出会ってしまった
ザァァアアアア……。
寄せては返す波の音、遠くに聞こえる蝉の声に、美しさまで感じる。それに、懐かしい歌声が聞こえる気がする。
目を開けると、高層ビルの屋上に私は立っていた。どこまでも広がる碧海を遮るものなど何もなかった。胸を占めていた苦しさも、詰まっていた気持ち悪さも、スーッと抜けていくのを感じる。
心地がいい。
深く息を吸って、ゆっくりと息を吐きだす。それだけで、沈んでいた何かが消えた様な感覚がした。どこからか聞こえてくる歌声も言いようのない心地よさがあって、波の音と交る瞬間を幾度も記憶に焼き付けた。
気分が落ち着き、私はこの海がどれくらい深いのか、気になった。
もし、深海があるなら、そこまで潜ってみたいとも思った。
夏の輝く日差しを受けて、ビルの縁へと歩いて行く。そっと目の前に広がる海に触れてみる。水面に映る自分を掻き消して、底へと視線を落とす。
薄付きだった色がだんだんと濃くなっていく。
その先に、青年が見えた。
魚一匹いない深海の中、ただ佇んでいる。この夢では海の中で呼吸が出来るのか、と。
気が付けば、手を伸ばしていた。
意図ぜずに、この身を海に投げていた。
バシャッ。
徐々に深度を落としていく。青から群青へ変わる水の色。泡は上へ上へと昇っていくのに、苦しくない。寧ろ、静かで落ち着く。
世界が私を包み込んでいるみたい。
最初は僅かに見るr程度だった青年の姿も、鮮明に見える。
揺らめく髪も、驚いている表情も、なにかを呟いているのも、ハッキリと見える。
だが、音は届かない。
彼が何と言っているのか聞こえない、私には読唇術なんてものはない、だから、なんといっているのかは分からない。
なんとなく、なんとなく。彼に近づいて、焦りにも見える表情がより見えて、私は両手を伸ばした。
まるで、受け止めてと言うみたいに。
自分がその時どんな表情をしていたのかはわからない。でも、宙ぶらりんだった腕は優しく掴まれた。
名前も知らない彼によって、水底のアスファルトに足を下ろす。
僅かな土が、舞い上がる。
並び立つと、彼の背がどれだけ高いか、よく分かる。180半ばだろうか、現実よりも高く設定する事が出来ないここでこれだけ高いという事は、向こうでもきっと高身長なのだろう。自分が小人のように思えて仕方がなかった。
今まで掴んでいた手を離す彼。こちらを見る瞳は神秘的なのに、影を落としていた。
「君は、誰?」




