友人宅の小さな同居人
水上宅のゲーム環境が整ったことで、佐伯と水上は平日でもゲームをするのが習慣になりつつあった。
たまにみせる佐伯のスーパープレイ、そして堅実な水上のサポート。
攻略はおおむね順調に進んでいる。
だが、どうにもならない日もある。
ステージ環境との相性、強敵の出現、今夜のプレイはちょっとピンチ。
ーー
佐伯の部屋では、家鳴と目目連が全力で支援を続けていた。
家鳴
(コンボはまかせろ!)
(入力補助する!)
(よし!いけ!)
目目連
(地形把握完了、敵の予想出現地点を共有)
「どうにかクリアしたい!早苗ちゃん!サポートよろしく!」
ーー
一方、水上宅。
「任せてください先輩。」
水上は自宅で一人コントローラーを握っている。
佐伯の操るキャラクターをサポートするために、フィールドを走り回りアイテムを駆使する。
正直、ギリギリの局面。 ステータス不足なのか、今はかなり追い込まれている。
それでも、あきらめずに全力を尽くさねば。
カチッ、カタカタカタ、カチャッ
過集中だろうか。夢中になってプレイをしているうち、イヤホンをしているのに部屋の無音が気になりはじめる。
カタカタ、カタッ
まったくの一人でモニターに映るキャラクターを操り続ける。
手の中のコントローラーは予想外に震えることもないし、背後から緊迫感と期待の視線を感じることもない。
カチカチッ、カタカタカタ
『早苗ちゃんナイス!この調子でこのままいくよ!』
「はい!先輩!」
二人でプレイしている、十分に楽しい。
なのに、なぜこんなことを考えてしまうのか。
先輩の声はイヤホン越し、やけに賑やかなあの部屋で遊んだときとは違う。
無音の部屋に響くコントローラーの操作音が耳につく。
そのとき
(ガンバレッ)
突然声をかけられた気がした。
「え?」
思わず部屋を見まわす。
その隙に佐伯が操るキャラクターに敵の攻撃がヒット! ゲームオーバー
『あー、惜しかったねー。今日はここまでにして、明日装備の強化しようか』
イヤホン越しに佐伯が話しかけてくる。
「そ、そうですね。それじゃあ今日はここで」
『それじゃあね〜、早苗ちゃんおやすみ〜』
あらためて部屋を見まわす。
サイドボードのうえ、気のせいか、河童のこけしがモニターを覗き込んでいるように見えた。
ーー
それ以降
朝の出勤時に、
仕事からの帰宅時に、
ベッドに潜り込んだあとのリビングから、
水上は部屋で、時折り誰かに声をかけられたような気持ちを味わうようになった。
(イッテラー)
(オカエリ)
(オヤスミネー)
何もしてこない。見ることもできない。とても小さくて、見逃しそうな気配。
ほんの微かな、聞くこともできないほどの小さな声。
それでも 、ときどき感じる。
気のせいかもしれない。
でも、なんだか懐かしい暖かさを感じる。
少しだけ、部屋が暖かくなったような気がした。




