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ウタカタノヒカルさま  作者: 紗菜十七
16/34

テントチノサ


パール色に輝いた広い廊下の端を

学園アイドルのファンたちがビシッと姿勢を正し整列していた。

ちょうどその真ん中を通るように

熱い視線に見守られながらヒカルは歩いていく。


これは学園アイドルが教室を移動する度に見られる光景で

その麗しい姿を一目見ようと

ファンクラブで割り当てられた指定の位置に並ぶのだ。

ヒカルが目の前を通り過ぎると、オーラを肌で感じ取った

ファンたちは次々に小さな溜息をこぼした。


ノーブル学園のファンクラブは大きく3つのグループに別れ

各リーダーが協定を結び、徹底したルール決めをしていた。

そのルールの一つに、正門を除く校舎内での声援や呼びかけは禁止。

このルールのおかげで、じっと見られることはあっても

四六時中うるさく付きまとわれる事はなかった。


情報システム室のドアが閉まり

手厚い歓迎から開放されたヒカルは白い壁で区切られた机に座った。

この教室には、最先端のコンピューターが取り揃えられ

世界の情勢や投資に関する情報が常に流れていた。


ヒカルが席に着くと自動的にコンピュータのスイッチが入り

画面は素早く立ち上がった。

すると監視でもしていたかのように

絶妙なタイミングで弘徽(こうき)が教室に現れた。



「ヒカル!」


弘徽は軽く手を上げ、いつもの様に微笑を浮かべながら歩いて来る。


ヒカルは一度だけ視線を弘徽に向けたが

直ぐにコンピューターの画面へと戻した。


「…何かようか」


弘徽は机の端に軽く腰を掛けると、画面を覗き込む。


「投資?僕のマネーもお願いしよっかな~…」


今度はヒカルの顔をチラリと見る。

だが反応がないため弘徽は本題に入ることにした。


「…あのね、大事な話なんだけど」


「大事な話?」


「そう、とってもね」


左大(さだい) (あおい)のことか?」


不意にヒカルの口から出てきた言葉に弘徽は何秒か静止する。

そして天井を見上げフッと息を()らし口元を(ゆる)めた。



「なんだ、ヒカルも僕のこと見張ってたんだ…

    まさか、葵のこと本気じゃないよね?」


「そう言うお前はどうなんだ?」


「はっきりはしないんだけど

でもね、今までとは違う感じがするんだ。

なんだが無性に手に入れたくなるような…ヒカルはどうなの?」


弘徽はこっそりヒカルの顔色を伺った。

だが読み取れる手がかりなど微塵(みじん)もない。

相変わらず、何を考えているのか分からない冷たい表情であった。


「親同士が会社の利益のために婚約を決めた。お互い何の興味もない」


「なんだそーなの⁉政略結婚(せいりゃくけっこん)ってこと?

まぁちょっと早いけど、僕達の世界ではよくある話だもんねぇ。

…じゃあお互いの恋愛には干渉(かんしょう)しないの?」


「そういう事になるな」


「それを聞いて安心した…って言いたいけど、ちょっと残念かな?」


ヒカルは操作する手を止めた。



「どういう意味だ」


「んー、最初は驚いたけど

ショウだけじゃなくヒカルまでも参戦するのか?って

でもね、だんだんワクワクしてきてさぁ!

だって三人が一人の女の子を取り合うのって初めてでしょ?

これってリアルなドラマじゃない!」


「いつもの恋愛ゲームか…」


「そんなことないよ

だって葵を誰にも渡したくないんだもん。だから今回は本気かも」


「確かショウは撫子(なでしこ)女学院に…」


「人気モデルの夕顔(ゆうか)でしょ?

付き合ってはいないけど、仲良くしてるよね。

まぁまぁ美人だったから、ショウをからかってみたくなって

〝夕顔を今夜のデザートにしちゃおうかなぁ?〟

って言ったことがあるんだ。

そしたらいつもの様にロイヤルな笑顔で軽くあしらわれたよ。

でも今回は明らかに違う…

葵のことになると怖いくらいむきになる」



弘徽は一瞬鋭い()つきになったが

直ぐにスッキリした顔で立ち上がった。


「もう行かなくちゃ。

今日はいい天気だし、外でランチしようよ。恋敵(こいがたき)も誘って」


「今日は用事がある。二人で食事をしてくれ」


満足のいかない返事に弘徽はちょっと()ねた表情を見せるが

ヒカルは特別らしく駄々っ子は引っ込めた。


「そ、じゃあまた電話するね」


「ああ」


意味深な笑みを浮かべながら、弘徽は教室を後にする。

ヒカルは弘徽がいなくなると、キーボードから手を放し

しばらくの間、画面をじっと見つめていた。











「はい、タオル」

「サンキュ~…って(あおい)⁈ここで何やってんだ!」


クマさん柄のタオルを受け取った桐壺(きりつぼ)は思いっ切り驚いた。

将院(しょういん)と特訓中の葵がなぜか目の前にいる。

ここは桜ドームのティールームであった。


「レイが来るの待ってたんだ~」


「何で待つんだよ?将院先輩と猛特訓じゃねーのか」


「それが昨日も今日もなんか様子が変なんだよね…

将院先輩から避けられてる気がする」


「それは葵の考えすぎだろ?」

(恋に落ちると余計な事まで考えるもんだな?)


桐壺は顔をニンマリさせる。


「そおかな~?」


「そおそお!とりあえずもうすぐ昼だし一緒に飯食おうぜ~」


「やったー!お腹すいてたんだ~」


お昼にはまだ少し早かったがテーブルにお弁当を広げ始めた。

相変わらず余裕で三人前はある大きなお弁当である。

二人は綺麗に敷き詰められたおかずに(はし)を入れた。。


「…で、そっちはどんなトレーニングをやってるんだ?」


「まだやってない」


「やっ、やってないっ??じゃあ二人してなにやってんだ……」

(ハッ!もしかしてっ⁉ここは突っ込むのまずかったか?)


桐壺は葵に何か変化がないか探ってみる。

だがいつも通りのむさ苦しい前髪に化粧っ気のない顔だった。


(何もなかったな……

 まぁ葵が相手だと将院先輩もそう簡単にはいかないか?)


期待が外れ桐壺はがっかり。


「正確に言うと、私だけやってない。

将院先輩は朝からみっちり凄いトレーニングをやってるんだけど

まぁそれも宴に選ばれる前から毎日やってるメニューなんだって」


「さすがトップアスリートだなぁ」


「あのさ、私こっちに来てトレーニングしようかな?」


「あ~それはダメ」

「なんで?」


「予想以上に若宮のヤツ、運動オンチだった」


「うそ‼」


「ほんと。だからかなり先生も手間取ってるぜ」


「じゃあ、頭がいいとか?」


「それも違う

大内(おおうち)先輩が調べたんだけど

 中等部で10位…しかも下から数えてだぞ!」


「マジーッ⁈」


「考えたくないけど、金の力で入ったとしか思えねぇな。

 それか右近(うこん)が送り込んだ刺客とか?」


「うわっ、なんかありそう!」


「だよな」


葵は桐壺のお重箱からずっしりした玉子焼きを(つま)み取る。



「でもさぁ、大内先輩って学年二位の成績なんでしょ?」


「それがあっちには三位がいるんだって」


「三位ってまさか」


「そう、俺がカジノで負けた朱雀弘徽(すざくこうき)

大内先輩は毎日勉強して二位の座を必死で守ったって言うのに

あいつは努力もしないで三位なんだって。

あ~言うのを天才ってゆーのかもな?」


「あの人そんなに凄いんだ…でもまだその上がいるんだよね?」


「うん、それが俺も聞いてビックリした。天は二物を与えるんだなぁ~」


「誰それ?」


大きな口を開け、桐壺は特大の伊勢えびをほおばった。


「顔よし、頭よし、大金持ち…じゃあ三物か?」


「そんなヤツいる?」


「いるいる。残りの一人、ヒ・カ・ル・さ・ま」


「ヒッ、ヒカルっ⁈」


「あの顔で、学年トップの成績だって」


「そんな頭いいの…」


「ヒカルさまが右近に入ってたら確実に負けてたな。

今の感じだと将院先輩がいても、若宮がお荷物になるから

五分五分(ごぶごぶ)ってとこ。油断はできないぜ」


「そっか…」


「まぁあれだ、どんな種目が出てくるか分かんねぇから

  葵は自分の得意分野を(みが)いとけよ」



葵は力無げにこくりと頷いた。

ヒカルの更に凄い面を知ってしまったからである。

天と地もある自分との差を感じた葵は

ヒカルに申し訳ない気持ちで一杯になった。










それから一週間があっという間に過ぎ

とうとう(うたげ)の日を明日に迎える事となった。

将院はこの一週間、相変わらず葵に好きなことをさせ

トレーニングらしきものは一切させなかった。

それどころか世界各国の珍しい本を

一部屋が(つぶ)れるほど葵に買い与え、甘やかし放題…。


一方、弘徽は昼時になると

将院のプライベートルームへ押しかけ

有名なシェフを連れ込んでは豪勢(ごうせい)なフルコースを振舞う毎日。

二人が危うく喧嘩になるところだったのが嘘のようで

特に弘徽は何事もなかったように

いつもの調子でベラベラと自分の話しをしていた。



ヒカルはというと、あの星を眺めた夜以来

一度も会っていない。

複雑な家庭環境が少々気にはなっていたが

自分から連絡を取る勇気はなかった。


あの日の帰り際にヒカルから渡された携帯番号のメモを

引き出しにしまうと、葵は自分の部屋の窓から夜空を眺めた。


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