パート18
「わざとやってるんでしょう、そうなんでしょう?」
部長が激昂する。当然である。マー君は白々しく、同じところで間違えたふりをして、何度も何度も演奏を止めるのだ。
「い、いえ、なんだかこのレが、シに見えるんです。おかしいなぁ」
「ちっともおかしくない!ちょっとテューバ二人!私と化粧室に来なさい!」
「え?化粧室ぼ、僕もですか?」
マー君はなんだか嬉しそうだ。
「なんか嬉しそうだな」
「嬉しくなんかありません!一体何をされるのか…」
「怖い先輩がズラーっと並んで、ボコられた挙句、カーストの最下位が決定するんだよ。あーあ、一生あの女の下僕だな、おまえ」
「それはさちのさんも同じですよ!どうするんです、あなたのせいで、僕らの学園生活はめちゃくちゃです」
「なにしてるの、はやくしなさい」
俺たちは楽器を置き、スゴスゴと部長の後をついていった。まずい、女子便所はまずい。学生時代の彼女が読んでいた「別マ」では大抵こういう展開でボコられた挙句、主人公の学園生活が暗黒になってしまうのだ。
3人が化粧室に入ろうとすると部長がマー君を制止した。
「なにやってんの、あんたはここで待つの」
「でも、部長が女子便所って」
「あんたは単なる見せしめ。男が入れるわけないじゃない。頭おかしいんじゃないの?」
まずい、さらにまずい。強面の部長と二人きり。どんな辛辣な言葉が待っているのやら。
部長は洗面台に腰掛けると、こっちを鋭い目で睨みつけていった。
「あ…」
「あたしへの当てつけなんでしょう!そうなんでしょう。なんで?なんでそういうことするのヨォ!」
泣き出した。部長が泣き出した。こまった、こういう展開は予想していなかった。
「ラインしても返してくれないし、この間の返事もまだもらってない!」
「こ、この間の返事って…」
「とぼけないで、一緒にヨーロッパに行こうって話ししたでしょ!」
「一緒にって、つまりどういう関係で…?」
「こういう関係!」
中略
な、なんと。こういう関係でしたか。アッコちゃんになんと言えばいいのだ。女子高生にこんなことされるなんて、今生あるとは思わなかったが、これはなんというかラッキーなんだろうか。
部長は泣き止む様子もない。
「しかたない、すべて話すよ」
俺は部長に入れ替わりのこと、本物のさちのがこちらに向かっていること。それまで時間稼ぎが必要だったことを話した。
「な、そ、そんなことが」
「びっくりだろう?、俺も信じられないんだが」
「な、なんで」
「なんでと言われても」
「そんなこと本気にするわけないじゃない!なんでそんな嘘つくの!なんの得があるの!」
…ダメだった。




