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ウタカタノヒカルさま  作者: 紗菜十七
17/34

ウタゲカイマク


〈 (うたげ)当日 〉


宴グラウンドに大きな歓声が沸き上がる。

年に一度、春に開かれる宴は

ノーブル学園の一大イベントの一つで

世界でもトップレベルに豪華絢爛(ごうかけんらん)な事で有名であった。


各テーブルには高級な料理やカラフルな果物

ツリーのように背の高いケーキが並べられ

この日のために世界中の優れたホテルマンたちが集められた。

一流ホテルのエキスパートたちは生徒の接待にまわり

全席がボックスの観客席から次々と乾杯の声があがった。



国内や海外から著名な人物が次々と来客し

いよいよ宴開幕(うたげかいまく)の秒読みとなる。

満員御礼を目の当たりにした(あおい)

酸欠状態になり、足がぶるぶる震え出した。


「こんな、大勢の前でやるの…やだ、あっぢに座りだい」


「なに言ってんだよ!ボーッと見てるより

競技に参加するほうが断然楽しいに決まってんだろ

今日はおもいっきり発散しようぜー!」


葵とは全く逆で、桐壺(きりつぼ)のテンションはマックスである。

そこへ、相変わらず緊張感のない

のんびりとした藤原が二人に大きく手招きをした。



「お~い、もう直ぐ入場ですよ~

さぁさぁ、二人とも早く乗って乗って」



藤原が誘導する先を見ると、何故か牛に(つな)がった

大きい重箱のような乗り物が用意されている。


「…まさかこれに乗れって⁉」


桐壺の〝ゲッ!〟に対し葵は目を爛々と輝かせ、藤原のもとへと走った。



「うそっ⁈これって、夢にまで見た牛車(ぎっしゃ)‼」


「ぎっしゃ?なんだそれ?〝ぎゅうしゃ〟じゃねーのか?」


「左代さんよく知ってるねぇ。これは平安時代に貴族が

一般的に使っていた乗り物を復元した物だよ。

これでやっと今年のテーマが分かったね」


「平安時代ですね!」


歴史オタクの葵は嬉しそうに答えた。


「そう、間違いないね」


「嘘だろ?もしそうなら、平安ぽい特訓なんかやってねぇよ」


桐壺が小声で呟くと藤原は申し訳なさそうに頭をかく。


「いや~、数ある競技から絞るのはむずかしくてねぇ…

あぁ、乗馬は練習しましたね?

きっと馬の競技は出てきますよ!さぁさぁ、行きましょうか」


そう言うと藤原は、足早に他の選手へと移動した。



「〝乗馬は練習しましたねぇ〟って、たった2時間じゃねぇーか⁉

それもただグルグル回っただけだぞ、グルグル!

藤原先生と椿(つばき)先生じゃ、差があり過ぎるんじゃねーの?

…って早っ‼葵もう乗ったのかよっ!」


こんな機会は滅多にないと

葵はさっそく牛車に乗り込み

あれやこれやと触ってはオタクのひと時を楽しんでいた。



「…なんか急にはりきってねぇーか?」



宴メンバーの最後の一人

桐壺が牛車に乗り終えると、放送席に宴開始の合図が送られた。




「第77回ノーブル学園、新入生歓迎の宴…開幕です!」



笛と太鼓、鉦鼓(しょうこ)の演奏が始まり

左方と右方から交互に(ほこ)を持った舞人が現われた。

その後に選手の乗った牛車が続き

右近の(たちばな)、左近の桜チーム

それぞれ左右に分かれ一列となる。

並び終えると牛車から牛がはずされ

次々と選手たちが降り立った。


朱雀弘徽(すざくこうき)頭之中将院(とうのなかしょういん)のトップスター二人が

登場すると、さらに割れるような歓声が上がり

宴史上初、オープニングは異様なまでに最高な盛り上がりを見せる。



「開幕は劇団雨季によるすばらしい振鉾(えんぶ)

披露していただきました。

今年は学園のトップアイドルが宴選手に入ったため

近年稀(きんねんまれ)に見る熱い声援がまだ続いております!

さぁ、今年のテーマは〝平安〟です。

それでは最初の競技を発表いたします。

まず初めに行われるのは……蹴鞠(けまり)です!」



観客席から一斉にざわめきの声が上がる。



「蹴鞠は平安時代に宮中や公家において盛んに行われたと言われています。

本来のルールでいきますと

四人、六人、八人で構成されるのですが変更いたしました。

各チーム代表者を二名、選んでいただきます。

まず一人が三度鞠を蹴り、相手に渡します。

そして受けた選手はまた三度鞠を蹴り上げ、相手に渡します。

これを繰り返して一蹴りを10点とし

蹴った回数の多いチームが勝ちとなります。

ただし四隅(よすみ)に植えられた桜、柳、(かえで)、松の高さより

鞠を高く蹴ること。

それより低くければ得点にはなりません。

鞠を落としてしまうと、その回は終了です。

各チーム、選ばれた選手は、中央舞台横の蹴鞠競技場

(かかり)〟前にて速やかに集合して下さい。」



説明が終わると同時にグラウンド端に作られた高台の舞台から

陰陽師(おんみょうじ)スタイルの男たちによる和琴(わごん)の演奏が始まった。




〝蹴鞠〟と聞いた選手たちは

顔を見合わせたり首を横に振る者が殆どだった…が

約一名だけ自身満々の選手がいた。



「ここは俺の出番かな~」



ソファーに深く座った若宮(わかみや)

一人ノンアルコールのシャンパンを飲みながら顔をニヤつかせる。

だが若宮アレルギーの桐壺は敏感に反応し、すかさず突っ込んだ。


「ふざけんな!お前に出番はない」


「そんなこと言っていいのかなぁ?俺って

幼少の頃からドイツやイタリア、ブラジルでサッカーをして過ごしたんだけどな~」



「しかしねぇ…サッカーと蹴鞠は少し違うんじゃないかな?

まず最初は堅く、頭之中くんと桐壺さんでいこうかと思うのですが…」


練習の時点で、若宮のあまりにオンチ過ぎる

運動神経を知っていた藤原も迷わず疑った。


少々焦り始めた若宮は、シャンパングラスをテーブルに置き立ち上がる。


「えーっ、今でも自家用ジェットを飛して

有名なサッカー選手の所に遊びに行くのに」



〝サッカー選手〟の言葉に藤原の眉が少し上がる。


「…プロ選手の所へ?」


「そーですよ~、しかもみんなが知ってる超有名人!

小さい頃から一緒にサッカーするほど仲がいいのにな~」


「それは知らなかった…

じゃあリフティングは出来るんだよね?」


「出きるに決まってんじゃないっすか!

プロに混じって試合してたのに」


「それは凄い!プロと一緒にですか…

サッカーの練習はやらなかったからねぇ…」


藤原はしばし考えていたが、決心が付いたらしく深く頷いた。


「よし!じゃあ蹴鞠は頭之中くんと若宮くんで行こう!」


「はい!軽くやってきまっす~」


「…………」


サッカー経験者が他にいないため、若宮に不満はあるものの

みんな何も言い出せない。


将院は何かを言おうとしたが

嬉しくてたまらない若宮が、ハイテンションで腕に飛びついたため

タイミングを失い口を閉じた。


「さぁ、将院先輩いきましょ!」


ここぞとばかりに若宮は、将院に(まと)わり付き腕を引っ張る。

藤原も首にタオルを巻くと、その(あと)に続いた。

そして3人がカートに乗り込むと、若宮は振り返りざま得意げな顔をし

桐壺に向かって思い切り舌を出す。


〝べー〟



「なんだあいつ⁉帰ったらしばくっ‼」


若宮に向かって桐壺は拳を突き上げた。


「…ほんと子供だ」


苦笑いする葵。


「…でもまぁ、一つは取り得があるもんだな?

俺はリフティングが100ちょい越える

ぐらいだから、はっきり出るとは言えなかった」


「100超えるって、レイ凄いよ!

じゃ若宮くんはプロを相手にしてるから、もっと出来るってこと?」


「だろうな?」


「…そういえば将院先輩って、サッカーやったことあるのかな?」


「あぁ~、どうだろ、見たことはないな?」


「もしかして、レイの方が上手(うま)かったりして⁉」


「まさか」


「だって、選手に決まったときの将院先輩

何かを言いいたそうな感じだった…もしかして自身がないのかも⁉

今からでも遅くない、レイと交代できるか聞きに行こう!」


「ちょ、ちょっと待てよ葵!」



「あっ、…」


葵は有無を言わさず桐壺の腕をグイッっと掴み

引き()る様に外へ出る。

大内は二人を止めようと駆け寄ったが

口を挟む間もなく桐壺は連れ去られた。


「行ってしまった…仕方がない

時間を無駄にできないし、ここは二人に任せて自分のできることをやっておこう」


一人残された大内は鞄からサッとメモを取り出すと

平安時代の出来事をブツブツ言いながらペンを走らせた。





蹴鞠が行われる〝懸〟の中に入ると

葵は急いで藤原の姿を探した。

選手たちには既に鞠が渡され、練習段階に入っていた。

その中で将院はというと、手に持った鞠をジッと見つめている。



「やっぱり、見てよレイ!将院先輩だけ鞠を蹴ろうとしないよ

スポーツ界の王子とか言われてるから

みんなの前で失敗して格好悪っ!なんて言われるのが怖いんだ⁉」


「そうか?俺にはそんな風に見えないけどな…」

「あっ、先生みっけ!」


藤原を見つけた葵は周りに気付かれないよう

後ろ側へ回り込み、小さな声で呼びかけた。


「藤原先生っ…」


そこへ悲鳴にも似た大きな歓声が湧き上がる。

何が起こったのか解からない葵は競技場へと目をやった。

すると予想も付かない光景が目に飛び込んで来る…



金色に輝く鞠は空高く飛び、地上に落ちる事なく優雅に舞う。

将院の長い足は前や後へと華麗に動き、自由自在に鞠を操った。



「なぁ!慌てることなかったろ?将院先輩は何をやらせても万能なのさ」



自分の見る目は正しかったと、桐壺は誇らしげに笑う。

葵はホッとすると同時に鳥肌が立ち

胸の奥がキュッと締め付けられた。

左近の勝利を確信した二人は

興奮が治まらないまま、大人しく控え室へと帰ったのであった。







ドームの天辺に大きな巻物が吊るされ勢い良く帯が解かれた。

巻物は滑るように落ちると、左近、右近の得点発表となり

蹴鞠はパラパラとさえない拍手で締めくくられた。

そして競技を終えた将院と若宮は

平安風に建てられた、選手控え室へと戻って来たのである。



「あ~あ、サッカーボールと鞠じゃ

感覚が違うんだもんなぁ~

サッカーなら勝てたのに…

なかなか実力が出せないもんですね!将院先輩」


みんなの冷たい視線が若宮に集中する。

それを(さえぎ)る様に将院は前へ出ると頭を下げた。


「みんなすまない」

「なんで将院先輩が謝るんだよ⁈へたくそはこいつだろ‼

将院先輩が行く前に言いたかったのは、こいつのことだろ⁉」


桐壺に指をさされ、若宮は将院の後ろへ逃げ込んだ。


「レイ、ズバリ当ってるけど、ここはしーっ!」


葵は人差し指を口に当て、言っちゃダメのポーズをとる。


〝こいつだけには言われたくない!〟と

イラっと来た若宮はひょっこり顔を出した。


「なんだよその言い方⁈お前は黙ってろ!」


葵への生意気な態度に反応した将院は、若宮を瞬時に(にら)みつける。

殺気を感じた若宮は、どうして機嫌を損ねたのかは分からなかったが

とりあえずもう一度顔を引っ込めることにした。



「とにかく選ばれた以上、俺にも責任がある」


とは言っても明らかに将院のミスではなかった。

将院は優雅に鞠を三度蹴り上げ、ちょうど若宮の足元へと落下させた。

すると若宮は急にそわそわ足をバタつかせ

力いっぱい右足を振り上げた。

そして鞠にかすりもせず空振りし〝ドッシーン〟と尻餅をついたのだ。



「いやいや頭之中くんは悪くない!私の采配(さいはい)ミスだ」


いつの間にか藤原も二人の後に続き、控え室に入っていた。



(いやいや先生も悪くない。悪いのは反省の色一つ見せない誰かさん…)


大内もそう言いたかったのだが

ここは自分がチームのまとめ役になり、次の勝利に繋げようと考えた。


「終わってしまったことは仕方がないです。

一試合目を(かて)に、次からは落とさないよう慎重に行きましょう」


「そうですね!ここで揉めるよりは一致団結した方がチームの為です!」


少しでも役に立たねばと、葵も大内の後に続く。

すると藤原に、いつもの(ほが)らかな表情が戻ってきた。


「みんなの言うとおりだな…よし!気持を切り替えて行こう」


「はい!そろそろ次の種目が発表される頃ですし

発表されてからでは選手選びに時間がかけられません

先生、予め予想を立てておくのはどうでしょうか?」


「あぁ、いいですね!大内君」


急いで手帳を取り出し藤原はページを開いた。


「過去のデータからみると二回戦はだいたい頭脳系が多いようです。

きっと平安時代のクイズあたりじゃないかな?

510対90と点差は開いていますが

次の二回戦で挽回すれば大丈夫!

みんなで力を合わせてがんばりましょう!」


「はい!」


一人ふて腐れてジュースを飲む若宮以外、全員が大きく頷いた。





「第一回戦は右近の橘の勝利となりました

加茂川(かもがわ)選手と(かん)選手の息がピッタリ合い

そこそこな蹴鞠を披露して頂きました。

二人とも陸上、アメフトと活動するスポーツは違いますが

データによりますと、初等部時代に同じサッカークラブチームに入っていたようです。

その初等部時代のコンビネーションが勝利へと導いたのでしょう。

そして左近の桜では、パーフェクトに蹴られた将院さまの鞠を

若宮選手がなんと三度も落とす⁈

というハプニングがおきました。

そのため両チームの得点がかなり開いております。

次の試合で左近の挽回となりますでしょうか…さぁ続きまして第二回戦です!」



広いグラウンド内に霧が昇り始め、今度は太鼓と横笛の音色が響き渡る。



「宴第二回戦の競技は…偏継ぎ(へんつ)です!

主に女性や子供が、漢字の知識を競い合う為に行われたと言われています。

こちらも二名の選手を選んでください。

グラウンド東側〝カルタの間〟にて20分後に試合開始です!」





「へん…なんだそりゃ?葵、知ってるか?」


桐壺は自分が出る種目でない事はなんとなく察しはついたが

どんな内容なのかは見当がつかなかった。


「〝へんつぎ〟漢字の(つくり)に偏をつけて字を完成させたり

旁を示してそれに偏をつけた文字をいくつ出せるかとか

まぁ漢字の組み合わせゲームみたいなもの」


「さっすが歴史オタク!」


「そ、そぉ~かなぁ?」


葵は頭を()いて照れ笑い。

その二人のやり取りを、バカにする様な眼つきで若宮は見ていた。


(オタクって言われてあいつ喜んでるぞ?

ありえねぇ~?相当バカだな…あいつよりは全然俺の方がマシ)


聞こえない程の小さな声で(ののし)ると

若宮は立ち上がり、再び自身満々な顔つきで藤原へと近づく。



「私の調べたデータだと、まずは大内君ですね。で、問題はあと一人なんですが…」


藤原が顔を上げるといつの間にか若宮が目の前に立っていた。

一回戦を落としたばかりなのに、また高飛車な態度が見てとれる。



「今度こそ俺の出番ですよ」



その言葉に藤原はもちろん、全員が目を大きく見開いた。

さすがに人の良い藤原でもこればかりは(だま)されない。


「さっき出たばかりだから、少し休みなさい」


淡々とした口調でお断りする。


「全然疲れてないよ先生~」


「疲れてなくても休みなさい」


「おれ、漢字一級なんだけど?」


「……いっ、一級⁈」


藤原の声が裏返った。


今まで若宮をあえて自分の視界に入れなかった大内までもが直視する。


(一級はそう簡単に取れるものじゃない…

こいつ、また嘘をついているのか?それとも恥をかいた分

名誉を挽回したいのか、どっちだ?)


そっと眼鏡の端を持ち上げ大内は若宮の真意を探った。



「なんなら証拠を見せましょうか?」


「いやいや、そこまでしなくても結構…

ほぉ、一級でしたか?では漢字が得意なんですね?」


「ん~、まぁそんなとこかな」


いつもの軽い返事だったが、藤原は深く頷き安心した様に顔がほころんだ。

その甘い判断を見逃さなかった将院はすかさず口を挟む。


「先生、ここは慎重に選んで下さい」


「あぁ!そうだったね。

もう一度みんなのデータを見てから決めることにしよう」


素早く手帳を取り出すと、藤原はページをペラペラ捲り始めた。

藤原の反応に手応えを感じた若宮はほくそ笑む。

そして自分専用に連れてきた若いメイドを呼びつけた。


「おい」


「はい坊ちゃま」


「俺の一級の賞状の写メをすぐに送らせろ」


「かしこまりました」


何しろアピールするような大きい声だったので

聞きたくなくても耳に入ってくる。

そのアピールに藤原の顔色は一つも変わらなかったが

ページを捲る手は止まっていた。

…ハッと将院が顔をあげると同時に藤原の決断が下された。


「よし!次で挽回して下さい、若宮君!」


「えーーーーっっ⁈」


非難する桐壺の声が外まで響き渡り、将院は大きなため息をついた。







グラウンド北側にある遥か遠くの観客席に大内は視線を移した。

そこは大企業のトップ達が座る招待席である。

生徒たちの親がスポンサーなので

イベントの度に必ず足を運ぶのだ。

この勝負に将来がかかっている特待生の大内は

真剣な面持ちで見つめていた。


(全員エース級の右近相手に優勝は厳しいかもしれない…

でも自分のアピールだけはしっかりしておかないと

俺はみんなと違って悠長なことは言ってられない)


そんな切迫した大内とは対照的に

ハイテンションな若宮は、英雄気取りで観客席に手を振っていた。





その頃〝カルタの間〟では平安の衣装を見にまとい

妖艶な美しさを漂わせた朱雀弘徽(すざくこうき)

舞台下からアイドルさながら姿を現した。

ドーム内のファンは一斉に立ち上がり、黄色い声援を送る。

それに応えるかのように、弘徽はカメラに向かって流し目で微笑んだ。





その映像を控え室で見ていた葵たちは絶望ムード一色となる。


「ここで弘徽が出てきたか…」


将院が重い声で呟く。声の響きで弘徽の手強さが感じられた。

どこまでが本気で遊びなのか?

弘徽の登場で、葵と桐壺は最悪のシナリオを考えざるおえなくなった。





一方、着慣れない衣装を見下ろし

緊張ぎみの大内は手に汗をびっしょり掻いていた。

何回か深呼吸をして〝落ちつけ!〟と自分に言い聞かせるが一向に変わらない。


(ダメだ、集中できない…)


すると目の前に座る弘徽が目に入った。

弘徽はというと退屈そうに欠伸をかみ殺す有り様。


(さすが余裕だな?あいつに比べて俺のちっぽけさ…笑える)


弘徽が良い意味での薬となり

余計なことが吹っ切れた大内は本来の自分を取り戻した。






「右近、左近、両チーム選手の準備が終わりました。

それでは競技内容を説明いたします」


放送部の部長は、画面に映し出された文字を

目でしっかり追いながら読み上げた。

何しろ宴の内容は極秘のため、放送部員ですら進行と同時に知る事になる。


「まず一人は、裏返しになったカルタをめくり

バラバラになった漢字の偏と(つくり)を組み合わせ

一つの漢字を完成させます。

そしてもう一人は前に並べられた札の中から一枚を選び

その札に書かれた偏に合う旁を考え、出来るだけ多くの漢字を書きます。

各選手がどちらを担当しても構いません。

途中で交代しても結構です。

ただし二つの競技は同時に行います。制限時間は10分間。

札を入れ替え三回戦行います。それでは今から偏継の始まりです!」




大内は弘徽の動向を目で追いながら若宮に駆け寄った。


「どっちに行く?漢字に自信があるなら書く方にするか」


「あぁ…俺、坊主めくり好きだから、カルタめくる方でいいや」


若宮の様子が何処かぎこちない。


「…まさかお前?」

「どっちでも一緒だろ、とりあえず俺はこっちに行くからな!」


若宮は逃げるようにカルタが伏せられてある方へと走りだした。



「やっぱりかっ⁈あいつ一体どう言うつもりだ!」



怒る暇もなく大内は反対に走り出し

弘徽が座る向かい側へ滑り込んだ。

既に弘徽はスラスラと筆を走らせている。

ハァーハァー息を吐きながら

大内は急いで前に置かれてあった札のうちの一枚を裏返した。


「さんずい…」


そして台の上に用意された筆を取り、長く敷かれた巻物にサラサラ書き始めた。


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