双春、見せて教える
第57話「双春、見せて教える」
配信ルームに、少しだけ“本気の空気”が戻った。
春介は立ち上がり、画面の前に出る。
春海もその隣に並んだ。
さっきまでのドタバタを、一度リセットするように。
⸻
春介
「言葉で伝わらんなら、見せるしかない」
春海
「うん。手本見せる」
⸻
せいちゃん姫、小さくうなずく。
せいちゃん姫
「頼むで、双春」
⸻
きびまる・あわまる・しらゆきも、自然と姿勢を正す。
せきちゃん閣下だけが、なぜか胸を張っている。
せきちゃん閣下
「見て学べ、というやつやな」
せいちゃん姫
「一番見てほしいのはあんたや」
⸻
◆手本開始
春介と春海は、ほんの少し距離をとる。
⸻
春介(静かに)
「ぼくが、守る」
⸻
声は大きくない。
でも、しっかり届く。
⸻
春海
「うん」
⸻
たった一言。
でも、その中に“関係”がある。
⸻
春介は一歩、春海に近づく。
⸻
春介
「大丈夫。そばにおる」
⸻
春海は少し不安そうにしながらも、安心した表情に変わる。
⸻
春海
「ありがとう」
⸻
動きは小さい。
言葉も少ない。
でも――
ちゃんと“気持ち”が見える。
⸻
配信ルームが静まる。
⸻
優子(小声)
「……うまい」
光子
「うん。ちゃんと伝わる」
⸻
結音も、思わずつぶやく。
結音
「すごい……」
⸻
◆解説
春海
「今のは、“守る側”と“守られる側”」
春介
「言葉より、関係と気持ちを見せる」
⸻
しらゆき
「わかる」
あわまる
「やさしい」
きびまる
「かっこいい」
⸻
せいちゃん姫
「ほら、こういうことや」
⸻
全員の視線が――
ゆっくりと、せきちゃん閣下へ向く。
⸻
◆実践(不安しかない)
せきちゃん閣下
「なるほど」
⸻
一歩、前へ。
⸻
せきちゃん閣下(真剣)
「ぼくが……守る」
⸻
……一瞬、いい。
⸻
せいちゃん姫
「お?」
⸻
せきちゃん閣下
「だから……」
⸻
春介
「そのままいけ」
春海
「そのまま!」
⸻
せきちゃん閣下
「粟穂は後で分けよう」
⸻
全員
「戻ったああああ!!」
⸻
せいちゃん姫
「そこやない!!」
⸻
春介、頭を抱える。
春介
「なぜそこに戻る!」
春海
「感情が全部餌に変換される!」
⸻
せきちゃん閣下
「違う違う。今のは“分け合う優しさ”」
⸻
せいちゃん姫
「優しさの方向がおかしい!!」
⸻
コメント欄
「一瞬いけたのにwww」
「最後で全部台無しw」
「餌に帰る本能強すぎる」
「双春の努力がwww」
⸻
◆もう一回
春介
「もう一回やるぞ!」
春海
「今度は“言葉少なめ”」
⸻
せきちゃん閣下
「任せろ」
⸻
再び。
⸻
せきちゃん閣下
「ぼくが……」
⸻
沈黙。
⸻
せいちゃん姫
「いいぞ」
⸻
せきちゃん閣下
「……」
⸻
全員、息をのむ。
⸻
せきちゃん閣下
「……ぴよ」
⸻
全員
「なんでや!!」
⸻
春介
「最短で崩れた!」
春海
「一音で終わった!」
⸻
せいちゃん姫
「もうええ!!」
⸻
◆結論
優子
「えー、本日のまとめ」
光子
「演技は“関係”と“気持ち”」
優子
「ただし」
⸻
二人同時に。
⸻
光子&優子
「せきちゃん閣下には応用できません」
⸻
せいちゃん姫
「それが正解や!!」
⸻
せきちゃん閣下
「ぴよぴよフォルテで解決!」
⸻
全員
「だから違うわあああああ!!」
⸻
こうして――
双春の本気の手本は、確かに“伝わった”。
ただし一羽だけ、
まったく違う方向に受け取ったままだった。
⸻
そして記録に残る。
⸻
「完璧な手本でも、受け取る側によってはぴよになる」
第58話「ばあちゃん、かっこよか」
初夏の午後。
体育館の床に、ボールの弾む音が響いていた。
――バンッ!
――ドンッ!
福岡・地域体育館。
そこでは、ママさんバレーチーム
《博多ドンタクス》が練習していた。
⸻
光子と陽翔が、入り口からそっと中をのぞく。
⸻
陽翔
「……すご」
⸻
コートの中央。
美鈴が、鋭い目でボールを追う。
⸻
「ナイスカバー!」
「もう一本いける!」
⸻
バシッ!
レシーブが上がる。
トス。
そして――
ドンッ!!
⸻
強烈なスパイク。
⸻
陽翔
「うわぁ……」
⸻
その目は、完全に釘付けだった。
⸻
光子
「どう?」
陽翔
「かっこいい……」
⸻
その一言には、素直な驚きが詰まっていた。
⸻
美鈴がこちらに気づく。
⸻
美鈴
「あら、来とったとね」
⸻
軽く手を振る。
その余裕の中に、まだ“現役の迫力”があった。
⸻
陽翔、小さく手を振り返す。
⸻
陽翔
「ばあちゃん……」
⸻
少し照れながら。
⸻
陽翔
「かっこよか」
⸻
その言葉は、しっかり届いた。
⸻
美鈴
「……ありがと」
⸻
一瞬だけ、表情がやわらぐ。
⸻
◆見よう見まね
練習の合間。
ボールが転がってきた。
⸻
陽翔
「あ」
⸻
自然と拾う。
⸻
ぽん、と軽く投げる。
⸻
もう一回。
⸻
ぽん。
⸻
少しずつ、触ってみる。
⸻
光子
「やってみる?」
陽翔
「うん」
⸻
見よう見まね。
⸻
構えて――
⸻
ポンッ。
⸻
少しズレる。
⸻
陽翔
「あれ?」
⸻
もう一回。
⸻
ポンッ。
⸻
今度は、少しだけうまくいく。
⸻
陽翔
「できた」
⸻
その様子を、美鈴が見ていた。
⸻
美鈴
「ええやん」
⸻
ボールを一つ渡す。
⸻
美鈴
「こうやってな」
⸻
軽くトスを見せる。
⸻
ふわっと上がる、きれいな弧。
⸻
陽翔、真似する。
⸻
ポンッ。
⸻
少し低い。
⸻
美鈴
「もうちょい力抜いて」
⸻
陽翔
「こう?」
⸻
ポン。
⸻
今度は、少し近づく。
⸻
美鈴
「そうそう」
⸻
その一言で、陽翔の顔がぱっと明るくなる。
⸻
◆心に残る景色
再び練習が始まる。
⸻
バンッ!
ドンッ!
ナイス!!
⸻
陽翔は、コートの外からじっと見ていた。
⸻
速い動き。
大きな声。
仲間との連携。
⸻
全部が、新鮮だった。
⸻
陽翔
「……すごいな」
⸻
光子
「ね」
⸻
陽翔は、もう一度つぶやく。
⸻
陽翔
「ばあちゃん、かっこよか」
⸻
光子は、少しだけ目を細めた。
⸻
光子
「うん。ほんとにね」
⸻
その日の帰り道。
陽翔は、ずっとボールを抱えていた。
⸻
まだうまくできない。
でも、やってみたい。
⸻
その気持ちが、しっかり芽生えていた。
⸻
体育館の中で見た景色。
ばあちゃんの背中。
ボールの音。
⸻
それは――
小さな心に残る、ひとつの“憧れ”になっていた。
第59話「バレーと恋愛クリニック」
それから、陽翔は何度も博多ドンタクスの練習を見学に行くようになった。
体育館に入るたび、ボールの音に目を輝かせる。
バンッ。
ドンッ。
「ナイス!」
「もう一本!」
陽翔は、そのたびに小さく拳を握った。
陽翔
「ばあちゃん、今日もすごか……」
美鈴は笑いながら言う。
美鈴
「見るだけやなくて、いつか一緒にやる?」
陽翔
「やる!」
光子
「即答やね」
陽翔
「だって、ばあちゃんかっこよかもん」
その言葉に、美鈴は少しだけ照れた。
けれど幼稚園に行けば、陽翔はいつもの陽翔だった。
博多南幼稚園、年中組。
今日も教室のすみには紙の看板が出ている。
ふわもちぷにすけ恋愛クリニック
本日も診察中
陽翔
「次の患者さんどうぞ」
結音
「はい」
ところが、その日、結音がそっと手を上げた。
陽翔
「え?」
結音
「今日は、うちが相談します」
教室がざわつく。
先生
「結音ちゃんが相談側?」
陽翔
「どうぞ」
結音は椅子に座り、少し真剣な顔をした。
結音
「あのね」
陽翔
「うん」
結音
「うち、お母さんみたいにドラム叩けるようになりたいと」
陽翔
「いいやん」
結音
「でも、もしドラムがめっちゃうまくなって、たくさんの男の子から“付き合って”って言われたらどうしよう」
一瞬、教室が静かになった。
陽翔は、腕を組んだ。
陽翔
「深刻ですね」
先生
「深刻かな?」
結音
「陽翔先生、どうしたらいい?」
陽翔はしばらく考えた。
そして、真顔で言った。
陽翔
「まず、ドラムを叩けるようになってから考えよう」
教室、爆笑。
結音
「そこから!?」
陽翔
「まだ起きてない事件やけん」
結音
「でも将来の不安!」
陽翔
「将来の不安は、今の練習で小さくする」
先生
「急にいいこと言った」
陽翔
「あと、男の子がいっぱい来たら、整理券を配る」
結音
「配らんわ!」
翔太
「僕も並んでいい?」
結音
「翔太くん、乗らんで!」
陽翔
「翔太くんは一次審査から」
結音
「審査するな!」
年中組は大爆笑。
陽翔はさらに続けた。
陽翔
「それから、付き合ってって言われても、結音が好きじゃなかったら断っていい」
結音
「うん」
陽翔
「ドラムがうまいからって、誰かと付き合わないかんわけじゃない」
結音は少し黙った。
結音
「……それはそうやね」
陽翔
「でも、もし好きな人ができたら」
結音
「できたら?」
陽翔
「まず恋愛クリニックに相談してください」
結音
「自分のクリニックやん!」
先生たちは笑いすぎて、机につかまっていた。
美鈴園長も廊下から見ていて、肩を震わせる。
美鈴
「陽翔、バレーだけやなくて相談員まで上達しよる……」
その日の診断結果は、結音が紙に書いた。
本日の相談:
ドラムがうますぎてモテたらどうするか
陽翔がその下に書き足す。
診断:
まず練習。モテても自分で選ぶ。整理券は不要。
結音
「整理券は不要って書かんでいい!」
陽翔
「大事な注意事項」
帰り道。
結音は少し照れながら言った。
結音
「でも、今日の答え、ちょっとよかった」
陽翔
「やろ?」
結音
「調子乗らんで」
陽翔
「はい」
光子と優子は後ろで笑っていた。
優子
「結音、もう将来のモテ問題考えとるんやね」
光子
「陽翔の回答、意外とちゃんとしとった」
優子
「ただし整理券で全部台無し」
光子
「そこが陽翔らしい」
陽翔は前を歩きながら、ふと体育館の方を見た。
陽翔
「明日、またばあちゃんのバレー見に行きたい」
結音
「うちはドラム練習する」
陽翔
「じゃあ将来、結音がドラムで、俺がバレー?」
結音
「ジャンル違いすぎる」
陽翔
「でも応援する」
結音は少しだけ笑った。
結音
「うちも、陽翔のバレー応援する」
春の道に、二人の声が弾む。
バレーに憧れる陽翔。
ドラムに憧れる結音。
そして今日も、恋愛クリニックは笑いと少しの本音で大繁盛だった。
第60話「灯乃の相談、せきちゃん閣下ちゅ問題」
その日の夕方。
柳川家のリビングでは、幼稚園から帰ってきた結音と陽翔が、今日の「恋愛クリニック」の話でまだ盛り上がっていた。
結音
「だから、整理券はいらんって!」
陽翔
「でも、たくさん来たら困るやん」
優子
「年中さんでモテ対応マニュアル作らんでいい」
光子
「でも答えはちゃんとしてたよね。“自分で選ぶ”って」
陽翔
「そこ大事」
結音
「ドヤ顔せんで」
その時、灯乃が、とてとて歩いてきた。
灯乃
「ひのも、そうだんある」
全員がぴたりと止まる。
優子
「灯乃も?」
灯乃
「うん」
結音
「恋愛クリニック?」
灯乃
「くりにっく」
陽翔
「どうぞ、患者さん」
灯乃は小さなクッションにちょこんと座った。
灯乃
「あのね」
結音
「うん」
灯乃
「せきちゃん閣下に、ちゅって言われた」
優子
「ああ……あれね」
光子
「問題のやつ」
灯乃は、少しほっぺをふくらませる。
灯乃
「わたち、にんげんのおともだちの、ちゅがいい」
一瞬、静かになる。
次の瞬間、結音が真剣な顔になった。
結音
「それは大事」
陽翔
「非常に大事です」
優子
「急に専門家の顔になった」
灯乃
「せきちゃん、とりやもん」
光子
「うん、鳥やね」
灯乃
「くちばし、いたそう」
陽翔
「現実的!」
結音
「灯乃、ちゃんと分かっとる」
陽翔は紙を取り出し、診断結果を書き始めた。
本日の相談:
せきちゃん閣下の“ちゅ”は困る
結音
「診断は?」
陽翔
「せきちゃん閣下は、距離感が近すぎます」
結音
「正解」
灯乃
「きょりかん?」
優子
「近すぎるってこと」
灯乃
「ちかすぎ、いや」
結音
「いやって言っていいとよ」
陽翔
「人間のお友だちがいいなら、そう言えばいい」
灯乃
「ひの、いう」
結音
「なんて言う?」
灯乃は小さな手をぎゅっと握った。
灯乃
「せきちゃん、ちゅはだめ。ひの、にんげんのおともだちがいい」
全員、ほわっと笑う。
優子
「完璧」
光子
「これは名回答」
陽翔
「せきちゃん閣下、再教育やね」
そのタイミングで、まさかの徳島支部から通知が鳴った。
画面に映る、せきちゃん閣下。
せきちゃん閣下
「呼んだ?」
全員
「呼んでない!!」
せいちゃん姫
「また余計なとこで出てきた!」
灯乃は画面に向かって、真剣に言った。
灯乃
「せきちゃん」
せきちゃん閣下
「はい」
灯乃
「ちゅは、だめ」
せきちゃん閣下
「えっ」
灯乃
「ひの、にんげんのおともだちの、ちゅがいい」
せきちゃん閣下、固まる。
せいちゃん姫
「ほら見なさい。ちゃんと言われとる」
きびまる
「お父ちゃん、ふられた?」
あわまる
「ちゅ、だめ」
しらゆき
「距離感」
せきちゃん閣下
「せきちゃん、世界的スターなのに……」
結音
「スターでもダメなものはダメ」
陽翔
「同意なしのちゅは禁止」
優子
「年中さんと2歳児に正論で詰められる鳥」
光子
「教育的配信になっとる」
せいちゃん姫が、びしっと言う。
せいちゃん姫
「閣下、謝りなさい」
せきちゃん閣下
「……灯乃ちゃん、ごめんなさい」
灯乃
「いいよ」
少し間を置いて、灯乃はにこっと笑った。
灯乃
「ぴよぴよは、いいよ」
せきちゃん閣下
「ぴよぴよはいいのか!」
せいちゃん姫
「調子に乗らん!」
つんっ。
せきちゃん閣下
「なぁ〜!」
リビングは大爆笑。
陽翔は診断結果に追記した。
治療方針:
せきちゃん閣下は“ちゅ”禁止。
ぴよぴよは控えめなら可。
結音
「控えめ、守れるかな」
陽翔
「たぶん無理」
せいちゃん姫
「無理やろうけど、私が見張る」
灯乃
「せいちゃん、つよい」
せいちゃん姫
「任せとき」
優子は灯乃を抱き寄せた。
優子
「ちゃんと“いや”って言えて偉かったね」
灯乃
「うん」
光子も優しく笑う。
光子
「恋愛クリニック、今日はちゃんと役に立ったね」
結音
「いつも役に立っとるもん」
陽翔
「無料やし」
優子
「最後それ言う?」
その日の恋愛クリニックは、笑いながらも大事な結論を出した。
好きでも、かわいくても、スターでも。
相手が嫌がることはしない。
そして、せきちゃん閣下はまた一つ学んだ。
たぶん、明日には少し忘れる。
でも、せいちゃん姫がいる限り、思い出させられるのだった。
第61話「将来モテ問題、再来(しかもギター版)」
翌日――博多南幼稚園。
今日も教室のすみに、あの紙が出ている。
ふわもちぷにすけ恋愛クリニック
本日も開院
⸻
陽翔
「はい、次の患者さんどうぞ」
結音
「今日は誰かな」
⸻
とてとて、と前に出てくる小さな影。
⸻
灯乃
「はーい」
⸻
結音と陽翔、顔を見合わせる。
⸻
陽翔
「昨日も来てなかった?」
結音
「リピーターやね」
⸻
灯乃、ちょこんと座る。
⸻
灯乃
「そうだんでしゅ」
⸻
陽翔
「どうぞ」
⸻
灯乃、ちょっと考えてから言う。
⸻
灯乃
「わたち、おとなになったら」
結音
「うん」
⸻
灯乃
「ぎたーえんそうして」
⸻
結音
「いいやん」
⸻
灯乃
「おとこのこから、いっぱいしゅきっていわれたら」
⸻
陽翔、固まる。
⸻
灯乃
「どうしよう」
⸻
0.5秒。
⸻
結音&陽翔
「またそれ!!」
⸻
教室、ドカン。
⸻
先生
「デジャヴ!」
⸻
結音
「昨日うちが言ったやつやん!」
陽翔
「完全に同じ相談!」
⸻
灯乃
「いっしょ?」
⸻
結音
「いっしょ!!」
⸻
陽翔、腕を組む。
⸻
陽翔
「これは重大案件です」
⸻
結音
「しかも今回はギター版」
⸻
陽翔
「ドラムからギターに進化しとる」
⸻
灯乃
「ぎたー、かっこいいもん」
⸻
結音
「わかる」
⸻
陽翔
「では診断いきます」
⸻
紙に書く。
⸻
本日の相談:
将来ギターがうますぎてモテたらどうするか
⸻
結音
「またや……」
⸻
陽翔
「診断は――」
⸻
少し間を置く。
⸻
陽翔
「まず、ギターを弾けるようになってから考えよう」
⸻
教室
「それ昨日も言ったやつ!!」
⸻
灯乃
「またそれぇ?」
⸻
結音
「テンプレやん!」
⸻
陽翔
「大事な基本です」
⸻
さらに続ける。
⸻
陽翔
「あと、いっぱい来たら」
⸻
結音
「やめて」
⸻
陽翔
「整理券を――」
⸻
全員
「やめろおおおお!!」
⸻
先生
「そこ改善されてない!」
⸻
灯乃
「せいりけん、いらないぃ」
⸻
結音
「ほら、灯乃も分かっとる」
⸻
陽翔
「じゃあ今回は改良版いく」
⸻
結音
「お?」
⸻
陽翔
「モテても、自分が好きな人だけ選ぶ」
⸻
教室、ちょっと「おおー」
⸻
結音
「それはいい」
⸻
灯乃
「えらぶぅ」
⸻
陽翔
「それから」
⸻
結音
「まだあるんか」
⸻
陽翔
「困ったら恋愛クリニックに相談」
⸻
結音
「それは自分たちやろ!!」
⸻
灯乃
「またくるぅ」
⸻
先生
「常連確定」
⸻
そのとき、翔太が手を上げる。
⸻
翔太
「ぼくも将来ギター弾けるようになったら相談していい?」
⸻
結音
「全員ここに来る流れやめて」
⸻
陽翔
「順番に対応します」
⸻
教室、爆笑。
⸻
結音、ちょっと笑いながら灯乃に言う。
⸻
結音
「でもね」
⸻
灯乃
「なに?」
⸻
結音
「ギターもドラムも、好きでやるのが一番やけん」
⸻
灯乃
「すきでやるぅ」
⸻
陽翔
「それが一番大事」
⸻
灯乃、にこっと笑う。
⸻
灯乃
「ひの、ぎたーがんばるぅ」
⸻
結音
「うちはドラム」
⸻
陽翔
「俺は……」
⸻
少し考える。
⸻
陽翔
「バレーやな」
⸻
先生
「それぞれやね」
⸻
その日の診断結果。
⸻
診断:
まず練習。モテても自分で選ぶ。整理券は不要(重要)。
⸻
結音
「“重要”って書いとる」
⸻
陽翔
「昨日の反省」
⸻
灯乃
「せいりけん、だめぇ」
⸻
教室はまた笑いに包まれた。
⸻
そして――
帰り道。
⸻
結音
「灯乃、ほんとに同じこと言ったね」
⸻
灯乃
「ゆのんねぇねと、おなじぃ」
⸻
陽翔
「将来の悩み、共有しとる」
⸻
結音
「まだギターもドラムも始まっとらんのに」
⸻
灯乃
「でも、たのしみぃ」
⸻
三人、笑いながら歩いていく。
⸻
まだ何も始まっていない未来。
でもその中に、
音楽も、夢も、ちょっとした“恋の心配”も混ざっていた。
⸻
そして恋愛クリニックは――
年中組最大の人気施設として、今日もフル稼働だった。




