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8 狂乱、人知られず 2

登場人物紹介

挿絵(By みてみん)

アーロン:魔王軍の残した実験機Aヘブンベンヌの操縦者。召喚された西洋軍人で元魔王軍。奇怪な細胞に蝕まれた体を治すため蘇生の秘宝を求める。

挿絵(By みてみん)

ゼナ:魔王軍の残した実験機Aカルネージアポピスの操縦者。滅ぼされた侯爵家の元令嬢。実家を復興するため蘇生の秘宝を求める。

 AカルネージアポピスとAヘブンベンヌ。

 再生能力を持つ魔竜機と再生能力を持つ怪鳥機の戦いはいつ果てるともなく続いた。

 耐久度ではアポピスが上回っているが、運動性と操縦者の技術により回避力はベンヌが明らかに上。

 互いに決定打を欠いたまま、戦闘は膠着状態に陥った。


 性能で優劣がつかなければ、操縦している者の体力・精神力の勝負になるのが常である。

 しかし……そうはならなかった。

 ある程度撃ち合った所で、ベンヌが大きく旋回するや、空の向こうめざして飛んで行ったのである。


「逃がさない!」

 ゼナは叫び、アポピスは敵を追う。

 地上を走るため飛行しているベンヌには追いつけないが、全速力で駆ければそうそう置いて行かれる事も無い。



 一方、アーロンは敵機がついてくる事を操縦席のモニターMAPで確認していた。

(そうだ、追ってこい)

 本当に逃げるつもりならもっと高度を上げる。

 アーロンは逃げているのではない。戦場を移すため動いているのだ。


 目的地がぐんぐん近づいてくる。

 そこは荒野の向こうに見えていた町。防壁に囲まれた地方の小都市。

 アーロンはそこへ通信を入れた。

「正体不明機に追われている。救援を頼む!」

 すぐに大慌ての声が返ってくる。

『な、なんなんだ? あんたはどこの所属の誰なんだ?』

 町の防衛兵士にとってみればあまりに突然の事だろう。おまけにアーロンの乗る実験機は魔王軍が極秘で造っていた物。

 不審な機体である事はゼナの乗機と同じだ。


 だが襲われている被害者を装えばいきなり攻撃される可能性は低いだろう……と踏んではいた。

 もし思惑が外れても、たかが田舎町の防衛隊ごとき、凌ぐ自信は十分にあった。


 そして賭けは成功した。

 町の壁に誘導灯が点いたのである。その指示は、町を囲む防壁のすぐ側に着陸せよ……というもの。

 とにかく会って話を聞こう、という事だろう。危険な者ならそれから捕らえれば良いと。


 それはつまり、町の至近距離に行くまでアーロンは攻撃されないという事だ。


 アーロンは速度を落とし、防壁のすぐ前に着地した。

 しかし……翼を畳んだりエンジンを切ったりはしなかった。

 むしろ機体を屈ませ、上へ飛ぶための体勢に入る。

 間を開ける事一瞬――


『死ねぇっ!!』

 通信機からゼナの叫びが届く。

(かかった!)

 アーロンは急上昇をかけた。進路は町の上空に。


 アポピスの吐く黄昏色の息吹(ブレス)が防壁を直撃した。

 それは壁を分解し、砕き、容易く突き破る。

 一瞬の後、町の中で破壊の嵐が吹き荒れた!

 壁を、家を、人々を、分解し砕き粉々にする死の竜巻が。

 アーロンを狙った破壊息吹(ブレス)は町を一瞬で地獄に変えた。



 悲鳴と怒号と建物の崩壊する音が響く町から、次々とケイオス・ウォリアーが飛び出してくる。

 町の防衛隊が乗る量産型機だ。

 この世界・インタセクシルは、小さな村にさえ土木作業用の機体が一つや二つはある。

 町であれば防衛用の量産型が一部隊程度なら有って当然。


 彼らは迫る魔竜機アポピスを見て震えあがった。

『なんだコイツは!? と、とにかく応戦しろ!』

 人造巨人達の、巨大な剣が振るわれ弩が放たれる。

 それは敵を倒さんと必死なゼナにとって邪魔物以外の何物でもなく、神経を逆撫でした。

「邪魔よ!」

 ゼナの怒りの声とともにアポピスが爪を揮う。

 受けた剣を物ともせずに叩き込まれたそれで、斬りかかっていた町兵士の機体が一撃で裂かれ、吹き飛んだ。


 だが直後、次はアポピスが吹き飛ぶ番だった。

 上空から放たれたベンヌの光線(ビーム)砲で。

「きゃあっ!!」

 大ダメージを受けた機体の中でゼナが悲鳴をあげる。

 しかしすぐに怒りに燃える目をベンヌに向ける。



 アポピスが防衛隊と交戦状態に入ったのを確認すると、アーロンはまた機体を飛ばせた。

 町の上空、中心へと。

 怒り狂った敵はそれを追って町に乗り込んで来た。

(やはり判断が甘い。戦闘の経験が不足しているようだな)

 嘲り笑うアーロンは見た。

 アポピスが町の防衛隊に囲まれるのを。

 災禍で混乱した町中でごちゃごちゃの乱戦が始まるのを。


 もちろん遠慮などするアーロンではない。

 防衛隊を叩きのめすアポピスへと、狙いすました渾身の二門砲を撃ち込んだ。

 光線(ビーム)がアポピスに着弾すると、周囲一帯を巻き込む大爆発を起こす!

『ウギャアァ!』

『ぬわぁー!』

 通信機から、巻き添えを食った防衛隊の断末魔が響いた。

 町はもはや壊滅状態だ。



 アポピスはもうズタズタだった。

 頑丈で再生能力もあるアポピスを破壊するのは容易ではない。量産機のパワーでは不可能に近い。

 だがベンヌがフルパワーで撃つ光線(ビーム)砲には、それが可能な火力があった。

 半壊した機体の中、ゼナは呻く。

「殺してやる、私の邪魔をするならみんな……」

 上空のベンヌを睨み、これまでで最大パワーの息吹(ブレス)を吐き出させた。

 それは斜め上方に放たれながらも、かすっただけの建物をことごとく破壊していく。町中の背の高い建物が次々と吹き飛んだ。



 一方、アーロンも二門の砲に最大のエネルギーをチャージする。

「トドメだ」

 地上へ強烈な光線(ビーム)が撃ち込まれた。


 必殺の攻撃が飛び交う。

 だがアポピスの息吹(ブレス)は、ベンヌに容易く避けられた。ほんの少し、射撃の邪魔にさえならない程度に横に動くだけで。

 発射の瞬間、防衛隊の機体が背から斬りつけたのである。

 ほとんどダメージにはならなかったが、衝撃で照準をブレさせる程度の効果はあった。


 一方、大混乱に陥った町中から、上空のベンヌに何かする物などいなかった。

 アポピスがあまりに注意を惹きすぎていたのである。

 だからベンヌのフルパワー光線(ビーム)はアポピスを一方的に撃ち抜いた。


 これまでで最大の爆発が起きた。

 瀕死の町にトドメを刺すかのように。


 その煙の中……アポピスは立っていた。

 しかし、頭部が吹き飛んでいた。両腕も。操縦席のハッチも。

 操縦席の内側が超高熱で炙られ黒焦げになっているのが、外からでも見えた。金属をも溶かす熱量により、中の物など原型を留めてはいないだろう。


 アポピスは仰向けに倒れた。


 胸部装甲の隙間から光が漏れる。

 アーロンは機体を着陸させた。

 隙間に手を入れ、ベンヌは中の部品を引き抜く。

 その部品こそ心臓部……内から漏れる輝きこそ、秘宝の欠片が放つ光。

 頭・右胸・左胸・腹・右翅・左翅……六つの部品を集めて組み合わせる事により、スカラベ型の護符が完成するのだ。それこそ蘇生の神宝【ケプリケペラ】である。


「おお……手に入れたぞ」

 アーロンは歓喜の声をあげた。

 崩壊した町の息の根を止める火災の炎の中で。



 ゼナは、公爵令嬢に戻れなかった。

 ジダン侯爵家の貴族は、城が陥落した日に全て滅びていたのだ。この国の歴史書にもそう記される事になる。

 この世の底での少女の足掻きは実る事なく終わった。



 蘇生の力を求める物達——残り五人。


設定解説


【Aカルネージアポピス】


 魔竜型のケイオス・ウォリアー。Aは「琥珀アンバー」を現す記号。

 六機中最大の出力を誇り、絶大なパワーを発揮する。

 重装甲で高耐久、高レベルな再生能力も持ち、ある一定レベル以下の威力の攻撃では絶対に倒せない。

 鋭い牙と鉤爪で近距離を、後頭部から伸びる尾で中距離を攻撃する事ができるが、最大の武器は口から吐く広範囲・長射程のブレス。

 このブレスには原子結合を分解する作用があり、凡そあらゆる物質を崩壊させる事ができる。


 大出力で頑丈な機体ではあるが、運動性が劣悪であり、細かい動作を苦手とする。

 最も器用に動くのが後頭部の尻尾であり、他の部位では力任せの攻撃しかできない。

 回避も苦手としており、装甲を破れる攻撃には一転して窮地に陥る。

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