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エルタニア大陸物語  作者: 岸本ひろあき
ラクスアン王国編~光と闇の祝福狂想曲
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第五話(上)


 俺の名はグリアス・ラクスアン。年は15才になる。


 500年の歴史を超える大陸随一の大国、ラクスアン王国の第二王子として生を受け、少々のやんちゃをしながらも、10才の頃までは神童と誉めそやされ育てられた。


 そんな順風満帆の人生に大きな転機が訪れたのが、10才の頃に開催された、母上主催のお茶会であった。

 このお茶会、俺の伴侶候補を探すことを目的とした、つまりはやたらと早いお見合いの席なのだが。


 そこで一人の令嬢を目撃して、全身に衝撃が走った。


 それと同時に、怒涛の勢いで二十数年のとある男の人生録――前世の記憶が流れ込んできた。


 前世ではゲームのシナリオライターとして働いていた。3本ほどシナリオを手掛け、そのうちの一本が人気の恋愛小説を元にしたノベルゲーム『ラクスアン王国物語~光と闇の姫~希望の未来』というタイトルのゲームであった。


 前世のその記憶が蘇ると同時に、確信した。

 今世のこの世界は、小説及びゲームの世界を元とした世界なのだと。


 僅か10才の子供に、その二十数年の男の記憶が流れ込む。

 凄まじい情報量であろうに、卒倒せず数秒固まっただけで済んだのは、偏にグリアスの体がチート級の優秀さであった証左であろう。


 ともあれ、目の前の令嬢である。


 メリエナ・ファウホーン。

 ファウホーン家を象徴する紫色の瞳にプラチナブロンドをたなびかせ、美貌で知られた母親譲りの美しいかんばせをした完璧なお姫様。


 本来であれば、ファウホーン家の麗しの君と名高い少女を見て感嘆のため息を付いていただろうが……

 今の俺の心境は、降ってわいた前世の知識に、天を仰ぎたい気分であった。



 この世界が小説通りの歴史を刻んでしまうと王国は割と……いや、かなり悲惨な状況に立たされることになるからだ。



 小説においては、魔女ヒルデが魅了の力を大盤振る舞いして、自分を含めた王族全員、権力者の大半を魅了の支配下に置く。


 そしてなんやかんやあってメリエナ嬢の破邪の力によって全員の魅了は解かれる訳だが、それで一件落着とはならない。魅了の後遺症によって社会復帰が難しい人たちが多く、その影響で国内は大混乱するのだ。

 人心は乱れ王国は荒れに荒れ亡国の一途。

 そこで王立学院に留学していた隣国の大国グラナンダ皇国の第三皇子とメリエナ嬢がなんやかんやの影響で惹かれ合い結ばれ、その縁で皇国が王国に介入、結果として皇国の属国となり王国の動乱は終結する。


 かなり悲惨である。


 そして猶のこと質が悪いのが、ゲームではヒルデ救済ルートが用意されているのだが、それを選択するとなんと代わりにグリアスに闇の力、邪神ベルパズスの祝福たる洗脳の力に目覚めて神託の魔人ルートへと突入するという地獄のルートがあることだ。こっちのルートは魔女ヒルデよりも相当に血生臭く、登場人物の多くが死亡し、結果として王国の名は地図上から消滅する。


 いや酷くね?


 王子らしからぬ物言いだが、胸中だったので許してもらいたい。


 その時、

『異界の魂を持つ子グリアスよ。我が闇の力、洗脳の祝福を貴様に授ける。ベルパズスの使徒に選ばれる稀なる栄誉に歓喜せよ。そして我が名の元、世界に混沌を生み出すのだ』

 と圧倒的言霊が降ってきた。



 ほげえええええええええええええええ!!!???



 王子らしからぬ悲鳴を上げたが、胸中だったので許してもらいたい。


 その神託と同時に、頭の天辺から、何かが降り注ぎ・・・・・・・浸食される・・・・・、悍ましくも恍惚の感覚が襲い掛かってきた。


 凄まじい多幸感――だがダメだこれを受け入れれば、俺は俺でなくなる、俺が塗りつぶされて別のナニカに――


 そこで目に入ったのがメリエナ嬢であった。


 小説に曰く、彼女は生まれ落ちた瞬間に破邪の力を授かり、そのことが神託として両親に伝えられたのだが、神から然るべき時まで力は封じるべしと下知されていたので、神の意志通りに生後間もなく力を封じられた、というストーリーがある。


 それを考えれば、今の彼女は破邪の力を封じられた人物と考えるのが妥当だ。


 だがそれでも、だ。

 俺は何の根拠もなく、彼女には破邪の封印が施されていないと信じて、無謀な賭けに出なければならない状況にあった。



 そうしなければ……

 万が一もないその分の悪い賭けに勝たなければ……

 俺は別人になる、それによって父が、母が、兄上が、姉上が、臣民が――王国が滅びる。



 俺は腐っても王族、身命を賭して国に尽くすのが定めで、それを誇りに思っている。

 意を決し、目の前の少女に、抱き着いていた。


 いかに幼いとは言え10才にもなって女子に抱き着くなど無作法の極み。国の模範たる王族であれば猶更、許されない暴挙。俺の経歴に傷がつくことは間違いない。


 だがそれでも敢行し――そして俺は賭けに勝った。


 体を這いずるように侵食していた邪なる神気が、たちどころに霧散していく。

 これが破邪。

 邪なる力をたちどころに払う光の力……



 そこでハタと気付いた。



 このメリエナやその両親がもし、王子から無遠慮に抱き着かれても許してしまう寛容な、もしくはこれを逆手にとって王家と強固な縁を結ぼうとする野心ある人物であった場合、原作通りに話が進んで彼女と婚約を結ぶ可能性が高い。


 彼女は俺の命の恩人であるのに、俺がまかり間違って魔女ヒルデの魅了を受けた場合、婚約者の立場を利用して俺が一番彼女を傷つけ、ゲームでは選択肢によっては殺してしまうルートもある。それに何より、彼女には第三皇子という運命の人がいる。俺などお呼びではないのだ。


 だから彼女には絶対に、徹底的に、心底嫌わなければならない。


 そんな訳で俺は、

『私の運命の人。絶対離さない』

 と全力で気持ちを込め、ねっとりとした声で、耳元で囁いた。


 これでもダメならまた方法を考えねば――そう思考した瞬間。



 俺は股間を蹴り上げられ、悶絶して倒れ伏した。



 響き渡る母上と侍女たちの悲鳴。まさに阿鼻叫喚。俺は脂汗を垂らしながら思った。

 これは耳元で囁かなくとも容赦なく蹴られていたな、と。



 ◇ ◆ ◇



――ちなみにこれは神ならざるグリアスには知りようもない事実だが……メリエナには彼の知識通り、生まれながらに破邪の力が宿されていて、魂に刻むという最高峰の封印術を施されていた。ところが首をへし折って前世の記憶が蘇るという、原作になかった珍事によって魂の在り様が変化しその大きな影響の結果、封印が若干解けてしまい、本人の自覚なしに破邪の力が洩れ出していたから彼は命拾いしたのだった――



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