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蝶を飼う
病室の母が相変わらず眺めていた窓の外の空はもう秋の雲が浮かんでいる。
その下に見える花壇の隅であの、俺が逃がした白い蝶が力無く舞っていた。
舞うと言うよりは、風に吹かれ流されるまま漂っている様に見える。
翅はところどころ裂けて、螺鈿のような虹色の煌めきも今はもう放っていない。
「母さん」
俺が呼び掛けると、母はいつもの様に虚ろな目をしてこちらを見る。
「母さん、本当は心が壊れたふりをしているだけなんだろう?俺の事、本当は解るんだろう?」
母は何も語らない。
だが、一瞬だけ驚いた様な顔をして、その後幽かに笑ったのを俺は見逃さなかった。
俺が母に会ったのは、これが最後になった。
白い蝶は風に吹かれて何処かへ行ってしまった。
オレンジの光りを投げかけ陽が沈み、夜がやって来る。
黒い匂いを辿り、最高の悪の魂を探そう。
……さあ、
幼虫の餌を狩らなければ。
あの温室で
蝶を飼う為に。
【了】




