喫茶 ワールドスカイ・多田聡一
京都の祇園外れにある小さな戸を入り10段ほどの階段を下ると真正面に空の写真とモノクロの写真を使った「喫茶・ワールドスカイ」の大きな看板がある。これは私が学生のときから世界を旅して撮り貯めた写真だ。この店は妻との思い出の喫茶店のような店にしたいと思い5年ほど前にオープンした。
私は23歳のときに旅先のパリで2つ年下の今の妻に出会った。彼女はカメラを3つも持ち同じエッフェル塔を3回も撮っていた。パリに着いてすぐだったので少し緊張していたが日本人を見て安心した。彼女はパリの響きが似合う明るい茶髪のショートカットで背がかなり小さかった。趣味はまったく合わなかったがそのことが逆に新鮮でカフェで話した。気付いたら外が暗くなっていた。まだ携帯電話なんてなかった頃だからメールなんてものはなく日本に帰ってからは文通で連絡を取っていた。彼女は京都の大学生で東京に住んで居た私からはその距離は随分遠く感じた。出張で京都に行くたびに私たちは喫茶店で会った。2年が経った頃私たちは結婚した。あれから25年経ったが今も変わらず気付いたら隣にいるふわりとした関係でいる。
娘は京都市内の女子大学で心理学を学んでいる。常連客のゆかりさんとは仲が良く、時間があれば美術館や図書館に二人で通っているそうだ。そんな娘も私が妻と出会った歳に近づき、いつかどこかの男と出会い結婚していくのだろうなと思った。そんなときにはどう受け止めようか。この喫茶店でゆっくり男同士コーヒーを飲み交わしたいと思う。
「カランコロン」と重たい木のドアについたベルが鳴った。「お父さん、紹介したい人がいるのだけど。」さて、どんな男だろう。




