庭の桜
なんかいろいろある話。
「興味ないんですよ」
そう、奴は言った。
「それがいったい何であったとしても」
―――綺麗だ、ということには変わりありませんから。
理解できない。
理解できないし、したくない。
……そんなものは、したくない。
だが、俺は気付いているのだ、嫌悪感だけでなく。
確かに、思っていた。
理解したくない、と言うことは。
つまるところ、同じように感じていたと言うことだった。
それでも、俺は理解できない。
アレ、を綺麗だとなぜ、言えるのか。
ためらわずに屈託もなく、純粋なまでに、どうしてそうも言い切れるのか。
あれは結局のところ。
―――奴の家の庭には……桜の木があった。
咲いた姿は今まで一度も見たことがなく、それを知ったのは偶然だった。
とても、鮮やかな桃色の桜。
その桜は決まった日の夜にしか咲かないのだ、と。
俺達はその時、知ったのだった。
確かに、桜は美しかった。
だけど、それよりも驚くべきは、その下に佇む、切なそうな影と。
桜の花びらと共に舞う、いくつかの明かりのようなもの。
その幻想的な魅惑の情景を見て。
なによりも綺麗だと、奴は言った。
そうだ、影は女のように見えたのだった。
誰かを待つかのように、桜を、夜空を見上げていた。
愛しい人を待つように。
春になると、現れる。
俺は確かにその横顔を、綺麗だと思ったのだ。儚げな、切なげな、横顔を。
例え、その愛しい人に殺されて、そこに埋められたのだとしても。
奴は言ったのだ、アレは祖父の愛人だったのだ、と。
祖父の妻である女の、……実の弟だったのだと。
そこになにがあったのかは知らないが。
奴は、それを愛おしげに、綺麗だ、と言ったのだった。
理解したくなかったが、そう躊躇わずに言った奴のことを。
俺は綺麗だ、と思っていたんだ。
幽霊って見たらたぶん、怖いくらいにきれいなんじゃないかと。
それを見て、きれいって躊躇うことなく言える人も、怖いくらいもきれいなんじゃないかと?