第50話 星空の下の密会
「公爵家はどうするの?」
レイアが気づかわしげに尋ねた。
「父と兄には事前に伝えて僕と縁を切ってもらうよ。さすがに迷惑はかけられない。クララは公爵家でずっと働けるように手配する。」
「そんな・・・私のために家族を捨てるなんて・・・。」
泣きそうなレイアにエルフリードはやさしく微笑みかけた。
「どうせ兄が家を継いだら僕は公爵家を出て行く身だったんだ。もともと結婚して別に家庭を持つつもりだったから同じだよ。」
「エル・・・」
絶縁して出て行くのと、結婚して出て行くのは同じではない。
エルフリードの提案は嬉しいが、彼にそこまで負担をかけたくはない。
「レイア。君がフェリクスの妃になったら、僕はこの国の貴族としてずっとそれを近くで見続けることになる。そっちの方が僕には耐えられないよ。」
エルフリードの言葉にレイアはハッとした。
レイアがフェリクスに嫁げば、エルフリードも公爵子息としていずれ誰か他の貴族女性と結婚することになるだろう。
レイアもエルフリードの側に妻となった女性がたたずむ姿を目にすることになる。
そんなの、耐えられない・・・。
「エル。ありがとう。私、ノースブロンに行くわ。」
迷いが吹っ切れ、心の底から納得して返事ができた。
「突然な話で申し訳ないけど、2,3日中にはベルナーを出たいと思ってる。マルクスから聞いた話だと王宮はあと少しで君が落ちると思ってるようだから、従順にしていれば疑われることはないだろう。その間に出発の準備をしておいて欲しい。」
レイアが笑顔になった。
「持っていくものなんてほとんどないわ。神殿での生活には必要なかったから私物も服もほとんど処分してしまったもの。今日中でも大丈夫なくらいよ。」
「ヨハン先生やクララには直接会った方がいいだろう。手紙は跡が残るしね。とりあえず明日中に先生には会えそう?」
「ええ。会えると思うわ。」
「それなら明後日の夜にここに迎えにくる。神殿は入ってくる者には厳しいけど、出て行く者にはチェックが甘いんだ。見張りの騎士の交代時間をねらって裏門から神殿を出よう。」
レイアはエルフリードの腕の中で頷いた。
「じゃあ、今日は帰るよ。また、明後日。」
エルフリードはレイアの額に軽くキスをすると再び窓から外に出て行った。
その後レイアはしばらくエルフリードに抱きしめられた余韻に浸っていたが、ハッと我に返り荷物の整理を始めた。
絶体に持っていきたいものなどほとんどない。
クララに貰ったロザリオとエルフリードに貰った指輪くらいだ。
見つからないためには身軽な方がいいだろう。
動きやすそうな服を2着と下着や日用品などをカバンに詰めた。
「本当に一瞬で準備が終わっちゃった・・・。」
クスっと笑い、久しぶりに明るい気持ちでベッドに入ったのだった。




