お楽しみの時間 2 <バレンタイン小話>
ラウディがごめんと謝りながら、俺の頬から手を離す。
そんなことないって言いたいんだけど、ぼやーっとしていて声が出ない。
「ラウディさまぁ……大丈夫でしょうか?」
「ハルはお酒が苦手だったのかもしれない」
ラウディは俺の前で屈むと、俺の膝の下に腕を入れて一気に抱き上げる。
俺はいわゆるお姫様抱っこ状態で、ラウディに寝室へと連れて行かれてしまった。
そして、ベッドへ優しく寝かされる。
「ハル、僕の声は聞こえてる?」
相変わらずうまく話せないから、頷いて返事をする。
ラウディは良かったと柔らかく笑ってくれたけど、すぐに悲しそうな表情へ変わってしまった。
「ハルに喜んでもらおうと思って、ラブランを入れすぎたみたいだ」
「ハルさん、大丈夫ですかぁ? ぼーっとしてらっしゃるみたいですけど……」
「ん……」
少しだけ出た声で何とか笑う。そうか、俺は酔っ払ってるのか。
酔ったせいか、今すごくラウディに触れたい。必死になって手を伸ばす。
「ラウディ……」
「ハル……」
ラウディは俺のまつ毛に唇を触れさせる。ちゅっちゅと何度も愛おしそうにキスをしてくれるから、どんどん嬉しくなってくる。
「モグ……お水持ってきてくれる?」
「は、はいー! ラウディ様、その……」
「……分かってる。今はハルを落ち着かせるだけ」
「ラウディ様、待っていてくださぁい!」
あんまり理解できていないけど、俺は今そんなに危険な状態なのか?
酩酊状態が危険って……この世界のお酒はそんなに危ないってこと?
「ハル、目が回ったりしていていない?」
「うん。ふわふわしてるだけ。ねえ、ラウディ。もっとなでて?」
ラウディの手はひんやりしていて心地いい。だから、素直にねだってみたんだけど……ラウディの暗緑色の瞳は困ったように俺を見つめるばかりだ。
それでもじっと見つめると、ラウディは微笑しながら俺の頬に左手を当て右手で髪を優しく梳くようになでてくれた。
「ラウディ……」
「ハル、いいこ。いいこだから……この続きはハルが落ち着いてからのお楽しみにしよう」
ラウディに何度もなでられると安心する。俺はお楽しみが何なのかよく分からないまま頷く。
ふわりと香るラウディの新緑の香りも、心が落ち着くから大好きだ。
俺は自然とラウディの手のひらに鼻を寄せる。
香りをいっぱいに吸い込むと、少しずつ心が満たされていく。
「僕はいつまでお預けなんだろう……もう、ハルが可愛すぎて困る」
「可愛くないって……でも、ラウディは本当に綺麗だ。ずっと見ていたい」
「……ハル、そんな赤い顔で言われると気持ちが揺らぎそう。ハルごと食べちゃいたい」
ラウディが俺の額にキスをしてくれたところで、モグが帰ってきたらしい。
俺の身体をラウディがゆっくりと起こしてくれた。
「持ってきましたぁー! ハルさん、どうぞ」
「ありがとう、モグ」
俺は素直にコップに入った水を飲み干す。水を飲んだら少しずつ酔いが落ち着いてきた気がする。
ラウディとモグを順番に見ながら、ごめんと謝った。
「折角美味しいチョコレートを作ってくれたのに、俺もこんなに酒に弱いとは思わなかった」
「もしかしたらハルさんの世界のお酒より強いのかもしれませんね。気にしちゃダメですよう!」
「そう。ハルは悪くない」
二人はそう言ってくれたけど、何かお礼ができないだろうか?
ここはお酒の力を借りたい。少し酔いは醒めたけど、今日は少し甘えたい気分だ。
「あの、ラウディ。ラウディさえよければ……さっきのお楽しみを教えてほしい」
「……ハル、いつも以上に可愛い顔をして誘ってくれるの?」
ラウディが俺の方へ身を乗り出すと、モグはさっと俺の手にあったコップを引き取ってくれる。
どうやら気を遣ってくれたみたいだ。
「後片付けはあっしに任せてください!」
モグはニッコリと笑って、タタタっと走って行ってしまった。
ラウディもクスっと笑って、いいことモグを褒めてから俺の方へ向き直る。
「今日はいつもよりもっと……優しく甘やかしてあげる」
ラウディの声が耳をくすぐる。俺は頷いてラウディの身体を自分から引き寄せた。
俺とラウディのお楽しみの時間は、まだたっぷりとありそうだ。




