君・夏生
成人式のあとにN中学の同窓会をやろう、というメールが回ってきた。同じ吹奏楽部だった女子が幹事をやるらしい。
俺はN中学での出来事は黒歴史にしたかった。思い出そうとしても思い出したくないが故思い出せなくなっている。思い出せないのでとりあえず参加の返事をしたところ、幹事から副幹事という役割を任せられた。ほかにも3人副幹事がいるらしい。
週末、雨上がりの午後に幹事と副幹事たち5人は駅前のファミレスで会議をした。全員卒業以来の顔合わせなので少し緊張した。
副幹事は俺と達也と佳菜と未央だった。達也とは3年間同じクラスで、佳菜とは元恋人同士で、未央は1年のとき少し話したくらいだった。5年も経つとみんな変わっていた。けれどそれが当たり前なんだろうな。
一番驚いたのは佳菜の痩せた姿で、あのときでさえ痩せていたのに げっそりしていた。
その日は店決めや連絡方法などを決めて解散することになった。
同じ方向の佳菜と一緒に帰る。佳菜の左腕には痛々しい傷。あの頃とは別人のように変わっていて痩せただけじゃない、顔色も悪く、髪は脱色に脱色を重ねた白に近い色だった。
「夏生は大学?」と、か細い声で聞く。
「うん、T大学の第二文学部。」
「夏生、昔から本読むの好きだったもんね。」
そんなちょっとぎこちないやりとりをして、別れ際に君が
「あたしは、変われなかった。みんな楽しそうで羨ましくて。変わりたい変わりたいって思っていたらこんな姿になっちゃった。もう戻したくてもあの頃のあたしに戻れないんだ。」と声を張って言った。
俺は何も言えなかった。怖かった。
あの頃の君はもう居ないと思うと、悲しくなったのだった。




