EP12 終幕
宮内が中村橋のスーパーで日常に紛れていった、その一週間後のさらに数日後のことだった。哲平のスマホが鳴り続けた。皇道一新会の公式サイトに、声明文が掲載されたという通知だった。
『我々、皇道一新会は、本年二月二十六日に発生した一連の事象に、思想的かつ行動的に深く関与したことをここに宣言する。これは単なる犯罪ではない。資本主義に魂を売り渡した戦後体制への、正当な蹶起である――』
「親父、何やってんですか!」
哲平が電話越しに怒鳴る。「約束、破ったんですか」
鷲尾の声は、落ち着いていた。
「具体的なことは何も書いてない。誰がハックしたか、誰が殺ったかは一言も触れてない。俺たちが『思想的に関与した』と言っているだけだ」
「それでも、目をつけられるでしょうが」
「目をつけられるのは、俺一人だ。お前らの名前は出てない」
鷲尾は静かに続けた。
「二・二六の青年将校たちは、結局誰にも自分たちの正義を語らせてもらえなかった。蹶起趣意書は握りつぶされて、ただの反乱者として処理された。……俺は、それを繰り返したくない」
「あんたの歴史の話に、俺たちまで付き合わされてるんですよ」
「悪いとは思ってる。だが、これは譲れない」
通話が切れた。
声明文は瞬く間に拡散した。『#令和の鼠小僧』のタグと結びつき、皇道一新会への支持と批判が同時に噴き上がった。
三日後、鷲尾は内乱容疑で逮捕された。テレビは『過激右翼団体総裁、テロ関与を自称し逮捕』と報じた。
宮内は無言でニュースを見ていた。
「……あの人、本当に喋らないと思います?」哲平が訊く。
「分からない。だが、もし喋れば、もうここまで言ってる」
宮内は鷲尾の声明文の最後の一文を、画面に表示させた。
『たとえ私一人が全てを背負うことになろうとも、共に動いた者たちの名は、決して口にしない』
二週間後、鷲尾は証拠不十分で釈放された。
釈放後の記者会見で、彼は一言だけ口にした。
「またやる。次は誰も止められない」
同じ日の夕方、警視庁サイバー犯罪対策課。
桜井澪は、自分のデスクの引き出しの奥から、古びたメモを取り出した。
『新城警視のIDでのアクセス記録、再確認時に内容が変わっていた。これは記録の改ざんか、自分の見間違いか』
あの日から、新城のログは一度も同じ顔を見せていない。課長に「記憶とメモでは話にならん」と言われたあの一件以来、桜井はこの話を誰にも持ち出していなかった。
テレビには、鷲尾の記者会見の様子が繰り返し流れている。
「またやる。次は誰も止められない」
桜井はその顔を、画面越しにじっと見つめた。鷲尾兼一という男そのものではなく、その背後にまだ形を持たずに横たわっている、何かの繋がりを探すような目だった。
彼女はメモをノートに挟み直し、引き出しを静かに閉めた。
その言葉は、その日のうちにニュースの見出しになった。だが、それが本当に何を意味するのか、新城も、宮内も、哲平も、確かめることはできなかった。




