東京・岸和田
今年俺たちはデビュー10年を迎える、と同時に関西から上京して10年になる。
まだ売れなかったあの頃、18キップを使って観光がてら東京へ出た。何もかもが異空間に感じ、エスカレーターの立ち位置が逆ということなんて知らず東京人に冷たい目で見られた。
渋谷にあるバンドがメインの雑誌「BAND MANIA」の編集部へたどり着いた。俺のバンドを宣伝するつもりではなかったが入り口で高いビルを見上げていると声をかけられた。
編集長である海崎さんという方が応対してくれた。CDを渡すと「知ってるよ、関西で活動してるんでしょ。」と言われた。
知られていた。ということは知ってるが声をかけない=印象に残っていない、売り出さないということになる。
がっくりして編集部を後にしようとした。「君たち、東京で活動しないの?」声をかけてくれたのは姫路さんだ。「東京に出るのなら特集組むけど…」
俺は即返事をした。メンバーにはパルコ前の公衆電話で伝えた。みんな声が明るかった。
そして京都の桜が散ったころに東京へ出た。デビュー曲として「東京」を書き下ろした。ジャケット写真は東京タワーだ。
あれから10年、俺は18キップではなく新幹線で移動できるようになった。