8話 鑑定の儀
「鑑定の儀というと……」
「冒険者としての適性やスキルを測定する儀式です。よそのギルドでもやっていることですが。ロッカクさんは冒険者になるのは初めてですか?」
「ええ、まあ。前は遠くの街で商人をやっていたもので。宝玉狼が倒せたのは、まあ、たまたまです」
日本で銀行員をしていた、というのが正確だが、まあ、嘘というほどではない。
一瞬、アリスさんの眼が鋭く光った気がするが、すぐに彼女は微笑んだ。
「では、まずロッカクさんの鑑定からはじめますね。この水晶に手をかざしてみてくださいな」
言われるままに、俺は水晶に手をかざした。
すると水晶が光り輝き、俺の目の前に多くの文字列を浮かび上がらせた。
どうやら、そこに書かれているのが俺の適性のステータスということらしい。
現状の能力値を示すというよりは、将来の成長性を示すとのことだった。
つまり才能ということだ。
アリスさんが横からそれを覗き込み……苦笑した。
「ええと……物理攻撃がCで……あっ、知力がAですね。ほかは……」
俺の適性は、軒並みDかEだった。
アリスさんは言いづらそうにしていたが、俺のステータスはかなり低い部類になるらしい。
特に魔法は攻撃系も回復系も適性が低く、たとえ習っても、まともに使うことは難しい。
「固有スキルは……『食材集め』ですね」
「なんですか、これ?」
「さあ、私も知りませんが……」
まあ、名前からして戦闘に役立つとは思えない。
鑑定結果はギルドで管理するらしい。
アリスさんは書庫から冒険者台帳なるものを取りに行った。
そのあいだに俺はクレハを振り返り、小声で言った。
「クレハ、鑑定されて女神だとバレない?」
「それは大丈夫だと思います。あの……ロッカクさん、鑑定結果なんて気にしてないでくださいね?」
どうやら俺の結果が悪かったことを慰めてくれているらしい。
俺は微笑んだ。
「ありがとう。でも、人選ミスじゃないかな……。どう考えても、俺では魔王を倒せないよ」
「そんなことありません」
クレハはやけにきっぱりと断言した。いつもは気弱な雰囲気なのに、青い瞳には決然とした色が浮かんでいた。
クレハが俺に寄せる信頼は、どこからくるのだろう?
「そうは言っても、俺のステータスの低さを見たよね? 女神のクレハがついているとしても、もっと有望な異世界人がいたんじゃないのかな」
「わたしには……ロッカクさんが必要だったんです。それに……場合によっては、魔王は倒せなくてもいいんです」
「え?」
俺がクレハを見つめると、クレハはなぜか顔を赤くした。
「今のは忘れてください……」
クレハは魔王討伐のために、俺をこの世界に送り込むと言っていた。
そして、魔王の持つ「天の鍵」を手に入れて、願いを叶えるとも。
なのに、いまクレハは魔王を倒せなくても良いと言った。
クレハは何かを隠している。