5-8.撤退
見誤った!
私達は以前の枢機卿との戦いの経験から、
そして、今回枢機卿に勝利したことで、
今なら魔王にすら勝てるのではないかと思っていた。
勇者も聖女も十分な力を取り戻したのだと思いこんでいた。
とんだ見当違いだ。
枢機卿はあくまで封印から漏れ出た魔王の力を取り込んでいただけだった。
魔王本人の力を引き出していたわけではなかったのだ。
あんなの今の私達に勝てるはずがない。
枢機卿を消し飛ばした攻撃すら、
奴には何の効果も無かったのだ。
どころか、一歩たりとも動かす事も出来なかった。
あんなの物理的に上回るのは不可能だ。
魔王も言っていた通り、
勇者と聖女の本来の力を取り戻して、
ようやく対等に戦えるのだろう。
私は思い上がっていたのかもしれない。
セレネの結界を壊せて、
枢機卿を消し飛ばして、
私にも魔王と戦う力があるのだと、
あの瞬間まで勘違いしていた。
あくまでも、この戦いの主役は勇者と聖女と魔王だ。
私も枢機卿も脇役でしかないのだ。
私の攻撃が勇者をも上回っていたのは、
ただそれだけ勇者の力が足りていなかっただけだ。
魔王にも効くはずだと思っていた、
転移門も何の効果もなかった。
あれは、飛んでいるというよりも、
何か空間自体に対して固定化されているようにも見えた。
おそらく、転移門をくぐらせる事に成功していたとしても、
切断できなかっただろう。
私が本当にするべきだったのは
私が強くなる事などではなく、
勇者と聖女に真の力を取り戻させる事だった。
私は・・・
「アルカ!アルカ!アルカ!」
「ノアちゃん?」
「アルカ!また一人で考え込んでいましたね!
皆に頼るんじゃなかったんですか!
こんな時にまた一人に戻らないで下さい!
私達を頼って下さい!」
ノアちゃんに言われて、
ようやく回りの状況に目を向ける。
私達は自宅に戻っていた。
みんな、私の事を心配そうに見つめながらも、
誰一人弱気になんてなっていなかった。
まだ諦めている者は誰もいなかった。
「ありがとう。ノアちゃん」
「ごめん皆。一緒に考えて!
時間は無い。やるべきことをやろう」
「「はい!」」「おう」「いいとも」
私達は改めて状況を整理する。
私達の攻撃は何一つ魔王には通用しなかった。
魔王は言った。
神様を探せと。
どんなつもりかは知らないが、
アドバイスだと言ったのだ。
あの状況で嘘を教えて
私達の足を引っ張る必要など無い。
魔王は本気で私達を強くしようとしている。
数日は何もしないというのも事実だろう。
少なくとも本人は。
何か、邪神の命令には逆らえないような事を言っていた。
魔王に加えて、邪神まで出張ってきたら、
本当にどうしようもない。
「神様を探すようにと、魔王は言った。
セレネ、神様の事は感じる?
声を聴いたり出来ない?」
「ごめんなさい。まだ無理なの」
「大丈夫。魔王は探せと言った。
きっと見つけられる所にいるのだと思う」
「グリア、探知機で見たもう一つの強い反応はまだ健在?」
「ああ。変わっていないとも」
「ともかく行ってみましょう。
手がかりはそれしか無いわ。
ノアちゃん。またお願い出来る?」
「はい!」
「クレアとセレネもいつでも動けるように準備しておいて。
上手いこと神様を見つけられればすぐに呼びにくるし、
最悪、もう一つの反応も敵かもしれない。
また戦いになる可能性もあるわ」
「うん!」「おう」
「グリアもそれで良いと思う?
何か他に気になることは無い?」
「概ね問題はないとも。他に出来る事も無いしね。
待っている間、
セレネ君と共に神頼みの方法でも考えておくとするよ。
もちろん、言葉通りの意味でね」
「そうね。あの反応が神様に繋がっているとは限らないものね。
セレネもお願いね。無茶を言っているのはわかっているけれど、
私達には時間が無いから。セレネを頼らせてね」
「うん!頑張るよ!」
「じゃあ、ノアちゃん行きましょう!」
「はい!任せて下さい!」