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エルタニア大陸物語  作者: 岸本ひろあき
ラクスアン王国編~光と闇の祝福狂想曲
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第六話(下)


――王子が股間を蹴り上げられるという、長い王族の歴史の中でも例を見ない珍事から、4年余り――



 俺はその間、想定外での魔女ヒルデの出現を警戒しつつ、穏便に王家の籍を抜ける為の計画――うつけ者を演じていた。

 王籍を抜ける理由は、邪神の徒に選ばれた者が王族でいるのはあまりにもリスキーだからだ。


 何故なら王族はまず間違いなく、邪神の神託など受けない。


 その理由はラクスアン王家が奉ずる神、戦女神グレーグレイブのとても強い加護を、王族はもれなく受けているからだ。

 これは他国であっても奉ずる神が違うだけで同じで、強力な加護があるからこその王家であり、どこの王族も邪神からの神託など受け付けない。


 それが受けたのだ。

 ガチの世界クラスのニュースになる大醜聞である。


 何故そんなことが起こったかは、神ならざる人の身の俺には知りようもない。

 だが何となくだが、俺が前世の記憶を持つという異質の存在だから、というのが理由のような気がする。


 ともあれ、またいつ何時、邪神の神託を受けるかは、すべて邪神の御心のままにだ。そんな事実がバレた時、醜聞が悪すぎて多くの臣民の王家離れを招きかねない。さりとてそれを父上や母上に伝えて内々に対処する、という手段も憚れた。


 何故かというと、神託を受けた者は1~2年くらいの間だが、特殊な神気を帯び、神官であれば一目で神の声を聞いたのだと看破できるそうだ。ところが俺は、あの時にメリエナ嬢に抱き着いたことで神気が吹き飛んでいる。


 邪神のお気に入りであるという証明が不可能なのだ。

 流石に、証拠もなしに語れる内容ではない。普通に、邪教徒に目覚めた気狂いかと思われる。問答無用で毒杯ものである。


 となれば一人で魔女ヒルデの対処と王籍降下の活動をしなければならないのだが……しかしながら自分で選んだ道とはいえ、内心どうしたものかと苦慮していた。


 だがそんな中、まだまだ運の女神は俺を見捨てていない、と思える出来事があった。

 まさしく言葉通り、一蓮托生の仲間が出来たのだ。


 第三騎士団団長の三男ウォング・ガランドールと宰相の次男ニック・ベイルードの二人だ。


 彼らは俺が5才の頃に将来の側近候補として引き合わされ、相性も良かったので側近に内定しその後も順調に信頼関係を築き続けた莫逆の友だ。


 そんな彼らだ、10才を境に急におかしくなった俺の異常行動に、違和感を覚えない筈がない。すぐさま問い質された。


 当初、俺は彼らを巻き込むつもりなど毛頭もなかった。

 俺の計画に付き合うということは、世間から冷遇され出世の目がなくなるのと同義だ。将来有望な彼らの未来を潰すのは忍びなかった。

 そういう訳で、のらりくらりすっとぼけていたのだが、ついにはウォングに涙ながらに懇願されてしまった。


『俺は貴方の盾になることしかできない木偶でくの坊だ。だがそんな俺でも、貴方が一命を賭してわざと自分の評価を下げどこかに行こう・・・・・・・としているのは分かる。何故、俺たちに何も言わずそんな真似をするんだ。俺たちはそんなにも頼りないのか。話す価値もないのか。頼む、教えてくれグリアス』


 ウォングは俺の三つ年上ということもあって昔から頼れる兄貴分で、将来は間違いなく騎士になれる能力を持つ優秀な男だ。

 そんな礼節を知る彼が涙ながらに、主と認めた人物を呼び捨てにする。

 それだけの無礼を働いてでも、教えてくれと懇願するのだ。


 更に傍にいたニックも腹を決めた顔つきで口を開いた。


『グリアス様。僕には貴方が確固たる意志の元、計画的に破滅しようとしているとしか思えないのです。ならば真意は求めません。ただ命じて下さい。計画を手伝えと』


 俺は目頭を押さえ、暫しの沈黙の後、決断した。

 彼らの目が、頼ってくれないなら首を掻っ切って自死する、と言わんばかりに力強くギラついていたからだ。

 友にそれだけの覚悟を見せつけられたのだ。



――ならば是非もなし。



 前世のことも含め俺の抱える問題も、王国はこのままだと属国か滅亡か、どちらかの末路を辿る可能性があるということも、すべて洗いざらい伝えた。


 二人はとんでもない内容に当初戸惑ったが、原作知識がなければ知りようもない情報を伝えれば各々なりに内容を咀嚼し信じてくれた。そして俺の計画に全面的に協力してくれることになった。


 そういう訳で、家族含め各方面に迷惑を掛け申し訳ないと思いながも、うつけ者を――メリエナ嬢に執拗に執着するストーカー役を演じることに成功していた。


 これも偏に、二人の協力があってのことだ。

 感謝しかない。

 しかし原作にもゲームにもなかった予想外のことが起こった。


 ラミアーナ嬢との婚約である。14になっても脈がないメリエナ嬢に執着する俺に対してついに母上の堪忍袋の緒が切れたのだ。これが飲めないなら、今すぐ王籍降下させるし、お前が希望する伝統あるグリューグエン王立学院に行かせるなど王家の恥、別の学び舎に行かせると宣言されたのだ。


 やることやって王籍降下は別に構わないが、まだ志半ば。

 ヒルデ嬢と出会う為にも、王立学院に入学できないのは困る。

 渋々、話を受けラミアーナ嬢と婚約した。だが彼女を俺の計画的破滅に突き合わせる訳にはいかない。だが計画は話せないので致し方なく拒絶することで遠ざけることにする。しかしながらその際の話し合いは、心無い言葉で傷つけるもので本当に申し訳ないことをした。詫びにもならないが、彼女が婚約者と寄りを戻せるよう、何とか取り計らわなければならない。



 ◇ ◆ ◇



 そうして15になった。

 王立学院自体は特に問題なく入学できた。

 だがラミアーナ嬢の件といい、年々仲が冷え込んでくる家族との仲といい、なんだか生きれば生きるほど、気苦労という名の荷が重くなってきている。自分が望んだ道とはいえ近頃は胃薬が手放せない。


 そんな中、ついにヒルデ嬢と出会いを果たした。


 そして思った。


 あれ? この子、めっちゃ普通だ……むしろすごくいい子だ。


 確信を得る為、俺はかなり強引にだが茶に誘い、ニックに密かに探らせたところ、胸元からかなり希薄だが特殊な波動を放つ魔石の存在を感じたそうだ。

 非常に高度な魔術式で隠蔽されていたが、お家の格に恥じぬ秀才のニックが2か月近く奮闘して調べた結果、家宝と言っても信じられるほど途轍もなく強い未知の波動を放つ、希少な魔石であるということが判明した。

 その大仰な魔石の存在からも、恐らく、それによって魅了の力を封印しているのではないか、との見解だった。


 俺は肩の荷が下りる気分だった。


 ヒルデ嬢に何があって原作と乖離した性格になったかは知る由もない。だがそれを調べようとも思わなかった。王国が平穏ならば何でも良かった。



 一つの仕事が終わった。



 さて、それでは次に……ラミアーナ嬢を呪縛から解き放たなければ。


 後で可能な限り便宜を図るからすまん、と心の中で謝罪しつつ、周りから見れば謎に付きまとっていたヒルデ嬢との関係を利用して、真実の愛などという虫唾が走る噂を流すことにする。


 ラミアーナ嬢とは冷め切った関係にありながら婚約を白紙にせず、メリエナ嬢には相も変わらず贈り物を送り続けるという厚顔無恥な行いをしているのに関わらず、である。


 とんだうつけ者、婚約破棄も辞さない、まさに王家の恥さらしである。


 なかなかどうして、地に落ちた名声を更に地面にめり込ませる行いだ。これには母上もガチギレ間近であろうと算段を付けつつ、ラミアーナ嬢の元婚約者とどう寄りを戻させるか、二人で試案していた――のだが。残念なことにそこで出た結論が、我々では評判が悪すぎて周りを頼れず、上手い算段が付けられないという悲しい結論だった。


 これはもう、俺の瑕疵でさっさと婚約解消して、寄りを戻す方策は母上に丸投げすることにした。

 年が近く格が釣り合って都合の良い派閥の子、という難しい注文に該当するのがラミアーナ嬢しかおらず、破局させてまで婚約を組んだのだが、母上も強引にし過ぎたという後ろめたさはある模様だったので、遠慮なく俺のケツを拭いてい頂こう。



 そうして迎えた夏季休暇。

 王立学院の生徒は例外なく全員、寮生活である。

 という訳で久々の帰省だったのだが、帰ってすぐさま、近頃の行いの酷さを家族全員から吊るし上げられ、父上からも母上からも次はない、という大変嬉しい最後通牒まで受けた。家族からの苦言は心苦しかったが、両親からの最後通牒だけは朗報で久々にぐっすりと眠れた。


 それ以外は特に問題なく、夏季休暇が明け、9月早々。


 久々にヒルデ嬢にちょっかいを掛けに行くと、そこにはファウホーン家のレインス君が寄り添っていた。しかも二人の雰囲気はとてもいい感じである。


 あらあらあらあら? おやおやおやおや??


 俺はにやにやしそうになる顔を必死なって取り繕う。傍にいたニック曰く、その時の顔はいい感じに屈辱にまみれた顔付きになっていたそうだ。


 そして顔を歪めながら二人の仲を問い質した。


 するとなんと、

『婚約を前提にお付き合いしているから、これ以上僕の大切な人に近寄るのは止めろ。もしそれを無視するというなら王家との争いも辞さない』

 という、とても目出度い報告であった。


 とても有り難いことだった。

 真実の愛とかいう俺の世迷言の後始末を片付けてくれるのだ。その分と今までの迷惑料も兼ねて、俺の全財産の半分くらい熨斗につけて祝福したいところだったが、それはまだ早い。そう遠くない未来で支払うラミアーナ嬢への慰謝料の件がある。


 そそくさと三下っぽく退散する。


 とりあえずヒルデ嬢に関しては、レインス君のガチ守護もあるので、ちょっかいを掛けるのも噂を流すのも終わりとする。これ以上の迷惑行為を続けなくとも俺の評価は地に落ちているしね。それに何より、流石に本気になったファウホーン家との喧嘩はシャレにならん。内乱が勃発しかねない。


 そして後の算段であるが、9月の王宮交流会だ。


 こちらに関しては大人しくする手筈である。理由はここでのやらかしは、流石に失態が大きすぎて自分だけの責任に留まらず、父上は勿論、母上まで大きな非難を受ける。

 そして次年度の9月開催の王宮披露会。ここも大人しくする。もしやらかすと当然ながら交流会の比ではない責任問題が待っている。


 そしてその間に、徐々に成績を落とし、ついには王立学院を落第するという個人的な大失態を作り、俺の瑕疵による婚約破棄と王籍降下を計画していた。

 つまり9月の交流会が終われば、向こう一年間は比較的のんびり過ごせ、翌年の王宮披露会を乗り切ると消化試合のような気楽な状況になる、ということだ。



 ようやっと、本当に、ようやっと、終わりが見えてきた。

 俺は久々に胃薬を飲まずに、ぐっすり眠りにつくことが出来た。



 ◇ ◆ ◇



――そして9月下旬。王宮交流会にて。



 煌びやかなシャンデリア。

 美しく磨かれた床。

 心地よい旋律の音楽。

 凛々しく胸を張った男子。

 見目麗しく磨き抜かれた女子。



 そんな晴れやかな催しで。


 戦慄が走る。


 ホールに突如、刀身の側面に神代文字が刻まれた壮麗な剣が生え、その場にいた全員に神託が降りた。



貴族たたかうものたちよ。戦女神グレーグレイブの下知を聞くがよい――今まさに魔王が復活せんと、北の森の深淵にて鼓動を始めた。もし復活を許せば遍く人の世は乱れ薄汚い魔族どもが我が物顔で台頭するであろう。人の世にあってはならぬ厄災である。さあ人の子よ、聖剣を取れ。勇者となり魔王を打ち倒せ! その酷烈なる旅はまさに死出の旅路、しかりと天に召されるであろうが、その暁には我がヴァルハラの勇士に列する栄誉を与えよう!』



 ほんげえええええええええ!!!???? これゲーム開発陣と悪乗りして作った設定だったが、プロデューサーからこんなん追加したら原作者にキレられるわって普通に怒られてお蔵入りした、クソ鬼畜難易度予定だった神託の勇者ルートじゃねえかあああああ!!!!



 王子らしからぬ物言いだが、胸中だったので許してもらいたい。



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