【番外】「リア充は滅べ!」
視点が変わるので番外とさせていただきます。
「リア充滅べ」
「以下同文」
その日の例会は背中に黒いものを背負った主役達の声で始まった。正確には、司会の挨拶と乾杯の音頭に続く『主役からの一言』がソレだったのだが。
そう、今年の2月14日は、主役が二人いるのだ。
二年連続で『義理』『不憫』と大書されたチョコレートケーキをバースデーケーキとして贈呈された三年生男子と、今年入った一年生女子だ。
一同はその呪いの言葉に引き攣った笑顔で応えた。何しろこの場にはその『リア充』っぷりを隠しもしない人物が座っているのだ。もっともその男は、そんな言葉は耳に入っていないようなのだが。……というか、アレを『リア充』と呼んだら女の子が不憫だろう、という付き合い方しかしてこなかった男なのだが。
「えーと、……いくら一言でも、『以下同文』はないんじゃないかな」
司会はとりあえず『リア充云々』の方はスルーして、簡潔過ぎる『一言』のやり直しを求めた。
「じゃあ、右に同じ」
「いやいやいや、今日はせっかくのお誕生日会なんだから、それらしいことを、ね」
ちなみに友人の証言によると、彼女は毎年一月上旬からこの行事について不平をこぼしているらしい。
「……本日はわざわざお忙しいところおいでいただき、誠にありがとうございます?」
なぜ疑問形。
司会は引き攣った顔になったが、職務を続けた。
「では皆様、しばし料理をご堪能ください」
今日の例会は、よく利用する居酒屋ではなく、駅二つほど離れたメキシコ料理の店だ。そのためいつもより参加人数が少なめだ。
「なんでこの店かと思ったら、あれだったんですねー」
参加者の一人が入口の方に視線を向ける。入り口前の立て看板には『バレンタインフェア』と書かれていた。
テーブルに並べられた料理には、すべてチョコレートまたはカカオが使われている。ただし、その全部が甘くない料理なのだ。
テーブルの端の方では企画を出した男が(といっても、今までの例会も原案はすべてこの男が出していたのだが)等々とチョコレートについての蘊蓄を並べている。
「そもそもチョコレート、というのはアステカ語の『苦い水』というのが語源で、甘くないのが当たり前なんだ。それが甘いものとして広まったのはヨーロッパ人がその苦さを抑えようと砂糖を大量に添加したのが始まりで、そもそもその砂糖もヨーロッパ人がプランテーションで大量に生産できるようになったから……」
……乾杯から間もないのに、何だろう、このハイテンションは。
男の横ではこの例会の影の企画係がいたたまれなさそうな顔で料理をつついている。どうしたのか、と訊ねると、
「おやつに出したチョコレートケーキが、思ったよりアルコールが利いてたらしくて……」と言葉を濁す。彼女の腰には、蘊蓄を垂れ流す男の左手がしっかりと回っている。見ている方も少しいたたまれない。
「リア充滅べ」
上座の方から低い声が聞こえてくる。
「……やっぱり見苦しいよね? だったら責任もって潰すけど。……ああ、潰すのもまずいか。ここいつものとこじゃないし……」
解った、何とかするからお守りよろしく、と言い置いて司会はテーブルから離れる。スマホに保存しておいた例会の流れをチェックし、さらに店員にこの後出てくる料理の確認をする。
可及的速やかに例会を終了する。
そう決心して司会はその後の任務に臨んだ。
視界の努力の甲斐あってか、例会はいつもより十分早くお開きになった。
ちなみに今年のチョコレートケーキ(そこは譲れなかったらしい)の上に書かれた言葉は、無難に『HAPPY BIRTHDAY』だった。
場所を移して開かれた二次会では『リア充滅べ』は聞こえなかった。リア充男は参加していなかったので。
……本編にちょこっと出てきた不憫な後輩の話を書こうとしたのですが……
新たに不憫な人を作ってしまったみたいです。




