11 ダークサイドブロール 2
登場人物紹介
アーロン:魔王軍の残した実験機Aヘブンベンヌの操縦者。召喚された西洋軍人で元魔王軍。奇怪な細胞に蝕まれた体を治すため蘇生の秘宝を求める。
聖輝:魔王軍の残した実験機Aブルートセルポパルドの操縦者。元は王家に仕える騎士。主人だった姫君を蘇らせるため蘇生の秘宝を求める。
Aブルートセルポパルドから通信を送る聖輝。
名乗りを聞いて、モニターに映ったその顔を見て……アーロンはハッと気づいた。
「貴様、もしや地球の有色人種?」
『から……なんだそれは?』
聞きなれない単語に面食らう聖輝。
二十一世紀の日本では、そんな言葉を聞く機会はほとんど無い。
だからというわけではないが、アーロンは険しい顔で追及する。
「中国……いや、まさか、もしや……日本人か!?」
『異世界に来て、地球の人種など何の意味がある』
わけのわからない質問に、聖輝はうんざりしていた。
だがそれを肯定ととり、アーロンは激昂する。
「劣等な未開人め! ここでも俺の邪魔をするか! 貴様らは生きている事が罪だ、害獣がァ!」
Aヘブンベンヌが岩山を蹴って上空へ舞い上がった。
アーロンの、故郷での恨みをその翼に満たして。
「ゴミは燃やさねばならん! 燃え尽きろ! 汚い皮一枚残さずな!」
操縦者の怒りの声とともに、ベンヌは両腰の砲を地上へと向けた。
それを見上げ、聖輝は「ふん」と鼻を鳴らす。
『わけのわからん奴だ。まぁわかる気はハナから無いがな』
セルポパルドは地を蹴って走った。
夜の荒野に次々と爆炎が立ち昇った。上空からベンヌが連発する射撃が、着弾の度に大地を穿って穴を開ける。
しかしなかなか当たらない。大地を走るセルポパルドを捉えきれない。
(スピード自体もさる事ながら……あの運動性能はこちらと互角以上か!?)
一方的に攻撃を加えながらも苦々しく顔を歪めるアーロン。
速さだけの相手なら確実に撃ち抜く自信がアーロンにはある。だがセルポパルドは直線的な速度だけではなく、方向転換や軌道の変化も素早く巧みにこなす。
ここまで攻撃が当たらない相手は初めてだった。
とはいえ、実は聖輝の方も余裕があるわけではなかった。
(さて、どうやって手を出した物か……)
次々と攻撃を避けながら、聖輝は手を出しあぐねていた。
攻撃を回避し続けられているのは防御に徹しているからであり、それは攻撃したくても敵が間合いの外にいるからである。
セルポパルドは近接格闘を得意とする機体……だがベンヌは上空から降りてこないのだ。
しかし聖輝はアーロンほど苛ついてはいなかった。
なぜなら……
(飛行能力、射撃攻撃力、スピード。ランのフェニックスと再戦するための訓練として丁度いい)
聖輝の頭には、以前の敗北への雪辱があったのだ。
セルポパルドが大地を走る。ベンヌは射撃を繰り返しながらそれを上空で追った。
岩山に行く手を塞がれるも、周囲の大岩を盾にしながら山の横に回りこもうとするセルポパルド。
盾にされた岩で光線を避けられながら、しかしアーロンはニヤリと笑った。
(その場所なら俺の方が有利だぞ)
ベンヌは岩山の頂上、その上空へ飛んだ。
下方周囲は全て山裾……セルポパルドの真上から撃ち下ろす事ができる。
それを嫌って山から離れようとするなら、背に向かって狙い撃ちするだけだ。
敵機が次の動きに移るまでの僅かな時間で、ベンヌは二門の砲にエネルギーを充填した。
そしてセルポパルドは——ベンヌのすぐ側に現れた!
岩山の崖を駆け上って……!
「なにィ!?」
驚愕しながらもとっさに光線を撃つアーロン。
だが抜き撃ちの射撃をセルポパルドは身を捻って避ける。
敵機の巨大な爪がベンヌを襲った。
パワー・敏捷性・跳躍力の全てに恵まれたセルポパルドは、それらを用いて一瞬で岩山を駆け上った。
そうして高度差をゼロに縮めたのである。
しかし、セルポパルドの爪はベンヌには当たらなかった。
射撃を避けるために僅かに身を捻った、その微かな軌道の変化をついて、ベンヌもギリギリで横へ飛んで爪を避けたのだ。
魔王軍の親衛隊、幹部クラスまで登ったのは彼の腕前によるものなのだ。
避けながら砲身をセルポパルドに向けようとするベンヌ。
だがそのボディが急に引っ張られた。
ベンヌの足にセルポパルドが伸ばした蛇の頭が巻き付き、噛み付いている!
(爪はフェイントだったのか!?)
アーロンが驚愕した直後、ベンヌは振り回された。
岩山の頂上から跳び下りるセルポパルド。鞭のように伸びた右腕を地面に叩きつける。
当然、捕らえられているベンヌごとだ!
ベンヌは地面に衝突し、派手な土煙をあげた。
「どうだ!」
聖輝が勝ち誇る。
跳び下りて着地したセルポパルドと落下して叩きつけられたベンヌではダメージが違う。もはや勝ったと思った。
だがセルポパルドの肩に光線が着弾し、小さな爆発を起こす!
「なんだと!?」
驚きつつ聖輝は見た。
ベンヌが立ち上がっているのを。その損傷が、目に見えて塞がっていくのを。
(こいつにも再生能力があるのか!)
セイキはますます以てランのフェニックスを思い出さざるを得なかった。
『おのれェ……』
恨みと怒りの呻きを漏らし、砲の照準を合わせるアーロン。
敵の片足を離さず、機体の姿勢をさげて攻撃に移ろうとする聖輝。
そこへ第三者から通信が入った。
『そこまでにしませんか? 今は手を組んだ方がいいと思いますよ』




