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乙女ゲームは終了したのに帰れません〜ハッピーエンドの後に、ひとりぼっちになったヒロインですが、自分の力で生きていきます〜  作者: 国枝 志歩
学院編

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夏休み 手紙と噂話

 エステヴァンを見送った後、しばらくは平穏な日々が続いた。

 九月は収穫期だ。

 御用聞きが持ってくる野菜も新鮮なものが増えた。


 そういえばあちらでは、旬の野菜なんて考えたことなかったな。


 収穫期が同じだと、同じ野菜が大量になる。

 それを手を変え品を変え調理する。

 干したりマリネしたり、長期保存のきく瓶詰めもたくさん作った。

 思っていたより厨房の仕事は多い。

 

 アドリアンから短い手紙が届いた。

「ヴァレンスからハナに会ったと聞きました。元気ですか?僕は息を吐く暇もないほどコキ使われています。ハナの笑顔が見たいと思いつつ、会いに行く時間が取れません。もし、ハナに時間があるのなら、新年度の前に少し予習をしておくことを強くお勧めします」

 アドリアンらしい。

 

 ハイレーナには家庭教師がいなかった。普通の貴族であれば、幼少期から家庭教師か教育係がついて、一通りの勉強と礼儀作法を身につける。けれどヴァロネス家は、母イレーネの病のため後回しになった。基礎的な読み書きと算術は両親に教わったけれど、勉強らしい勉強をしたことがなかった。

 アドリアンに出会い、助けてもらえなかったら、とっくに落ちこぼれていただろう。

 

「頭の回転も速いし記憶力もいいのに、適当なところで放り出す。悪い癖です。本気を出せば成績上位者に名を連ねることもできるでしょうに」

「あまり興味がないの。野心もないし。女性は良い成績でも文官になるのは難しいでしょ?それに、私、王城に勤める自分なんて想像できない」

「そうかもしれませんが。お父上はヴァロネス博士でしょう?望めば研究者にでも……」

「それだけは嫌!お父様の研究にのめり込んで家に帰ってこないの。娘より研究が大事。私は結婚して幸せな家庭が築きたいだけ」

 眉を少しだけ顰めてハナを見守るアドリアン。

「――そうですか。では良妻賢母になれるよう、教養は身につけましょうハナ。学んでおいて損はないから」

 アドリアンが励ましてくれたおかげで、成績は平均を少し上回るくらいに保っている。

 


 オットーからも手紙が届いた。筆まめな彼らしく、近況がつぶさに書かれた長い手紙だった。

 お父様と様々な交渉の場に臨んでおり、馬車を連ねて街から街へ移動していること。

 東南部地方で長雨が続いて、洪水などの被害が出て長く足止めされたこと。

 新しい支店を隣国ラナスの首都デムスに出店予定なこと。

 新学期にハナと再会して直接話ができることを楽しみにしている、と締めくくられていた。

 

 ハナもすぐさま返事を書く。

 エステヴァンを見送りに行ったこと。ヴァレンスと遠乗りしたこと。

 男衆にきてもらって、部屋の壁紙を変えたこと。庭仕事と厨房で過ごしていること。

 新学期にクッキーを焼いていくので、ぜひ食べてほしいこと。

 

 旅の途中で滞在先がわからないので、王都の本邸に送る。

 いつ読んでもらえるのかわからないけれど、新学期には間に合うはず。

 

 長過ぎて耐えられないと思っていた夏休みもあと2週間。

 そろそろ新年度の準備を始めなければと考えていた頃。厨房にきた御用聞きが、街の噂話を持ってきた。

 

「東南部の長雨がえらいことになっているって話でさ。あっちはダッカ国との間にメラック大河が流れてますでしょう?それが溢れて洪水やら土砂崩れやら、何人も亡くなってるとか。それで支援に出張っていた王太子様が滑落事故に巻き込まれたって噂ですよ。――事故っていってもねぇ」

 王太子とはウイレムの兄、第一王子オリビアンだ。

 

 品定めに忙しいマーサも、その時ばかりは手を止めて御用聞きの顔をまじまじと見た。

「まあ!滅多なことを言うものではありませんよ」

 

「今んところ、何の発表もないけど、騎士団が大挙して向かったとか、騎士団が戻ってきたときは雰囲気がどんよりしていたとか。とにかく、中部はひどい状態で、王太子殿下が支援に向かったのは確かだそうで。その後お姿が見えないのも本当らしい。収穫祭の奉納でも神殿にはいらっしゃらなかったって言うじゃありませんか」

 

 オリビアン王太子は、頭脳明晰で品行方正。国民の人気が高い。

 「あの方が後継なら、アルバードはこの先五十年安泰だ」

 と言われていた。

 その王太子の重傷の噂など、本当だったら国を揺るがす一大事だ。

 

「それにしたって正式な発表がないのなら、勝手な噂を流すわけにもいきません。下手をしたら冒涜罪とかなりかねませんから、お気をつけあそばせ」

 普段は温厚なマーサだが、厳しい声音になって言った。

 

「へぇ。とにかく王都にも避難民が流れ込んで治安が悪くなってますんで、城壁の外へ出られるときゃご用心を」

 気押された御用聞きはそう言いおいて、そそくさと帰っていった。

 

 ハナはマーサと御用聞きの会話をぼんやりと聞いていた。

 

 東南部の水害はオットーが書いてよこした話と同じだ。王太子が出張るくらい大事だったんだ。

 あまり酷いことになってないといいけど。

 避難民なんて酷い状態なんだろうな。

 

 あちらの世界の地震や台風の避難所を思い出した。

 

 王太子の話は本当なのかな。

 まさか、亡くなってるなんてことないよね。

 ウイレム大丈夫かしら。

 手紙をよこす時間も取れないのかな。

 

 タルトの焼き具合に気を取られ、そこで思考は途切れた。

 

 


読んでくださって、ありがとうございます。

次からいよいよ新年度の始まりです。

4人がいなくなった学院生活はどうなるのでしょうか。



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