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秘密・空美(くみ)


前置きとして書きますが、この話はかなり重いです。わたし自身体験したことのないことだらけです。すべて空想ですし読んだことで嫌な思いをするかもしれません。






 学校の先生にちゃんと一度で読まれたことのない名前は、父が世界を旅した中で一番美しい景色が空だったからだそうだ。

 私はそんな旅先で出会った両親のひとり娘として大事に育てられたように思う。やりたいことはある程度やらせてくれたし、京都生まれだからか日本の女性らしい子に育つようにと礼儀作法をきちんと教えてくれた。

 しかし両親の期待や愛情を裏切ることをしてしまった。今私のおなかには小さな命が宿っている。まだ学生なのにそうなってしまったことが恥ずかしくて彼以外には言えずにいる。

 先日彼を家に連れて紹介したけれどお互い学生ということもあり、両親はそんなことなんて思わなかっただろう。さすがに言えずに発覚してから一ヶ月が経つ。

 彼は私と同じ心理学の学生で同じジャズ研サークルのメンバーだ。私は彼が吹くアルトサックスの音色に惹かれた。色っぽくて艶がある音が好き。私はというと高校まではジャズというより吹奏楽寄りのことをしていたのでとても新鮮で彼が好きなジャズアーティストのCDをレンタルして聴いてがんばって話を合せたりした。

 そんな彼の反応は「産んでほしいねぇ。でもこの先どうしようか。」というものだった。私はすぐに下ろせと言われると思っていたから彼の言葉は意外だった。しかし、わたしたちに先なんて見えなかった。わたしは恥ずかしくて下ろしたかった。

 でも、おなかの子はどんどん成長していって、体が重くなるのがわかった。部屋で音楽を聴いているとおなかがゴロゴロした。反応するようになってきた。おなかがゴロゴロする度におろすのが怖くなった。

 ひとりで悩んでも仕方ないと思い、夏休みに入った涼しい日の朝病院に行った。先生と相談した結果、下ろすなら早いほうがショックは小さいということだった。先生の言うとおりだった。だんだん愛情が芽生えてきてこの子を殺すなんて怖くなっていた。

 その日の晩に母に相談した。母は「なんで早く言わないの」と涙目で言った。しかし「あなたの子なのだからあなたが決めなさい」とも言った。わたしは下ろそうと決断した。その日はごめんねで頭がいっぱいで眠れなかった。

 おなかの子と最後に過ごす日は過ごしやすい気温でゆっくりした時間が流れていた。「ロックンロール」というこんな日に合うゆっくりとした曲を聴いていた。いつもよりおなかがゴロゴロしてごめんねごめんねと泣くしかなかった。

 この子はどう思っているだろう、きっと私を恨んでいるだろう。でもね、少しの間だけど君と過ごせてよかった。いつか私が大人になるとき会えたらいいな。


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