11 ダークサイドブロール 1
登場人物紹介
アーロン:魔王軍の残した実験機Aヘブンベンヌの操縦者。召喚された西洋軍人で元魔王軍。奇怪な細胞に蝕まれた体を治すため蘇生の秘宝を求める。
聖輝:魔王軍の残した実験機Aブルートセルポパルドの操縦者。元は王家に仕える騎士。主人だった姫君を蘇らせるため蘇生の秘宝を求める。
——岩塊のような岩山がそこかしこに突き出た不毛の荒野——
赤茶色の荒野の中、岩山の陰にアーロンは退避していた。
乗機Aヘブンベンヌには自己修復能力がある。時間と共に損傷は塞がっていく。商隊を襲った時のダメージはあらかた修復が済んでいた。
だがメンテナンスフリーというわけにはいかない。こんな機能を維持するためには、あちこちの部品を整備しておかねばならないのだ。
魔王軍で働いていたアーロンには、マニュアルを見ながらなら整備ができる程度には知識も技術もあった。機体の調整を終え、とうに星の出ている夜空を見上げて一息つく。
修理や整備には当然、それなりの資材や部品が必要だ。
所持している量に余裕があるわけではない。無くなったらまたどこかで奪ってこなければ……
満天の星空はこの世界でも美しい。
だがアーロンの心は穏やかではなかった。
(おのれ、土人どもが。未開の劣等人種同士で群れおって)
商隊で撃退された事を苦く思う。
(しかしあの数では正面からでは崩せん。しばし様子見が必要か)
機体にもたれながら、アーロンはどう立ち回るべきか、腕を組んで考えた。
(まずナーラー国の犬。エージェントのラン……奴は元魔王軍の俺を追ってくるかもしれん。返り討ちにして一機減らせる)
一対一なら自分が負けるとは思えない。
魔王を打倒した勇者などと言っても、そのうちの一人だけではないか。
未開な現地人の国家に尻尾をふる聖勇士を全て、アーロンは見下し嫌っていた。
そして肝心な獲物をどう仕留めるか、それを考える。
(実験機は三機ほどいたな。秘宝の欠片を手に入れるため、いずれは潰しあうだろう。二機になれば、やり方次第で……)
最終的に、六つの秘宝の欠片を手に入れる。それが目的なので、残り一機になるまで待つのが利口ではある。
しかしアーロンにそんな気は無かった。
なぜなら、時間をかけたくないからだ。
アーロンは包帯を巻き直す。
自分を侵食する毒草のごとき皮膚は、日に日に広がっているような気がしてならない。
(クソッ! 俺の時間はあといくら有る? どれだけ残っているんだ)
歯軋りするアーロン。
鈍臭い現地人連中ののろまな潰しあいなど待っていては手遅れになりかねない。だから優秀な自分が迅速に仕留めていかねば……と、アーロンは本気で考えていた。
アーロンは操縦席へ戻り、モニターに周辺MAPを移した。
隊商をどこで見張るか、襲撃するならどこか、予定を立てていく。
と……ほぼ真っすぐ、こちらへ近づく機影がある事に気づいた。
——柱のような細い岩山の頂上——
アーロンは場所を移し、迫る機影を待ち構えた。
身を屈めて地上からはほぼ見えない姿勢を心がける。相手にとっては進路の横手にあたる位置でもあり、奇襲をかけてほぼ先手を握る事ができるはず。
問題は何者が来ているのか、だが……
果たして、それは琥珀色の機体だった。実験機の一つである。
隊商にいた機体のどれとも違うが、アーロンは幸運に歓喜した。
(そうか! 隊商に実験機が雇われている事を聞きつけて来たのだな。だが辿り着く事もできんぞ……)
いつでも飛び立てるようにアーロンは準備する。
攻撃圏に入り次第、フルパワーの光線を頭上に見舞ってやるのだ。
だがしかし。
通信機から相手の声が入ったではないか。
『小細工をするな。俺には無駄だ』
「ほう。大層な自信だな」
少々苛つきながら、アーロンは機体を立たせる。
バレているのでは不意打ちはできない。
だが飛行できる機体で高所に陣取っているのだ。まだアーロンが絶対に有利な筈である。
なのに相手は恐れる事なく訊いてきた。
『どこぞの商隊を襲った琥珀色の機体……貴様だな?』
「ほう? 俺を狙って来るとは、あいつらの仲間だったか」
だが一機なら好都合だ——と、アーロンは考える。
しかし相手の事情は少し違ったようだ。
『商隊に雇われている連中の事なら、俺とは関係ない。そいつらも後で仕留める。だが先ずは貴様だ。魔王軍の残党だという噂があるが?』
「だからどうした」
悪びれないアーロン。
相手が魔王軍に恨みを持つらしいという事もわかった。
まぁかつて魔王軍に壊滅させられ、今も残党が野盗と化して暴れまわっているこの国で、魔王軍を恨んでいない者の方がよほど少ないだろうが。
相手は声高に叫び、名乗った。
豹頭で右腕がヘビの頭、左腕に巨大な爪の生えた猛獣機・Aブルートセルポパルドから。
『俺は皇騎士団最後の一人、聖輝! 薄汚い魔王軍の生き残りをこの手で血祭りにあげてやる!』




