50-19.間違った甘え方
「よくぞ顔を出せたものですね」
「お義母様こそどんな精神状態でそれを口にしているの?」
よく私を責められたわね。ネタはもう上がっているのよ。
「何か誤解があるようですね」
「あるとしたら意図的に仕込まれた誤解よ」
「望みはなんですか?」
「あら。もう降参するのね。お義母様らしくもない」
「そうでもありませんよ。最悪を回避するのが外交官の最たる仕事です」
「いざとなったら謝れば許してもらえるだなんて。随分と簡単なお仕事なのね。まるで親に叱られる子供だわ」
「戯言に付き合うつもりはありません」
「今更この国が差し出せる程度のもので、私の機嫌が取れると思って?」
「ならば戦争がお望みですか?」
「戦争になんてならないわ。思い上がるのもいい加減になさい」
「……何がそこまであなたの気に障ったのですか?」
「そう。あくまで子どものじゃれ合いだと言い張るのね」
「いえ。本当にわからぬのです」
……これだから。
「誘拐犯を差し向けるのはライン超えよ。人の命をなんだと思っているの」
「……まさかそのような形で気にするとは思いませんでした」
「なんですって?」
「確かに読み違えていました。てっきりあなたは後悔しているものとばかり」
「しているから怒っているんじゃない。なんでそんなこともわからないのよ」
「……そうですね。少々やりすぎたようです。謝罪します」
本心とは思えないわね。この場は謝ってやり過ごそうって魂胆が見え透いているわ。あなただって腸が煮えくり返っているところでしょ。
「目的を話しなさい」
「……」
「そう。話す気は無いのね」
ハルちゃん。やっちゃって。
『がってん』
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「おかえりなさい、アルカ。お疲れ様でした」
「……うん。ただいま。ノアちゃん」
「後は私たちにお任せを」
「……うん。お願い」
ノアちゃんは私と入れ替わりで、再び出かけて行った。
ノアちゃんたちにも悪いことをしてしまったわね。結局、私の我儘でノアちゃんたちの作戦を潰してしまった。ノアちゃんたちはエデルガルトを追うためにムスペルを利用するつもりだったのに。私が暴かなければ互いに利用しあえた筈だったのに。
「イロハはどう思う?」
『真面目に考えても無駄よ。アルカは期待しすぎていたの。相手はたかだか四、五十年生きた程度の人間よ。時には子供みたいなバカげた悪戯を仕掛けてくることだってあるわよ』
悪戯ねぇ……。記憶を全部覗いてみても、そうとしか言えないわよね。こんなのって。
『それでも強いて理由を付けるのだとしたら、やっぱり原因はアルカにあるんじゃないかしら』
私が動いたから? 私のせいでサンドラ王妃は馬鹿げた思いつきを実行したの?
『そうでないなら甘えているだけよ。アルカを親しく思うようになったからこそ、この程度ならって踏み込んで来たの』
どっちが正しいんだろうね。
『どちらも真実かもしれない。アルカの影響は間違いなくあるわ』
……私はどうしたらいいんだろう。
『もし手を差し伸べてあげたいなら、王妃が気にしている賊を捕らえてあげればいいわ。アルカが本気で動くならムスペルに迫る危険は取り除けるでしょう。それで犠牲者たちも少しは報われるかもしれない。気休めだとは思うけれど』
……。
『彼女は最近ムスペルで暗躍する地下組織をアルカに引きずり出させようとしていたのよ。町中でアルカが派手な騒ぎに関われば、きっと組織の連中も引き寄せられると踏んでいたのよ。それも一石二鳥ってやつね。カイルを忍ばせつつ、賊を炙り出す。安い買い物だわ』
私やあの子を利用しようだなんて。本当に腹立たしい。
『そもそもカイルは謀反で取り潰された地方貴族の子よ。王妃が気まぐれで命だけは見逃したけれど、国としては扱いづらい。そんな子をアルカへのスパイに仕立て上げた。厄介払いも出来て、アルカも利用できて、賊も炙り出せて。これじゃあ一石三鳥ね』
……腹が立つ。本当に腹が立つ。
『むしゃくしゃするのも当然よ。けどそれが為政者だとわかっているでしょ』
素直に頼んでくれれば全部解決してあげたのに。
『気に入らないのよ。アルカにお願いするのが。あの人も子供なの。それがこの世界の王侯貴族なの。アルカが生まれ育った中央世界とは人々の意識も何もかもが違うのよ。今更言われるまでもなくわかっていることでしょう』
あ~~~~~~~~!!! もう!!!
『嫌よね。真相がこんな下らないことだなんて。そんな事のために犠牲者を生んでしまっただなんて。認めたくないわよね。恨みもするわよね。腹も立つわよね。モヤモヤしてスッキリしないわよね。いっそ知らないままの方がマシだったわよね。だからノアたちはアルカを下がらせたのよね。きっと大抵の事件なんてこんなものよね。本当に下らない。ニクスが病むのも当然だわ。こんな世界は一度ぶち壊して作り直してしまいたくなるわよね。それでもいいのよ。付き合うわ』
……ありがとう。イロハ。
お陰で少しスッキリした。
『私に嘘を付く必要はないわ。なんなら八つ当たりしてくれてもいいのよ』
『ダメ』
『それは』
『ハル』
『やくめ』
『アルカ』
『いじめて』
『らんぼう』
『して』
『たっぷり』
『ふへ♪』
『よくこの状況で自分の欲望を主張出来たわね』
……それでこそハルちゃん。
いいよ。付き合ってあげる。
『やったぜ』




