大きな醜い鳥Ⅱ
悪い夢だと思う。
実際はそううじゃない、そんなことはわかっている。
だけどそうであってくれないとただただ自分が馬鹿みたいじゃないか。
皆元の世界に帰りたがっているはずだと思っていた、だからお互い協力してこの世界から抜け出す方法を探そうと自分なりに考えていたんだ。
でも違った、協力を拒む人が居た。
彼は僕に仲間との接触をするなと言った。
彼はこの世界で生きていく中で今の仲間たちと出会って自分の世界を見つけたのだろう、そしてその世界が壊れてしまうの恐れている。その結果僕達の存在が疎ましく見えたのだ。
仲間を取られると彼は感じて僕に顧願した。
そうじゃない。
その後彼は僕を脅した、『もし話を聞いてくれないなら旅の同行はできない』と。
彼の不敵な笑みと条件に僕は…。
「そろそろ起きたらどうだ?」
ドレッドの声がカナタの耳に入る、それと同時に体は少し驚いたように動きカナタは上半身を起こした。
「…おはようございます」
「いつも早起きのお前にしては珍しいな、あの女二人の寝坊癖でも移ったか?」
「いえ、ちょっと考え事をしていたら中々寝付けなくて」
カナタはそう言いながら着替え始めた、テントの隙間から見えた外の景色からすると太陽が真上にきていてもおかしくない時間だった。
「考え事ってのはコウヘイから言われたことか?」
ドレッドの質問に寝起きで大きな欠伸をしていたカナタの顔は一気に真剣な顔になった。ドレッドに振り返ると口早に何故そのことを知っているのか問いただす、ドレッドはカナタの驚き様に落ち着くよう促しカナタとコウヘイの間で行われた脅迫とも言える条件の話し合いについて知っていることを話した。
「お前が昨晩コウヘイと二人きりで飯食ってたのを『あの二人は出来てる』とか言いだした奴がいたんだ、皆否定したんだがそいつは気になったらしくお前らの話が聞こえるとこまで行ったらコウヘイの話が聞こえてきたとさ。翌朝だったかな急に口喧嘩が始まったと思ったらあのザマよ」
そう言ってドレッドはテントの窓からとある風景をカナタに見せた。そこには青い鳥の面々が話し合いを行っている様子が見える。
「俺が外にいるとミッチーが来て事情を説明してくれたよ、深々を頭を下げられた後話し合いがあるからとそそくさと戻って行った、なんとなく外に居づらい俺はしょうがなく町を散策して戻ってきても寝ていたお前を起こしたってことだ」
ほれ、と彼は紙袋を手渡した。カナタがそれを手に取るとほのかに暖かく食事のようだ。
「外出られなえぇだろ、それでも食っとけ」
「ありがとうございます、ドレッドさん」
自分の立場と気持ちをドレッドは理解してくれているようで外に出なくてもいいよう彼なりの配慮をしてくれたのだとカナタは感じた。
「そう思うなら昨日のうちにでも相談してくれてもよかったんじゃねぇの?」
「そう、ですよね。でも、あの、何て言えばいいのか」
「まぁお前が一人で考えるやつだってことは少なからず分かってるつもりだから別にいいさ」
「すいません、本当に」
カナタはドレッドに相談しなかったことを後悔しながらも自分のことを理解してくれていたことに感謝をした。
カナタが食事と着替えを終えた後ドレッドが女性メンバーとの合流を提案しカナタは賛成した。
「んじゃ行くか、リーダー」
「はい、行きましょう」
テントから出ると青い鳥のメンバー達が話し合っている様子が見えた、立っている者や座っている者、防具を身に着けている者や普段着の者、中にはミチタカやシンシ、シータの姿も見え何より目を引いたのは大声で喋るコウヘイの姿だった。
自分が悪いことをした訳でもないのにと思いながらもカナタは逃げるようにその場を去る、青い鳥のメンバー達の話し合いはまだまだ終わらないように見えた。
町に入ったカナタ達は女性メンバーが泊まる宿へと足を進める、民家の立ち並ぶエリア抜けると酒場や雑貨屋等冒険者が立ち寄ることが予想される店が軒を並べる。その中にある唯一の宿屋へ向かうと店の前に三人の姿が見えた。
カナタの姿を見つけたアリサは一気に駆け寄った、カナタは何と言えばいいのか考えていたが結局いつもの挨拶をすることにした。
「おはよ…」
「なんで言ってくれなかったんですか!」
まぁ彼女ならそういう、そんなことはわかっていた。
「また一人で考え込んだんでしょ!」
彼女も僕のことを理解してくれているようだ。
「いつもいつも内緒にして!」
「今回はちゃんと相談するつもりだったんだよ!」
「嘘です!どうせ自分だけで勝手に決めるつもりだったのなんてわかりきってるんですよ!」
この旅だって勝手に決めたことだしその他にも色々と説明や承諾が後回しにすることがあったのでこれ以上の反論はできない。
こちらを少し怒った目で見つめるアリサからカナタは視線を背ける、そして傍にいたはずのドレッドが宿屋前のイースとメイと三人で話をしているのが目に入った。こちらをまったく見ようともしない。
「聞いてるんですか!?」
「はい!」
宿屋の前でカナタはアリサの説教を受けることになった、その説教もまだまだ終わりそうにない。
珍しく続きます




