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12話 “A班”



「おいおい、キリ!! ルナガル見たか!?」

「なんだい?」

「ほら、これ! 今日、新しい対策部員がうちに来るんだってさ!」

「へえ……」

「あんまり興味無さそうだな~!」

「無い訳じゃあないけどねぇ。その興味よか、不安のが大きくてね」

「オレはひたすらに楽しみだぜ!」

「イクスはポジティブだねぇ」

「今日はご馳走だろうしな~! んじゃ、そろそろ引き上げるか!」

「そうだねぇ」





 シウは、ディオにも手伝ってもらいながら、荷物を開けていた。


「どうしても嫌なら、本部に掛け合ってみるが」

「いいよぅ……後、別に嫌なワケじゃなくて……」

「……?」

「なんでもない! ともかく! あたしが着替える時は外出ててね!」

「分かった」

「あっ、ディオも着替える時言ってよね! あたし外出るから!」

「カーテンがあるのだから、気にしなくても良いのでは無いか?」

「いや、だめだめ!」

「別に俺は構わないのだが」

「なんか言った!?」

「……何も言っていない」


 部屋は、相部屋にしてはそこそこ広くスペースがとられている。 

 設備は、ベッドがそれぞれ1つずつと、その脇にサイドテーブル、窓際にはデスク。

 部屋の真ん中には、仕切り代わりの厚いカーテンが2枚ひかれており、大きな窓にもそれぞれ用に区切られたカーテンが用意されていた。


「もし、入りきらない物があれば、倉庫も使って良いそうだ」

「わかった~」


 言いながらディオがシウを見ると、いつの間に持ち込んだのか、彼女は大きな白いウサギのぬいぐるみを配置しているところだった。

 最初はデスクの上に置こうとしていたが、あまりにも大きいために置けず、色々悩んだ末に結局ベッドの上に配置された。


「それ、要るか……?」

「いる!」

「あの荷物の何処に入れていたんだ、そんなもの……」


 そうこうしている内に、こんこん、と扉がノックされる。


「シウ、ディオ、ちょっと良い?」


 セイヤの声だ。

 シウが「いいよー」と返事をすると、セイヤがドアを開き中を覗き込んでくる。


「シウ、見回り中でいないって言ってた後の二人なんだけどさ、もう少ししたら帰ってくるみたいなんだ。そうしたら顔合わせてもらっても良いかな?」

「だいじょぶだよ」

「ありがとう! じゃあ、切りの良い所でリビング集合でよろしくね」

「はーい」


 セイヤはにこりと微笑むと、ひらひらと手を振りながら扉を閉めた。


「後の二人かぁ。ディオ、どんな人なの?」

「そうだな……エクスナーは女性で、知的で落ち着いた印象を受ける。静かな場所を好むみたいで、よく自室や外で本を読んでいるのを見かけるな」

「へぇ~」

「アテンダントは……まあ、何と言うか」


 ディオは眉間に皺をよせ、言葉を濁す。


「やばいの?」

「いや、全く悪い奴では無い、がな……まあ、会えば分かる」


 あらかた荷物整頓が終わり、二人がリビングに降りていくと、既に例の二人が帰っているらしく話し声が聞こえた。


 こっそり中を覗くと、そこにはセイヤと、先ほどはいなかった眼鏡をかけた黒髪の知的な雰囲気の女性、そして上機嫌で話す長い銀髪の背の高い男性がいた。

 どちらも20代前半くらいに見え、ファースト社の制服を着ている事から、見回りに行っていた二人とは彼らで間違いないだろう。


「こ、こんばんは……」


 シウは恐る恐るリビングのドアを開ける。

 その途端、銀髪の男性がこちらを振り向き、少々吊り目がちなその赤い瞳を見開いて、ぱっと笑顔になった。


「おおおお、噂の新しいエクスナーちゃん!? ようこそA班へ!! 」

「あ、ど、どうも……」

「うわー!! 女の子じゃないか!! オレ、アテンダントのイクス! よろしくなー!!」


 思っていた反応と違って圧倒されるシウに、イクスは駆け寄っていき、強制的に両手を握って握手をする。


「よろ、しくお願いします、あ、あの、あたしは」

「ふわー! テンション上がるぜ! なんか分からない事とかあったら遠慮せずに聞いてな!?」

「あ、ありがとうございます、あたしの名前は」

「いやいやとんでもない! むしろ大歓迎だぜ!!」

「あ、あはは」

「おい、イクス!」


 見かねたセイヤが制止するが、イクスは構わず話し続ける。


「寮なんて初めてだろ! 寂しくないか?」

「い、いや、あの、そんなでも」

「イクス! それ位にしとかないと、キリが」

「そうかー! もし寂しかったら言ってくれればすぐオレがあおぉんっ!!!!」


 イクスの脳天に分厚い本が打ち付けられ、ゴッ、と、にぶい音が響いた。

 イクスは床に倒れ込み、そのまま頭を押さえてのたうち回り、セイヤが「あーあ……」と呆れたように手で顔を覆った。


「うちの馬鹿が驚かせて申し訳ないねぇ。テンションが上がり過ぎてしまったようさね」


 黒髪の女性が分厚いハードカバーの本を片手に微笑んだ。

 ボブカットにされた艶やかな黒髪がさらりと流れ、黒曜のような瞳が眼鏡の奥から覗く。


「うちはエクスナーのキリ。イクスはパートナーなんだ。見ての通りうるっさいけど、悪い奴では無いからさ。うち共々宜しくしてやってくれると嬉しいねぇ」

「あっ、の、え、エクスナーのシウです。こちらこそよろしくお願いします……!」


 キリが差し出した手を、シウは握り返す。

 やっと名前を告げられたことに、内心ほっとしたシウだった。


「もしかして、ディオがパートナーなのかい?」

「ああ。改めて宜しく頼む」

「それは頼もしいねぇ。よろしく頼むよ」


 言葉を交わす二人を後目に、シウが床に倒れ込むイクスを心配そうに見ていた。


「あの、セイヤ。コレ大丈夫なの?」

「いつもの事だから心配しなくていいよ」

「あ、うん」


 しばらく悶絶していたイクスだが、やがて頭を押さえたまま起きあがった。


「おー……いてぇ……」

「ほらイクス、改めてちゃんと挨拶しな」

「キリちゃんのパートナーのイクスでございます……よろしくな~」

「エクスナーのシウです。よ、よろしくお願いします……」


 自己紹介を終えたところで二人は着替えの為に自室へ戻り、その後はナスカも交え、六人での夕飯となった。

 大きめのテーブルに、男女で別れて向かい合わせで座る形になり、次々と準備が進められていく。


 驚いたのが出された料理の量だった。


 肉汁をたっぷりと含んだ見事なピンク色のローストビーフから始まり、真っ白いチーズと完熟トマトに新鮮なバジルの葉が乗せられたカプレーゼや、花の形に整えられた生ハムが乗せられた色鮮やかなサラダや、何か色々乗せられたクラッカーやなんか刺身が乗せられた何か等々……シウが見た事すら無い料理も並んでいる。

 もちろん、どれもみるからに美味しそうなものばかりだ。

 次々に運び込まれる鮮やかな料理達で、大きめなテーブルの上が埋まっていく。


「急だったのでありあわせですけど~……」


 と、申し訳無さそうに言うナスカに、シウは思わずぽかんと口を開けっ放しにしてしまう。


 ありあわせ、とは?


 思わず、隣に座るキリに話しかけた。


「あの……キリ、さん」

「なんだい?」

「ここって、ここの食事って、コレが普通なんですか?」


 コレ、と料理を示すシウに、キリが笑う。


「いやいや? 今日はキミ達のお祝いだからだと思うさね」

「おいわい……」

「そうだよ! 仲間が増えた特別な日だからね」


 セイヤがグラスを配りながら言った。


「シウは何飲む?」

「あ、えと、あ、そのウーロン茶で」

「俺も同じ物を」

「オレは呑ーむぞー!」

「程々にしときなね、イクス」

「セイヤさーん、ごめんなさい~! さっき運んで貰った料理、ソースをお掛けするのを忘れてました~!」

「あっ、今持って行くよ!」


 同じテーブルを取り囲み、笑みを見せる彼らを見て、思わずシウの口元も緩む。 

 騒がしくはあるが、決して嫌ではない。

 こうして誰かと食卓を囲むのは、久しぶりな気がした。


 「みんな飲み物行き渡ったね。じゃ、乾杯しよー!」

「お~」


 セイヤが立ち上がる。

 他の皆もそれに続き、シウもそれを見て慌てて立ち上がった。


「それじゃあ、シウとディオの正式加入を祝って」


「「「かんぱーい!!」」」


 6個のグラスが打ち鳴らされ、暖かく、賑やかな時間が始まった。


 こうして、A班としての初めての夜は更けていった。


 

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