パート16
「合わせやるよ〜」
アッコが声をかけると、ワラワラと部員が集まり、着座した。すごい統率力である。よく知らないのだが、こういう吹奏楽をやるような会場はこんな大勢でリハできるような部屋があるものなのか。
とにかく、いまはさちのから部分的に忘却されているこの曲を何とか乗り切ることが大事だ。アッコには事前にどの辺りが不鮮明か伝えてある。
「あたしに任せて」
アッコはそう言っていたが、どうするつもりなのか。
「部長!」
アッコが立ち上がると、大きな声で叫んだ。
「なぁに、綾小路さん」
清楚な容姿と鋭めの目つき、サキソフォンを持っている。なかなかの美人だ…って女?女なの?部長って。
アッコ、告白するって、女性に?
驚いたが、同時にニヤニヤしてしまった。
「何ニヤニヤしてるの、さちのさん」
げっ、あの部長よく見ている。恐ろしい。クワバラクワバラ。
「いや別に何でもありません」
あとで女子便だろうか、アッコは守ってくれるだろうか…。無理だろう、告白するんだから。
「それで何かしら?綾小路さん」
「Bパートの最初から、Dパートまでのところを集中的にやりたいのですが…。」
「何か意図は?」
「あります…、ここにいるマルコシアス君が、ヘタクソだからです」
「えっ、ぼ、ぼく?」
「そう、その通り、(ウインク)、あなた、ここが特にヘタクソだわ(ウインク)」
「そんなことないですよ!僕ここ得意な…あだだだだだ」
俺は隣のマー君の足を踏みつけた。
アホか、同調しろ、俺がさちのじゃないことがバレていいのか?俺はマー君を睨みつけた。マー君はハッとなると言った。
「そ、そうです、僕ここの部分が超絶ヘタクソで、何度も繰り返してやりたいです」
部長は一瞬不審そうな顔をしたが、すぐ気を取り直して、指揮者の担任に向かって言った。
「先生、いかがでしょう?」
指揮者の先生、何だか気の弱そうな爺さんである。
「そうじゃのう、こ、ここは女神が城下の民に慈悲をお与えになる重要なパート…アフロディーテが、あいや、アフロディーテとは太古のギリシアの…」
「先生、もういいです、わかりました、ここを集中的にやりましょう」
よし、うまくいったぞ、このパートなら頭に入っている。最初はテューバである。指揮者に合わせて。
ツースリーフォー…
「プオン」
しまっ…。
「どうやらテューバ、二人とも緊張感が足りないようね。後で個人指導よ」
嗚呼、これで女子便が決定的になってしまったようだ。貞操は守られるのか?俺。もう48だけど。




