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乙女ゲームは終了したのに帰れません〜ハッピーエンドの後に、ひとりぼっちになったヒロインですが、自分の力で生きていきます〜  作者: 国枝 志歩
学院編

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8/35

冬 ヴァレンスと

 気温はどんどん下がって、12月の末に初雪が降った。

 

 冬休みに入り屋敷へ戻った当日、ヴァレンスから「新年の翌日で良いのでぜひ会いたい。報告しなければならないことがある」と手紙が来た。

 すぐに承諾の返事を送った。

 

 新年をマーサとささやかに祝った翌朝、ガーナム家の紋章入りの馬車でヴァレンスが迎えに来た。きちんと整えた赤い髪。騎士服のヴァレンスは胸まわりや腕、肩がさらにぐっと大きくなって逞しくなっていた。玄関に出て来たハナにサッとエスコートの手を差し出した。

 

 ヴァレンスがエステヴァンみたいになってる。


 びっくりしてヴァレンスを見上げる。

「これでも騎士だからさ。こういうこともできなきゃなんないのさ」

 灰色の目を逸らして、耳が真っ赤だ。

 

 照れてる!

 

 ふふふと笑いながらその手を取って馬車に乗り込み、連れてゆかれたのは王都の外れにある植物園だった。

久ひしぶりに目にする城壁の外の光景。平民の暮らす街並み。商店や市場の活気。ハナの心は浮き立った。馬車の向かい側にどっかりと座るヴァレンス。

  ヴァレンスはみんなの中で一番気安い相手だった。誰に対しても態度が変わらず、少し言葉遣いは乱暴だけれど、ストレートで分かりやすい。こちらも細かいことに気を使わずに済む。

 

 初めての植物園は、見事な温室3つもあって冬なのにも関わらず、花々が咲き誇っていた。

 一つ一つゆっくり散策した後、併設されたカフェに入った。

 ヴァレンスがあらかじめ個室を予約してくれていた。

 案内されながらアメリアなら

 「婚約もしていない男女が個室で二人きりになるなど、淑女にあるまじき」

 とか言うだろうと苦笑いした。


 テーブルに着くと、ヴァレンスが心配そうに問いかけた。


「ハナ、痩せたんじゃないのか?元気がなさそうだ」

「うん。学院がちょっと辛くて。みんな居ないから寂しい」

 と返すと、眉をハの字にしてハナを見る。


 愚痴にならないよう話題を変えた。

「ヴァレンスがこんな素敵な場所に案内してくれるなんて意外。よくこんな場所知っていたね。植物に興味があるなんて知らなかった」

 と言うと、ヴァレンスの目元が赤くなった。

「いや、違っ。同僚に聞いたんだ。女の子とゆっくり話せる場所ってどこかって。そしたらそいつが、デートならここがいいって教えてくれて。デートじゃないって言ったんだけどな」

「ふふ、デートじゃなくても最高に素敵で楽しかった」

「そうか。ならよかった」

 ティーセットが運ばれてくる。甘党じゃないヴァレンスには小ぶりのサンドイッチ。ハナにはクッキーと小さなケーキが2種類のったもの。どれも可愛らしい。久しぶりに「食べたい」と思った。


 ゆっくり味わって食べているハナをヴァレンスがじっと見ていた。


 一息ついたところで決心したようにヴァレンスが言った。


「ハナ、来月から国境勤務になった」

「えっ?」


「詳しいことは言えないんだが、北の国境付近がちょっときな臭いらしくて、見習いの連中からも数人派遣されるんだ。俺、優秀だから選ばれちまって」

 ニカっと笑うヴァレンス。

「きな臭いって、戦争が起こるかもしれないってこと?」

「いや、それほど緊迫してるわけじゃない。お偉いさんが考えることはよくわからねえが、警戒してるとこ見せたいんじゃないかって話だ。そう簡単に攻められませんよ、てな感じか。隙がないようにってとこか。俺もよくわからねえ」


 北の国境は昔から小競り合いが絶えない場所だ。ボリステレスと接していて、ことあるごとに国境を侵蝕してくる。

 

「ヴァレンス、危ないところに行くなんて。ヴァレンスに何かあったらどうしよう」

「大丈夫。実際、小競り合いくらいで大したことは起こらない。それに俺は強いから大丈夫だ」

 涙目になったハナにヴァレンスは手を伸ばして頭をポンポンと優しく叩いた。

「心配すんな。絶対死なないし、怪我もしない。……ハナに誓う」

「約束して。絶対危ない目に遭わないようにするって」

「約束する」

 ハナだってわかっている。そんな約束は絶対ではないってことくらい。それでも言って欲しかった。自分の周りから人がいなくなるくらいは耐えられる。でも、死んだり怪我をしたりは許せない。

 

「大丈夫だ」

 

 もう一度安心させるように言って、ヴァレンスの手がハナの頭を撫でる。手はそのまま、ヴァレンスが言った。

 

「ハナ、俺の学院生活が一生忘れられないものになったのは、ハナのおかげだ。暴れ馬の乱暴者だった俺が、ここまでまともになれたのも、ハナのおかげだ。身分が違っても一生付き合えるだろう友人もできた。ありがとうハナ」


 違うよ。

 乗馬を教えてくれてたくさん遠乗りにも連れてってくれて、頼れる兄貴みたいに優しかったのはヴァレンス。


「ハナは俺の初恋の人だからな」


 うん。おんなじ気持ちになれなくてごめん。でも大好きだよヴァレンス。


 何も言えないハナに微笑むと、頭から手を離したヴァレンスが言った。


「国境に行ったら可愛い村の女の子でも嫁さんにするかな。ハナに似た小柄で可愛い子がいるかもしれないだろ」

「それ、未来のお嫁さんに失礼!でも、ヴァレンスなら絶対素敵な女の子が見つかるから」


 最初は、単なる攻略対象だった。

 それでも気がつけば、ハナの方がずっと多くのものを受け取っていた。

 

 

 手紙を書く約束をして、ヴァレンスとお別れをした。


お読みいただきありがとうございます。

ヴァレンスが去ってしまいました。お気に入りキャラなので少し寂しい。


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