

 


◇◇◇◇



 休憩を終えた後。パーティーは、第5層……その奥にある第6層の入口を目指して移動を開始した。途中、幾度かモンスターの襲撃があり、ノーマが事前に察知してくれたこともあって、ことごとく撃退に成功している。

 出現したのは、一抱えもあるオオコウモリの集団や、1メートル四方サイズの蜘蛛集団など。いずれも数が多く、通路の広さも相まって取り囲まれそうになったが、その都度、壁を背にして切り抜けていた。

 オオコウモリに対しては、弘のトカレフとノーマの短弓、それにグレースの複合弓が活躍して早々に撃退している。蜘蛛集団に関しては、数の多さからノーマが糸で巻かれそうになったものの、メルの旋風魔法『フウァールウインド』でダメージを与えつつ牽制し、弘とカレンが斬り込んでほとんどの蜘蛛を倒していた。

 他にも出現したが、誰1人として負傷することなくパーティーは第6層入口に到達したのである。

 なお、その時点までに弘は1レベル上昇していた。



名前:沢渡 弘

レベル:28→29

職業 :チャラい不良冒険者

力:94→100

知力:37→40

賢明度:75→78

素早さ:97→100

耐久力:100→104

魅力:65→67

MP:158→175


・ボディアーマー(金属プレート挿入型)

米陸軍のIOTV。

装着時、衣服の上から着込んだ別鎧は一時的に消失し、ボディアーマー消失時に復帰します。

特攻服と併用可能。ただし、肩アーマーは無し。

防御力20。

消費MP20。

召喚持続時間は2時間。

レベルアップによる防御力増大、および別種開放あり



 今回追加された物は、米軍式のボディアーマー……IOTV(Improved Outer Tactical Vest )である。内部のメッシュなども再現されており、通気性は良好とのこと。問題は、銃撃戦を想定して開発されたモノが、剣と魔法の世界で通用するかだが……。


(レベルアップで防御力増大するって解説ウィンドウで書いてあるし、通用するんだろうなぁ。それに特攻服と併用可能って……凄いんじゃねーの?)


 確か召喚品の『安い特攻服』の効果で『特攻服の防御力に、装着防具の防御力を上乗せ可。』というのがあった。闘技場での対クロム戦でも、革鎧の上から特攻服を着ていたし、あの時も防御力は革鎧の2倍になっていたのだろう。

 ボディアーマーの防御力20がどれほどのものか今のところ不明だが、レベルアップが楽しみになる逸品が追加されたことで、弘は嬉しくなった。


(しかし、鉄砲がトカレフなのに、ボディアーマーはアメリカ製か。よくわからん召喚基準だぜ)  


「サワタリ? 何か気になることでもあるのか?」


 後方からグレースが声をかけてくる。思わず肩を揺らした弘であったが、「お、おう。ちょっとな……」とだけ答えて、第6層の入口扉前に立った。

 相変わらず大きな鉄扉であるが、弘の腕力なら造作も開けられることは証明済み。まるでカーテンでも開けるかのように、軽々と……。


 ……ブゥン……。


 風切り音がする。

 それは扉を開けていた弘の頭上から聞こえたものであり、視線を上げたときには眼前にまで何かの影が迫っていた。


「おっ……」


 直撃を避けられるタイミングではなかったが、レベルアップにより向上した『素早さ』が、弘の身体を後方へ弾き飛ばす。


「っとぉ!」


 後でカレンから聞いたところでは、『扉位置に残像が残るほどの速さ』で、弘は後退及び回避に成功していた。


「不意打ちって言うよりか、待ち伏せだったのか」


「ごめんなさい! まるで気配がなかったから!」


 ノーマが謝ったが、扉の隙間から出ているモノ……先程まで弘が立っていた位置に突き立っているモノを見て、さもありなんと弘は判断している。


「そりゃ気配とかないだろうよ。ありゃ生き物じゃねーもの」


 それは巨大な鎌だった。しかし、カマキリの前脚を連想させる形状ではあったが、どう見ても外見が金属質である。その巨大な鎌は、耳障りな金属音を発して床から引き抜かれ、入口の向こう……闇の中へと消えていった。


「逃げた?」


 そう言ったのはシルビアだったが、そうではないことがすぐに判明する。入口の向こうから再び大鎌が……今度は2対出現して、半開きだった引き戸の両側に掛かった。


 ゴギ、ゴギギギギ……。


 重々しい金属音が通路一杯に鳴りひびいている。

 重い鉄扉を4本の腕で開いているのだが、弘達はその様子を若干白けた面持ちで見ていた。


「ヒロシ? この扉は、今までの物より重かったかね?」


「いや、同じくらいだった」


 メルの質問に、そう弘は答えている。

 その鉄扉を、ここへ来るまでの弘は軽々と開けていた。なのに、この入口の向こうに居る存在は、それなりに時間をかけて開いているのだ。 


「俺より腕力がないってことか?」


「かも知れませんけど……油断はしない方がいいです」


「そりゃそうだ」


 カレンの忠告に頷いた弘は、この相手……明らかに敵対的な存在と、戦うかどうかについて考えている。パワーに関しては弘の方が上だろうが、カレンが言ったとおり油断するべきではないし、何をしてくるかが不明だ。

 しかし、6層入口で遭遇するモンスターを倒せないようでは、この先には進めないだろう。 


「パンフで5層まで判明してるってこたぁ、慣れてる冒険者は6層か、その下まで潜ってるって事なんだろうな?」


「たぶんそうね。パンフの地図情報は、誰かがギルドに売り込みにいって掲載されたものでしょうし。その先の地図に関しては、ギルド持ち込みがないだけで各々のパーティーが独自に作成、所有している。進んでるパーティーなら、7層か8層に挑戦してるかも」


 ノーマの言うとおりで間違いないだろうと弘は思った。ならば、この敵は倒して先へ進むべきだろう。残り日数的に先を急ぎたいのもあるが、ここで手こずってるようでは数層下への挑戦など無理な話だ。

 弘は、このダンジョンに入ってからだと3回目の召喚となった日本刀を握りしめ、皆に伝えた。


「よし、やるぞ。あいつが顔を出したら俺が突っ込むから、援護を頼む! カレンは、俺の様子を見て攻撃してくれ!」


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