パート17
「なんてこと、なんてことなの!」
トラックは道の側溝に落ちている。猫の親子が、震えてすくんでいる。トラックは猫を避けようとして脇に突っ込んだのだ。
「仕方ないやね、ダンナ。これじゃしばらく動けない」
「困る、困るのよ、すぐに高崎まで行かないと」
あと15分。
「でもダンナ、残りはあと数キロだよ。走って間に合うんじゃ?」
「は、走るの?」
あたしはマラソンが苦手である。マラソン大会ではいつもお腹痛いとか言ってサボったり、近道してサボり仲間と座ってジュース飲んだりしていた。
「そう、この道をまっすぐ行けば高崎駅。ナンタラ会館はすぐなんだろ?」
確かにそうだ、確かにそうだけど、よりによってマラソン…。いや待てよ、あたしは苦手だけど、この男はもしかして。
「わかったわ、あとは自分で何とかする」
「おう、礼はいらねぇよ、がんばんな、コレなんだろ?」
男は小指を立ててニヤニヤしながら言った。
「ち、違うわよ、む、娘の…」
「わかったわかった」
あの表情、誤解されたままだが、まぁいいか。もう二度と会うこともないんだし。幸い運動靴にスゥエットである。
「さ、行くわよ!」
頼むぞ、中年男!あとちょっとだ!
あたしは走り出した。
「何これ、身体重っ、メチャ重っ。運動しろ!この中年ブタが!」
あたしは四度絶望した。




