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77話 虹色の、純白な天使 Part.2


 

 それは、ずっとずっと昔のこと。

 またインターネットや、機械なんてものも無くて、人々が身を寄せ合い、自然と共に生きていた時代。


 その時の天使は、人を狂わせる虹の光を纏ってはいなくて、頭に天使の輪が優しく光っていた。

 でも、()()()()()()()とは違う異質さに恐れられて、いつも孤独で。

(彼も、元は人間と呼ばれる存在だったのに)


 だけど、たった一人だけ。

 彼を一人の人間として、対等に接してくれる友がいた。





 籠を抱えた少女が、森の中を駆けていく。

 彼女は弾むような足取りで快活に道を駆けていき、やがてひときわ大きな木の元にたどり着くと、叫んだ。


「ねーーえーー!! いるんでしょーー!」


 息を大きく吸い込むと、彼女は再び叫ぶ。


「エーウグーリオー!!!」


「……うるっさいなあ……」

「今日はお菓子持ってきたのー! 降りてきてよー!」


 騒ぎ立てる少女の元に、何者かが木の上から舞い降りる。


 それは、六枚の純白の翼を大きく広げた天使――エウグリオだった。


 音もなく降り立ち、六翼をゆっくりと畳むと、()()の瞳で静かに彼女を見下ろす。

 まるで足元の小さな羽虫を眺めるような、冷徹な目線だった。

 

 だが、そんな彼に臆すること無く、少女は太陽のような笑顔を向けつつ、「はい!」と良い香りのする籠を差し出す。


「食べて! あたし頑張ったんだから!」

「……リィナ。まえにもいったけど、ぼくは、にんげんの食料なんかじゃ……」

「いーから! はい! 食べて食べて!」


 無理矢理渡された焼き菓子をつまむと、エウグリオは渋々口に運んだ。


「ね! おいしい!? おいしい!?」

「おいしいけどさ。ぼくはにんげんの命……“赤い実(あかいみ)”しか、おなかにたまんないんだからムダだよ」

「でもおいしいんでしょ? ならいーじゃん!」

「ごういんだなぁ」


 傍若無人な少女に呆れたような表情を見せるエウグリオ。


「そんならさ……」


 エウグリオは自分の翼から羽根を一枚抜き取る。

 そして、まるで温めるように手で覆った後、白く光り始めたそれを「ほら」と少女へ差し出した。


「みたい夢、ないの? これたべたら、すきな夢がみられるよ?」

「いらなーい!」

「あっそ。つまんないの。おとなたちならすぐ飛びつくのに」


 エウグリオが羽根を握り潰すと、羽根は光の粒子となって飛び散っていく。


「じゃあ大人たちにいっぱいあげればいいじゃん!」

「やだよ。ひとりに一枚しかあげちゃいけないし、調節もめんどうだし」

「調節?」

「そうだよ」


 エウグリオはもう一度羽根を抜き取ると、今度はそのままリィナに見せる。

 その羽根は、先ほど彼が差し出した羽根とは違い、なんとも魅惑的な虹色の光を纏っていた。


「わあ……さっきと全然ちがうね! 凄く綺麗……!」

「さわっちゃだめだよ。この状態だと、いのちを限界まですいとっちゃうんだってさ。だから、こうして……」


 彼が手をかざすと、虹色の光が薄れ、白く優しい光へと変わっていく。


「しろくしてからじゃないと」

「わあ……! すごいね! でも、虹色のまんまだとどうなるの?」

「わかんないけど、きっと死んじゃうんじゃない。まあ、かわりにぼくにはおっきな“赤い実”がてにはいりそうだけどね。……ほら、どう?」


 エウグリオはくすくすと笑いながら、ふざけた様子でリィナに羽根を突き付ける。


「いらないってば! あたしはエウグリオみたいに、いーっぱい生きるんだから!」

「むりにきまってんじゃん。ぼくは“不老不死”ってやつなんだから」

「無理じゃないもん! 好き嫌いしないでご飯も食べて、いっぱい寝たら出来るって言ってたもん!」


 恐らく大人達が言った、適当な戯言だろう。

 リィナの言葉に、エウグリオは「なにそれ」とからかうように笑う。


「そうしたらね、エウグリオともずーっと、いーーっぱい遊んであげるから!」


「……ふぅん……きたいしないでまってるね」

 

 照れ隠しか、お菓子をもうひとつ摘みながら、満更でもない様子で彼は言った。


「エウグリオも、普通のご飯でお腹いっぱいになれたら良いのにね〜」

「しかたないよ」


 手で自らの羽根をくるくると弄びながら、彼は笑う。


「夢をみせるかわりに、ほかのいきもののいのちをもらって生きてきた。それがぼくたちだから」


 そういって微笑む彼は、絵画に描かれるような清らかな天使そのものだった。



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