カサビアン『ACT III』(2026年)
⚫︎意味より先に跳べ踊れ
カサビアン9枚目のスタジオ・アルバム『ACT III』のレビュー。
カサビアン(KASABIAN)とは…
1990年代後半にイギリス・レスターで結成。2004年の1stアルバム『Kasabian』でデビュー。ダンス・ミュージックのグルーヴにロックンロールの荒々しさ、エレクトロニカの感覚を掛け合わせたサウンドで、UKロックシーンに強烈なインパクトを残した。
2020年にボーカルのトム・ミーガンが脱退。ギター担当だったセルジオ・ピッツォルノがメインボーカルも担当するようになる。結成時から現在までソングライターは基本的にセルジオが担当している。現在のメンバー構成は、ギターボーカル、ベース、ドラム、ギター(キーボードも)の男性4人組。
【収録曲】
1. quiet on set please 1m9
2. SOULMATE
3. Hippie Sunshine
4. SUPERPOWERS
5. GREAT PRETENDER
6. NOTHING BETTER THAN THIS
7. mind palace 2m7
8. SILVER APPLE EYES
9. THE GURU AND THE CRYPTO TIME MACHINE
10. npc 3m12
11. GLIDE
12. HYPER//RISING
13. SAY YOU (CLOSER)
本当は他のアーティストのアルバムについて書くつもりだった。だが、そのアルバムに収められた曲のほとんどは、起承転結ではなく、転転転転の構成。僕も変態であるという自覚はあるが、よっぽどの変態しか高揚しないだろう。自由を感じられるし、誰も経験したことのない航路を切り拓いていくことは尊く思う。また、この音楽性で人気を博しているのがスゴい。だが、やはり一つの曲や歌としての音楽が好きな僕にとっては、ハマれない音楽だった。
そこにきて、このカサビアンの新譜である。フジロッカーやサマソニのお客さんが好きそう。実際に今年のサマソニで日本に来ているし。
リスナーとして僕がお付き合いしているジョージ・ウィリアムズのラジオ番組「RADIO. RADIO. 」(interfm)でかかっていそうだな。ちなみに、「RADIO.RADIO.」は、邦楽も洋楽も、最先端もレジェンドも聴きたい僕が数々のラジオ番組を渉猟してたどり着いたイチ推し番組です。
快楽原則に沿うように往時のオアシスをダンスロックにしたようなキャッチーさ。贅肉を削ぎ落としたアーティスティックなサウンド。一瞬一瞬のパルスにすべてを爆発させる衝動的な力強さ。ブチあがろうぜというバイブスに満ちていて享楽的なビート。ルーツを消化(昇華)しながら素晴らしい音楽が鳴っている。僕がこの記事で冒頭に書いた、とあるアーティストとは違い、ひとつの歌としてのフックがあるし、緩急つけなからリスナーをどうノせるか熟慮を重ねた音楽という気がする。
ところで、南田勝也『オルタナティブロックの社会学』(花伝社、2014年)では、音楽の性質を「精神性」と「身体性」という二つの側面から論じている。(この図書からは有用性のある「精神性」と「身体性」というアイデアを拝借するが、僕が以下に述べることは南田さんの論とは毛色が違う。)
この捉え方にならえば、カサビアンの楽曲はとりわけ身体性に訴えかける音楽だと思う。
しかし、僕自身は、身体性よりも精神性に訴えかける音楽に惹かれる。以下は日本語話者である僕にとって、歌詞を聴き取り、その意味をより深く受け取れる日本語ロックの話になる。
歌詞のメッセージ性を重視してきたBUMP OF CHICKENやRADWIMPSは、精神性に働きかけるバンドの筆頭だろう。彼らの音楽には、音それだけではないサムシングエルスが鳴っている。この系譜には米津玄師もいる。(ただ米津さんは、好きなアーティストではあるものの、深くハマるまでには至らなかった。)僕がファンである神聖かまってちゃんや笹口騒音(うみのてetc.)もまた、身体性より精神性へと強く訴えかける音楽だと思う。
あるいは、精神性は文学性と置き換えることも可能かもしれない。歌詞の言葉の精妙な取り合わせや、心の内から活力がわき起こってくるようなエンパワメント(励まし)。これらは文学性といってよいだろう。僕が高校生のときに聴いた中村一義『ERA』はその最たる名盤だ。精神性に訴えかけるフックがあると、その曲や作品を好きになる。僕は「意味」を渇望している。
ここまで日本語の音楽についてのみ言及してきたが、逆に言語がまったく分からなくても意味性が心に触れるように伝わってくる音楽もある。僕の場合、シガー・ロスがそうだ。アイスランドの誇る、スローで豊かな音楽を鳴らすバンド。アイスランド語と架空の言語「ホープランド語」を歌詞に用いている。ドーパミンではなく、セロトニンがぽたぽた分泌するような、清らかで尊くて涙の音楽は、言葉の理解を必要としない。高貴な精神性が美しく響いている。(『Takk…』というアルバムがオススメなので興味のある方はぜひ!)
もちろん精神性と身体性のハイブリッドな音楽もある。海外のバンドでもGreen Dayの名盤『American Idiot』なんかは、社会への怒りや孤独といった精神的な衝動を、疾走感のあるパンクロックへと昇華した好例だろう。訳を見ながらだが、英語でも意味性を感じ取れる。頭と心を刺激するだけでなく、身体まで突き動かす。その両方が一体となったとき、音楽はより強く輝く生命力を帯びる。
さて、カサビアンの本作を以下に見ていこう。
幕開けの#1「quiet on set please」。本アルバムに収録されている3つのインタールード曲の一つ。彼らの音楽性からすれば、あえてシックな変化球を投げた音楽性の印象。
#2「SOULMATE」。チルと緊張感がせめぎあう不穏で魅惑的な曲。
#3「Hippie Sunshine」歪みのエフェクトを効かしたボーカルの暴力性にグっとくる。
#4「SUPERPOWERS」。妖しげで幻想的な空気をまとったオリエンタルなバイブスが、まだ見ぬ場所へリスナーを連れて行く。
#5「GREAT PRETENDER」。青いというよりは蒼く、淡い音色の軽快なビートがUninhabitable Mansions (アンインハビタブルマンションズ)の極上の音楽を彷彿とさせる。
#6「NOTHING BETTER THAN THIS」。ダーク&妖しげでありつつ、エレクトロとロックを融合する彼らのオハコの音楽性が活きている楽曲。
#7「mind palace 2m7」。36秒の短いインタールード。ここでひと息つく、いい箸休め(と言うのには少々不穏だが)。
#8「SILVER APPLE EYES」。彼らの音楽性の本道からは外れるかもしれないが、僕はメロウで程よくサイケなこの曲が本作で一番好きだし、オススメしたい。
#9「THE GURU AND THE CRYPTO TIME MACHINE」。「グル」(宗教的指導者を指す)という言葉はどこか危うい匂いがする。オウム真理教事件を経験した日本では特にそうだろう。その危うい印象の発露そのままであるこの曲は、精神性(というよりもスピリチュアル?)の曲といえるかもしれない。
またもやインタルードのディープな小品#10「npc 3m12」を挟んで#11「GLIDE」へ。3分45秒のサイケでトリッピーな旅路。
#12「HYPER//RISING」。冒頭からのゴリゴリしたビートが至高。ライブでこれ聴いたら一発昇天だな。
クロージングの#13「SAY YOU (CLOSER)」。切実な歌ものであり、この曲で一枚のアルバムが終わるのは後ろ髪を引かれる思いがする。
以上13曲、身体性の快楽をむさぼるように聴いているだけで楽しい。「聴く」というより「浴びる」タイプな楽曲が多く、理屈より先に身体を動かす、カサビアンの身体性が濃縮されている。
しかし、身体性だろうが、精神性だろうが、優れている作品はどれもアートなのだ。カサビアンはサウンドのデザインがソリッドな尖塔的で美しい。頭に稲妻が走り、胸に火花が散り、足は勝手に踊りだす。ザクザクとした触感のダンスビートは、心の扉を鮮烈にノックするアートだと思うし、僕も心置きなくノックアウトされた。今後も活躍を続けてほしい。
Score 8.2/10.0




