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10 集う決闘者 3

登場人物紹介

挿絵(By みてみん)

リリィ:魔王軍の残した実験機Aグールアンムトの操縦者。病の後遺症で最近まで動けなかった。体を完全に治癒させるため、蘇生の秘宝を求める。

挿絵(By みてみん)

アイル:魔王軍の残した実験機Aワールドハーミットの操縦者。滅んだエルフ国の元王。息子を生き返らせようと蘇生の秘宝を求める。

挿絵(By みてみん)

彩華いろは:実験機Aアビスエルナダハの操縦者。召喚された女サムライ。異性の戦友を蘇生させるため秘宝を求める。

挿絵(By みてみん)

ラン:ナーラー国最強のエージェント。実験機の調査に動く。乗機はSルビーフェニックス。

――輸送機ムカデの背中にある貨物庫の一つ――



 いろは、アイル、ラン、そしてリリィ。実験機の操縦者達とナーラー国のエージェントは、商隊から一室を借りて輪になって椅子に座っていた。野盗どもと戦い撃退したという事で、いろは以外の三人も商隊に迎え入れられたのだ。

 いろはは油断なく。アイルは落ち着いて。ランは溜息混じりに。リリィはおどおどした様子で。各自、他の三人をしばし覗う。


「とりあえず各人の事情はだいたい聞いたわね」

 呟くラン。

 部屋で休憩している間に、秘宝【ケプリケペラ】がなぜ必要なのかランに問われ、いろはとアイルも事情を話した。

 聞いたはいいのだが、ランは難しい顔で考え込む。

「遺体の失われた人を生き返らせる、となると……この世界じゃ特別なアイテムに頼るのも仕方なしか」

 もう一度溜息をついてから、それでも改めてランは訊いた。

「念のための質問だけど。魔王軍の残した物なんて何が仕込まれているのかわからないんだから、機体を調査させてもらえない?」

 だがいろはは首を横に振った、

「それはお断りしました。場合によっては破壊する、と言われては承知できません」

 アイルも同じく。

「そういう事なら私もだ。すまない」


 額を抑えるラン。

「じゃ、別の質問。ケプリケペラとかいう秘宝は、死者を何人か生き返らせるほどの力があるんでしょ? あんた達だけなら二人助けられれば済む話よね。リリィは天王配下の治療術師に任せればいいとして……この場にいる人達は戦う必要ないんじゃない?」

 このままでは殺し合いになる。だからランはできる限り穏便に済ませられないか提案したのだが。


 だがしかし。

 アイルは(かぶり)をふる。

「マニュアルに書いてあった秘宝の説明だが……ケプリケペラが複数の命を蘇らせた記録がいくつかあるが、その人数は一定していない。他の情報も合わせて考えるに、この秘宝は力を発揮する毎に三~四割の可能性で消滅するそうだ。助けられるのが一人なのか十人なのか、それはその場の運次第なのだ、と」

 いろはも沈んだ顔を見せた。

「終わってしまえばそれまでの四割を、貴女なら譲れますか……?」


 ランがげんなりして呟いた。

「そうね、それは悪い方にいく未来しか見えない確率よね。こりゃ参ったわ」


 しばし、その場を沈黙が支配した。


 やがてランが何度目かわからない溜息をつく。

「獲りあいに魔王軍の元幹部が噛んでいるわ。昼間のやり方どおり、自分のためなら他をいくらでも巻き添えにする。せめて奴を討ち取るまで休戦しない?」

「私は構わない」

 これにはアイルが即答した。

 だがいろはが小首を傾げる。

「しかし、彼が攻めて来るのがいつになるのかわかりません」


「ならばこの隊商が目的地に着くまでは、我々同士での戦いは中断しよう。いろはは護衛の仕事を請け負ったのだし、私はそこへ割り込んだのだ。これが一段落するまで待つのがスジという物だろう」

 アイルのその意見を聞き、いろはが頭を下げる。

「こちらの都合を考慮していただいて、ありがとうございます。護衛が終わる前に元魔王軍の男が攻めてきた時は、私が全力で迎え撃たせていただきます」

 アイルは微笑んだ。多少の陰は残っているが、ようやく表情が緩んだのだ。

「礼を言われる事でもない。魔王軍への私怨半分の意見でもあるからな……」


 ようやく少し、張り詰めた空気が和らいだ。

 だがいろはは厳しい顔のまま、リリィへと目を向ける。

「貴女は戦いから完全に降りた、という事でよろしいでしょうか? ランさんのツテで体を治せるようですし、元魔王軍の男が来た時も出撃しませんでしたし……」

 怯えたように身を縮めるリリィ。

 ランが頭を掻きながら口を挟む。

「あー……私がもう戦わないで、とその子に頼んであるの。言ったように、私は本来、魔王軍の残した実験機の回収と調査をしたくてね。操縦者に何かの悪影響を及ぼしているかもしれないから、本当はできるだけ乗って欲しくないわけよ」


 それを聞くといろはは黙った。アイルも顔を強張らせる。

 実験機とある種の精神感応がある事、行動にその影響が無ではない事……それらは操縦者である彼ら自身、ここまでに十分感じている事だ。

 だがそんな彼らの胸の内には気づかず、ランは少々の茶目っ気混じりで笑って見せた。

「ま、リリィの分は私が力を貸すから。今のナーラー国で最強のエージェントの力、とくとご覧あそばせ」


 そんなランを見て、いろはとアイルは微笑みを見せた。

 リリィは三人を見渡していたが――やがてくすくすと笑いだした。


設定解説

【この秘宝は力を発揮する毎に三~四割の可能性で消滅するのだ】

蘇生や回復を行使する力がなぜ一定でないのか、考えた末に「破損率で判定する耐久消費アイテム」という扱いに行きついた。

各人が手に入れた機体マニュアルには、心臓部に組み込まれている蘇生の秘宝ケプリケペラの力について、解析できた範囲で記されている。



それは青緑のタマムシコガネを象った、掌に乗る程度の護符である。

生命の神々が造った神宝であり、この世界に循環する命と精力をじっくりと貯めている。

その力を解放した時、使用者の、或いは対象のいかなる傷をも癒し、欠損を補い、害なす力……病、毒素、呪詛、おおよそ考える全ての悪しき残留……をも打ち消す。

そこには「死」さえも含まれおり、生命を取り戻すいかな障害も阻む事はできない。


絶大な力を持つが、使用には注意点がある。

蘇生させる者がそこにいなければならない。遠く離れた対象に力を向ける事はない。死者を蘇らせる場合、息絶えたその地で力を行使すべし。


ケプリケペラが複数の命を蘇らせた、或いは癒した記録がいくつかある。だがその人数は一定していない。

他の情報も合わせて考えるに、この秘宝は力を発揮する毎に三~四割の可能性で消滅するのだ。

助けられるのが一人なのか十人なのか、まさに神のみぞ知ると言える。

消滅したケプリケペラは生と死の狭間で再生し、世界の循環から再び生命力を蓄える。それからこの世界に戻って来るが、それが百日後か百年後かは誰にもわからない。


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