2話 特典はわたし自身
死んだ俺は、異世界へ転移することができる。
そして、それを司るのは、目の前にいる女子高生女神様だという。
「俺が異世界に転移する理由は?」
「一つ目は深刻な理由です。六角さんが転移する異世界アルカナは、恐るべき魔王ペンドラゴンの侵略の危機にさらされています。わたしたち女神があなたたちを異世界へ贈りこむのは、魔王討伐の勇者となってほしいからです」
「もう一つは?」
「……女の子をかばって死んだ六角さんが、このまま死ぬなんて理不尽ですから」
優しげな微笑みを浮かべ、慈しむようにクレハは言った。
「つまり、このまま死ぬか、異世界に転移するか、どちらかを選べってことだよね?」
「……はい。このまま死んで無の存在になるか、異世界へ転移するか、どちらかです」
俺だって、死なずにすむなら死にたくはない。
そうだとすれば、異世界への転移を選ぶほかないようだった。
死の前の数年間。
俺は自分の存在意義を見つけられなかった。
けれど、異世界では、やり直すことができるかもしれない。
「君の言うとおり、異世界へ行ってみようと思う」
そう言うと、クレハはとても嬉しそうに微笑んだ。
なにがそんなに嬉しいんだろう?
「わかりました。それでは……わたしと契約してください。それが異世界転移の条件ですから。人の子よ、女神クレハの名において、その身をアルカナに捧げ、魔王を討ち果たすことを誓いますか?」
「誓うよ」
俺の言葉にクレハはうなずいた。
そして俺の体が輝き始める。これから異世界に行くということだろう。
「あと、六角さんには転生するにあたって、女神から一つだけ特典を差し上げます」
「特典?」
「はい。手ぶらで異世界に行っても、魔王討伐に苦労することになりますから。強力なスキル、伝説級の武器、頼れる仲間……」
なるほど。
きっと女神の力で、俺に何やらすごいものをくれるらしい。
どんなものがもらえるんだろう?
俺は気になって、少しだけ期待した。
クレハは人差し指を立てた
その頬は少し恥ずかしそうに赤く染まっていた。
「こ、今回は、わたしが六角さんにはとっておきの特典を用意しました」
「とっておき?」
「わ、わたし自身です!」
「へ?」
「六角さんは選ぶことができます。万物を切り裂く聖剣も、あらゆる魔法に適正を持つ大賢者のスキル、他にもたくさん……でも選べるのは一つだけです」
「その選択肢の一つが君自身ということ?」
「はい」
クレハはこくっとうなずき、目を伏せた。
この女神様を連れて行くということのメリットはなんだろうか?
俺は考え始めた。強力なスキルをもらったほうが、安定した異世界生活が送れるのでは?
クレハは俺の考えを読み取ったのか、不安そうに言う。
「わ、わたし……自分で言うのも変ですけど、可愛いと思うんです」
「ええと、それで?」
「その……ろ、六角さんって……わたしみたいな女子高生はタイプじゃないですか? 一緒に暮らしてみたいと思いませんか?」
「い、一緒に暮らす!?」
「は、はい。わたしを選んでください。そうすれば……わたしも異世界に行けるんです。きっと役に立ちますから……」
「異世界の女神様なら、自分で異世界に行くことができそうなものだけれど」
クレハは首をふるふると横に振った。
「ダメ……なんです。わたしはこの天上の空間と、現世の日本に囚われています。それが女神の役割ですから。だから、異世界に行くには……誰かに特典として選んで貰う必要があるんです」
「なるほどね。でも……」
「な、何でもしますから!」
俺は迷ったが、クレハの青い瞳に涙が浮かんでいるのを見て慌てた。
どうしてこの女神様はこんなに必死なのか。
俺は仕方なく、首を縦に振った。
「わかったよ」
「……っ! ありがとうございます! これで決まりですね」
クレハは涙を指先でぬぐい、微笑んだ。
そして、クレハの背の白い羽根が赤く輝く。
次の瞬間には、クレハも俺の体も消えていた。
こうして女神と一緒に、俺は異世界へと転移した。
いよいよ異世界へ。明日も投稿します。
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