#41 蟲の王様
《キャラクター紹介『タツキ』》
本名・一ノ瀬辰樹
年齢・17歳+5(裏山の時間経過分)
能力・獣交信、験力
融合魂・裏山頂に住む老婆の息子の金時。怪力でマサカリの達人
・高校インターハイ出場の高飛び選手
・セオリの弟
―――――
『僕はバアル、蟲の王様だよ』
『蟲の…王??』
あっけらかんと答えるその男?いや少年はタツキよりも明らかに若い。旧世界での中学生あたりの年齢なのだろう。
二人に緊張が走る!
『蟲の王様が何故こんな場所に?』
セオリは動揺を隠すように淡々と質問を投げかける。
『んー、興味かなぁ。僕の部下たちが最近立て続けに消滅してたみたいだからさ。その元凶が何なのか?それを見に来たって事さ』
(ここは聖地の中でも特に神聖力が強いはず。なのに何一つ動じずに居れるってことは相当強い化け物って事…)
『今はここの責任者は不在なの。早々にお立ち去り願いたいのだけど』
セオリの額から冷や汗が流れ落ちる。
『せっかく来たのにあんまりな言い方だなぁ。そこの巨漢の男がこの村の番人か何かなのかな?随分物騒な物を持ってるじゃないか。しかもそれって僕の配下の身体の一部に見えるけど?』
バアルの目が一瞬鋭く睨むように蓮見を見つめ、直ぐさま穏やかな視線に戻る。
ジリジリと進みセオリを遮るように前に出る蓮見。
『そんな物で僕を殺せると思ってるのかい?』
『…うおおおおおああ!!!』
恐怖に背中を押されるように蓮見は飛び出し、バアルに鍬を叩きつける!
バサバサバサバサーー!!
『!?!!』
バアルの身体が無数の蝿に変わり、鍬の一撃によって散らばった蝿たちがまた元の位置に戻り少年の姿を構築していく。
『僕は蟲の王様だよ?そんな物理攻撃で倒せるはずが無いじゃないか?人間ってのは本当に無知で無謀…まぁ僕も前まではただの人間だったんだけどね』
『うわあああああ!!!!』
蓮見が狂ったように鍬の連撃を繰り返す!!
しかし蝿となったバアルには何一つ手応えを感じる事は出来ない。更に蝿達も鍬で潰される事もなく、鍬の風圧を利用するかのようにふわりと躱し続ける。
『蓮見くん、ストップ。戻ってきて!』
セオリの声に反応し息を切らしながら蓮見は後退りをする。その身体は既に汗でびっしょりと濡れていた。
『もう気が済んだかな?この神社は相当古そうだねぇ。中からは特にお宝の匂いも感じないし…。結界も最盛期と比べやや弱まっているようだね。霊力者の人数が減ったのかな?』
淡々と喋り続けるバアル。
『そう言った事由は私たちはよく知りませんっ!私たちはただこの村で静かに暮らしてるだけ!!』
『へぇ~、気が合うねぇ。僕も樹海でただ静かに暮らしたいだけなんだ。けど僕の能力がそれを許してくれなくてね…』
バアルは御社殿から離れ、目に付いた近くの花壇の前に来る。
バアルが近づくにつれ花壇に咲いた花は萎れ、徐々に色合いも茶色に代わりだし、見る見る腐食していく。
『!?!!』
『僕の能力は病や腐敗。せっかく気に入った場所を見つけてもすぐに周囲の木々や草花、生き物なんかも朽ちていっちゃうんだよね。僕に近づいて鍬を振り回してた君もそろそろ体調の悪さに気づいてるだろ?』
蓮見に目をやると異常なまでの発汗と青ざめた顔色、巨漢を支え立っている足にも震えが見て取れる。
『だから僕にはあまり近づかない方がいいよ。特にお姉さんはとても美人なんだし。美しいものが朽ちていくのを見るのは僕はあまり好きじゃないんだよ』
(こんなのどうにも出来ない…)
『どうしたら帰ってくれるの?』
『心配しなくても僕は飽きたら帰るさ。長く至ってここの全てが朽ち果てるだけだしさ。散歩先の景色のバリエーションは残して起きたからね』
静かに話を見守るセオリ
『けど、僕の部下たちが今村の南東で遊んでるみたいじゃない?僕は様子を見てきて欲しいって頼んだだけだったんだけど中々報告に来ないから自分で見に来たのさ』
徐々にセオリも体調に違和感を感じ始める。
(打撃や斬撃は通用しない…私の手技や鱗もきっと有効手段にはならない…このまま黙って見てるしか無いのかな…あちちゃんが居たら炎で燃やせたのかも…)
ハァ…ハァ…
セオリの息が乱れ始める。蓮見は既に片膝をつき今にも倒れそうなほど悪化させていた。
(一生懸命に育てたあの花たちが一瞬で…)
セオリの心の中の感情が段々と怒りへと変わっていく。
花壇を無下にされた事や、手の打ちようのない自身の無力さを噛み締めながら悔し涙を我慢する事が出来ない。
『この村には特に観光名所も無さそうだねぇ。楽しくは無さそうだけどバトルの見学にでも行こうかなぁ?あっちにはこの巨漢の男よりも強そうなのも集まってるのかな??』
(こんな出鱈目な奴を皆の居るところに向かわせる訳にはいかない…)
『この村で一番強いのは私です』
『へぇー。君、戦えるんだぁ?』
『人を相手にするのなら…貴方みたいな者との戦い方なんて知りません…』
『あはははは!お姉さん面白いね!僕と戦える者なんてどこにもいるはず無いじゃないですか?しいて言うならウイルス抗体薬とか腐敗を止める薬品とかになるのかな?でもそれは僕の能力を抑制するだけで僕を倒す手段とは言えないかもですけどね!』
『お姉さん強いのかぁ。戦って見たいなぁ』
『……。』
『僕の能力を一旦全て抑えてあげますよ!そしたら病も腐敗も進むことは無い!完全に止める方法は僕にも分からないけど一時的に弱めることなら出来るからさ!』
ゆっくりとセオリに近づくバアル。
『さぁお姉さん!僕と遊ぼうよ!』
意を決しバアルに駆け寄り間合いに入る!
両足を大きく開き腰を落とし、手の平を広げ渾身の一撃を溝落へ叩き入れる!!
パァンッッ!!
風船が割れるような破裂音が響き、バアルの身体が弾け散る!!
身体のど真ん中にすっぽりと大きな風穴を開けたバアルは嬉しそうにその目をキラキラとさせる!
『おおー!凄いよお姉さん!!あまりの速さと衝撃の強さで数百匹の蝿が一瞬で潰されちゃったよ!ほら見て!こんな大きな穴が空きっぱなしになっちゃた!凄い凄いっ!!』
その穴の空いた姿とは裏腹にバアル自信には微塵もダメージが通ってないのが良くわかる。
セオリは悔しさと無力さをヒシヒシと感じ、握りしめた拳をカタカタと震わせる。
足払い、腕を取ってからの投げつけ!地面に倒れたバアルも踏みつけようとするが手応えも無くセオリの足は地面をただただ踏みつける。
『やられっぱなしだとバトルとは言えないよねぇ。僕からも少しは攻撃をしなくっちゃね』
ドスンッ!
セオリの腹にバアルの打ったボディブローが鮮やかに入る。
『くっ…』
お腹を抱え一歩後ろへ下がるセオリ。
『僕ってさ、攻撃力は人だった頃と何も変わっていないんだよね!ただのパンチだよ!けど女性からしたら男である僕のパンチもそれなりに痛いよね?』
セオリの前でシャドーボクシングを始めるバアル
『見て見て!どう?あはははは!ボクシングなんて習ったことも無いから記憶の中の見よう見まねなんだけどさ!僕は相手からの攻撃は無力化しちゃうから、いくらでも余裕で攻撃出来ちゃうの。こんなパンチでも何回も殴れば人だって蟲だって倒せちゃうんだよ?カブト虫とかは馬乗りになって頭部を引きちぎれば勝てちゃうし、自分が攻撃受けないってだけでも最強になれるってのを実現させてるのが僕って訳!』
『うるさいっ!!』
セオリがバアルに飛びかかり何度も何度も手の平での突きを繰り返す!!
パァン!!パァン!!
その度に潰れた蝿が飛び散り、バアルの身体に複数の風穴が空く。頭部の右半分も吹き飛んでいるのにバアルは涼しげな表情でセオリの攻撃を受け続ける。
『無駄なのはもう分かってる癖に、意外としつこい性格してるんだね。お姉さん』
バアルはまだしつこく突きを入れてきたセオリの腕を掴み力任せに抑え込む。
『僕の身体を構築してる蝿を全て潰そうとでも思ってるんですか?僕の眷族である直属の蝿たちの繁殖力を教えてあげますよ。3日です。一度の産卵で100個を超える卵から産まれて3日で成人するんです。当然ここに連れてきてない蝿達が数えられないくらい樹海にいるんですよ。この場で僕が消滅してもそれはその場しのぎにしかならないって事。わかる?お姉さん?』
力無く崩れ落ち両膝をつくセオリ。
(為す術が何も無い…全ての蝿を絶滅なんてさせられるはずが無い…この蟲は巨大化なんてする必要も無い…お父さん、、お母さん、、私はもう……)
ドクンッ…!!
セオリの心臓が強く動悸し全身を電気が流れるような感覚を受ける。
カッ!!
『あれ?お姉さん…?目の色が変わったよ。へー、面白い。お姉さんはまだ本来の力を出していなかったって事なのかな?』
(何これ?五感が物凄く冴え渡る感覚…バアルを構成してる蝿の一匹一匹までが数えられそう。蓮見くんの心臓の音が弱り始めている。避難壕で泣いてる人、悔しくて壁を叩いてる人……村の中心部、、沢山の人が苦しんでる。おじい様、タツキの呻き声も……!?…この音は?動悸が物凄く弱々しく乱れて…まさか…マリさん!?今すぐ助けなきゃ、、早く!!)
『お姉さんどーしたの?目の色が金色に変わっただけで他には何も……』
『黙れっ!!お前はここから、、出ていけっっ!!!』
マリの身体が光り輝き見る見るその姿を変えていく!その白い肌の殆どを白く輝く鱗に変え大きく長く、、空を覆い尽くすような巨大な生物へと姿を変える!
『こいつは驚いた、、これはドラゴン、、?いや、龍、白龍か!?』
バアルが驚きとも歓喜ともとれる表情をしながら美しい白龍の姿を見上げる。
ズバンッ!!!
白龍の長い尻尾がバアルを直撃する!
その身体を構築していた蝿たちは散らばる間も無いまま潰れ一塊となったまま村の外の樹海へと吹き飛ばされる!!
そしてその美しい白龍は眩い光で村中の全てを照らす!
バアルに腐敗された花は息を吹き返し新たな蕾を芽吹かし、蓮見は勿論、防御壁の傍で倒れてる射撃隊たち、雪舟、タツキも意識を取り戻しその容態が改善されていく。
『タツキ!大丈夫か!』
『ええ、俺は問題ないです。でも、マリさんが、、』
雪舟とタツキが未だ倒れたままのマリに駆け付ける!
白龍となったセオリの眩い光は腐敗や病原菌、鱗粉や蜂の毒などを全て打ち消したのだが二度の毒針を受けアナフィラキシーショックを起こしたマリは毒そのものが抜けた今でも自身の身体の免疫の過剰反応にての状態悪化なので浄化では対応しきれなかった。




