表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウタカタノヒカルさま  作者: 紗菜十七
21/34

ダイスキナウマ


学園にある医務室は大きな個室になっていて

鳥の(さえず)りや川の流れる音が聴こえ

ゆったりと(くつろ)げる空間になっていた。

気を失った振りをしていた(あおい)はここへ運ばれると

深い森の中にいるような気分になり

いつの間にかすやすやと眠っていた。





「お~い、まだ寝てるのか…葵~…」


葵が目を開けると桐壺(きりつぼ)が心配そうに顔を覗き込んでいた。

いつもと違って目の前が何故かスッキリしている。

手で前髪を探ると…



「わっ‼」


付けていたお面が外され

大事な前髪付きカチューシャが無くなっていた。

慌てて飛び起きた葵は左右を見渡す。


「何だ⁈大丈夫かっ?」


「まっ、前髪、落ちてなかった⁇」


「あぁ、あの付け毛か…

ちょっと趣味わるくねぇか?

お面とったら一緒にくっ付いてきてよ~

前髪ごっそり抜いちまったかと思ったぜ…切ったんだな前髪?」


「ママに切られた、それより前髪はどこ!」


桐壷はテーブルに置いてあった

前髪付きカチューシャを指でつまみ葵に渡す。



「ん、ヅラ」


「ヅラってゆーな!これ作るの苦労したんだから」



バサッと頭にのせると、葵は前髪を真っ直ぐ下ろすように整えた。


「お面とってくれたのがレイで良かった。

でないと醜い寝顔を誰かに見られるとこだった」


桐壷のカッコイイ切れ長の目がハッと見開く。



「それがその~…」



何かを言いかけたが、やっぱり言えないといった感じで口ごもる。

そこへドアが開く音が聞こえ

誰かが中に入って来たことが分かった。

小走りで近づいて来る足音はピタリと止まり

ベッドの周りに大きく囲われてあった天蓋(てんがい)カーテンがバサッと開けられた。


「目が覚めた?どこも怪我は無い?」


顔を覗かせたのは弘徽(こうき)だった。

別の誰かを期待したのか

葵のテンションは下がり、声のトーンは低くなる。



「はい、何ともないです」


「ハァ~、ビックリしたんだよ!急に馬から落ちちゃったでしょ」


弘徽はソファーに座ると長い足を優雅に組んだ。


「なんか、いま、葵が起きたばっかなのに、絶妙なタイミングですね?」


訝しげに桐壷は弘徽をじろりと見る。


「あぁ、それは簡単。

起きたら直ぐ飛んで来れるように、盗聴器を仕掛けておいたんだ」


「はっ⁈」「えっ⁉」


弘徽は直ぐ横にあるサイドテーブルに手を伸ばすと

てんとう虫とそっくりな超小型盗聴器を取り外した。

桐壷と葵はぞっとした表情で顔を見合す。


「こえ~っ」「・・・」




「それで?醜いってどーゆうこと?

もしかして思いっきり寝相が悪いとか?

さっき見た時は食べちゃいたいくらい可愛かったけど♡」


「みっ、見たんですか⁉」


「うん、ずーっと眺めていたよ。愛らしい寝顔を」


葵は訴えるように桐壺を見る。桐壷は首を振り肩をすくめて見せた。


「…まさかのブス選」


「ブスセン?なにそれ?」


弘徽が異様に顔を近づける。


「いいいえっ、何でもないです!」


葵は限界まで顔を背けた。


「でもさっすが僕の感は鋭いなぁ~

地味でさえない仮の姿を装っていても

本能的に分かっちゃうんだよね。この才能って素晴らしい!

…それで、ショウはいつから葵の素顔を知っていたの?」


弘徽はカーテンにぼんやり映る影を流し目で見る。


(まさかっ、将院(しょういん)先輩もいるの⁈)


葵は慌てて髪の乱れを整えた。



「お前の考えはずれてるな…」



手の甲で掃うようにカーテンを開けると

将院は呆れ顔で弘徽を見下ろした。


「僕のどこがずれてるの?

ただ素直なだけでしょ。ショウだって

本当の姿を見てから付きまとうようになったくせに」


「失礼な!俺はお前みたいに容姿だけで近づいたりはしないっ」


「いい子ぶってもダメだよ。現にいまショウが仲良くしてるモデルだって…」


将院は弘徽の話など無視で、葵のベッドに腰をかけた。


「本当に大丈夫だった?どこも痛くない?」


将院の優しい瞳に包まれると、身体中の血が一気にかけめぐり

葵の体温は急上昇。


「全っ然何ともないです!丈夫なだけが取り柄ですから」


「僕の話し、途中なんだけど?」


ふて腐れる弘徽の後に桐壺は周り込み両手でバシッと肩を叩いた。


「痛いっ⁈」


「葵はもう心配いらねぇから、ランキング二位の朱雀先輩が

インタビューに答えて宴を()めてきて下さいよ!」



「ヤダよ面倒くさい」



冷めた目で弘徽は斜め上を向く。

どうやって邪魔者を排除しようかと考える桐壺。



「そうだ!宴は?どっちが勝ったの?」


まだ結果を知らない葵は不安気な表情で桐壺に訪ねた。

すると桐壺の表情は硬くなる。



「…負けた」

「えええっ⁈」



「右近がな」


「もーっレイ‼」


「あはは、一人ぐっすり寝てた罰さ。

しかも葵の活躍で左近が優勝ってびっくりだろ?」



「うそ⁉…やったーっ‼」



葵は上を向き、握りしめた拳を小刻みに揺らした。

夢にまで見た学費免除が現実のものとなったのだ。

これほど真剣に取り組むなんて生まれて始めての事である。

そんな葵を見ていた桐壷の目にジワーッと涙が溢れ出す。

そして悟られないよう慌てて弘徽の制服で拭った。


「なっ、何するんだよっ⁈」


桐壷はアタフタしている弘徽の耳元で囁く。


「実は、リーダー気質でみんなを引っ張っていくような男が

葵のタイプなんですよ。先輩が報道陣の前でビシッと決めれば葵の心も…」


「分かった、行って来る!」


弘徽は即座に立ち上がった。


(なんだ、意外と単純なヤツ…)


一瞬だけ笑顔が消え素に戻る桐壷。


「ではこの、ぼ・く・が・

報道陣の前に出てきっちり宴を終わらせてくる!

葵、夜の祝賀パーティーでまた会おうね」


「…パーティ?」


その無縁な言葉に葵は面食らう。

もちろん人で溢れかえるパーティなど大嫌い。

今まで参加したこともなかった。


葵の乗り気でない表情を読み取った桐壺は

将院との仲を取り持つため

パーティ参加を断らないよう説明のフォローに入る。


「今日の夜、左近のメンバーだけで打ち上げすることになったんだ。

藤原先生は都合悪くて来られないから生徒だけ…

あ、あと朱雀先輩も参加する」


「僕の母が経営するホテルの最上階を貸し切ったよ」


「朱雀先輩がパーティの段取りを

全部やってくれるって言うから今回は特別メンバー入り」


「その取引したみたいな言い方、やめてくれない?」


「そーゆー取引は大歓迎なのでお気になさらずに。

葵、俺は朱雀先輩と一緒にインタビューに答えて帰るから

将院先輩に送ってもらえ」


「えっ⁉」


「それなら僕が送って…」


「朱雀先輩はこっち!将院先輩、葵をよろしく!」


「ああ、送って行くよ」


名残惜しく手を振る弘徽を強引に桐壺が引っ張っていく。

そして去り際にニヤリと笑った。


(…まさか?)


気を利かせた桐壺は、葵と将院を二人きりにさせるため

弘徽を連れ出したのだ。



(ま、また二人きりになった…)



だが葵の妄想は膨らまなかった。

弘徽の言いかけた〝モデル〟の顔がずっとチラつき

自分との差を思い知る。

背伸びをして届く相手ではない。葵はそう考えた。



「弘徽を抑えてみごと一位、おめでとう」


将院の声が近くで響き、葵の鼓動は早くなる。


「そ、それほどでもぉ…って私が一位ですかっ⁉」


「そうだよ。弘徽とは5点差だった」


「そんなぁ⁉目立つのだけは避けたかったのに!

どうしよう、美しすぎて我を忘れてしまった」


頭を抱える葵を見て将院はフッと笑った。



「そんなに馬が好き?」


「大好きです‼めちゃくちゃ綺麗な馬だった~

なんか不思議な感じで、初めて会ったのに息がピッタリ!また会えるかなぁ」


葵がそう答えると、なぜか将院は

悲しみと嬉しさが入り混じったような複雑な表情を見せた。

そしてスッと腕が伸びると、葵のさらりと落ちる髪を指で梳かした。

なぜか前に一度味わった様な感覚が葵を包み込み

しばらく二人は無言のまま時は流れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ