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――――旧京都の崩落の痕が一望できる高台。
アイハ達はそこに【飛空礼装】で降り立ち、そして全員が天を仰ぐようにして倒れこんだ。
ツグネとハヅミは、【第二解放】を限界まで使用したために副作用が凄まじく、制御剤を飲み込んでも尚全身に苦痛が残っており、しばらくは喋ることも出来ず苦悶していた。
そしてアイハもまた、肉体そのものの酷使により、右腕の再生に時間がかかっていた。
正に全員が、満身創痍と言えた。
やがて、ツグネとハヅミの全身に制御剤が行き渡り、徐々に落ち着きが生まれ始める。
しかしながら二人共消耗しきっており、【霊器】を作り出すことができない。
ここから更に長い時間を置かなければ、副作用と戦闘によって損傷した肉体を癒やすことはできないであろう。
「……何とか、生き残ったわね」
まだ荒さの残る息遣いのまま、ツグネが口を開く。
「……本当に、ぎりぎりだった」
互いに状態を確認しあって、把握し、ようやく自分達が置かれている状況を飲み込めるようになってから、急に悔しさがアイハの中にこみ上げてきた。
――死なせてしまった。
藍雪組の、大事な、仲間達を。無惨に。
その後悔が、彼女の表情を歪ませる。
鼻の奥が熱くなり、瞳から失意が溢れ出そうになる。
懺悔が、声となって発せられそうになる。
「――アイハのせいじゃないわ」
ツグネはアイハの様子から彼女の心中を察し、そう言葉をかける。
「……誰も、アイハを責めることなんてできやしない」
「でも」
「【反天霊】は私達の想像をはるかに超えていた。あんなの、偶然倒せたようなものよ。アイハが一人でどうにかできる存在じゃない」
だから、自分を責めないで。と。
……ツグネの言葉は、アイハにとって何の慰めにもならなかった。
しかしアイハは――せめて、今生きている目の前の仲間は悲しませたくないと、悔恨を、激情を、必死に抑え付けた。
「……アイハ」
未だその顔面に血の痕が残り、疲弊しきった表情のハヅミが、這うようにして、倒れているアイハとツグネに近寄る。
そして、ハヅミはツグネとアイハの手を握る。
「――――私は、二人を、護りたい」
「……ハヅミ?」
「だって、私には――もう、二人しかいないから」
ハヅミの手を握る力の強さと、その瞳の光に、アイハはこれまで彼女に感じていた研ぎすぎた刃のような危うさを覚えなかった。
「上手く言えないけど、私は、憎しみと一緒に、すごく、すごく二人が大事って気持ちを、感じてる。だから――」
こんなに言葉を探すようにして話すハヅミを見るのは、アイハとツグネですら初めてだった。
だが、それのおかげで二人はよく理解できた。
ハヅミが――新たな覚悟を決めつつあることを。
そして、その覚悟を見せることで、自分たちを励まそうとしてくれていることを。
アイハとツグネにとって、ハヅミの見せた、ハヅミらしい優しさは、何よりも活力を与えてくれるものだった。
「……そうだよね」
アイハは強くハヅミの手を握り返す。
そして、ツグネの手も握る。
「ここまできたら、最後まで行くしかない。ツグネ、ハヅミ。私達で背負おう。全部、何もかも。そして――今みたいに、また、生き残ってやろう」
手を取り合って、互いに頷き合う。
そうやって、今直面する全てを背負いことが、彼女達が正気を保つための最後の方法だった。
「行こう――――【陽街】へ」
* * *
……重たい身体を引きずるようにして、アイハ達は歩き始めた。
ここからは――本当に長い道のりになるだろう。それを三人は理解していた。
先を行くアイハ。
それに続く、ツグネとハヅミ。
身体が回復して、【霊器】が出せるようになり、【飛空礼装】を使えるようになるまでは、歩くしか無い。
少しずつ、少しずつ、進んでいく。
カオンが示してくれた、包むような絶望と塵芥にも満たない希望の全てが一つになった地、【陽街】へ。
……やがて。
「ハヅミ、大丈夫?」
アイハが、一番遅れ気味に歩くハヅミに向けて、確認を取るために振り向く。
それに対し、ハヅミは微笑んで。
「だいじょ――」
ずっ。
「――――」
鈍い、肉が貫かれる音と共に、ハヅミが倒れた。
その左胸に、大きな片刃の剣が、突き刺さったまま――
「え」
何が――
アイハの思考が停止する。
故に、気づかなかった。
自分の背後に迫る、閃光に。
「――アイハっ!」
ツグネが、アイハを突き飛ばす。
アイハの後ろにいたからこそ、彼女はその凶弾に気づくことができた。
わけもわからずツグネに突き飛ばされて、ツグネの方を見たアイハは――
ツグネが、閃光に撃ち抜かれ、左半身が吹き飛ぶのを、まるでスローモーションのように――
「あ」
倒れるツグネ。
倒れているハヅミ。
――沈黙。
「あ、あ」
沈黙。
沈黙。
もう動かない。
「――――――――――」
アイハの絶叫が、廃墟に吸い込まれていく。
その様子を遠くから眺める、二体の【反天霊】に、アイハは気づくことができない。
アイハは、痛む身体など意に介さず【第二解放】を行い、倒れた二人をすぐに抱きしめる。
口を大きく開けて、両目を見開いて、ただただ、叫ぶ。
二人の名を呼ぶ。
――感じてしまっていた。
ツグネも、ハヅミも、限界だった。
二人に【霊器】を出す余力はない。
治す手立てはない。
二人は、もう、死ぬだけ。
いや。
違う。
それすらも甘い。
――死んだのだ。
死んだ。
今、正に死んだ。
容赦なく死んだ。
死んだ。
死んだ。
駄目だ。
戻らない。
戻せない。
もう、いない。
こんなにもあっさりと、死んだ。
生き残ろうって、一緒に背負おうって、約束して、約束したばかりで、歩き始めたばかりで。
全部が、台無しに、一人で、何も、なく。
「私は――」
――――それが、アイハを抑え込んでいた、最後の錠を破壊する。
世界の軋む音が、どこかで響いた。




