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乙女ゲームは終了したのに帰れません〜ハッピーエンドの後に、ひとりぼっちになったヒロインですが、自分の力で生きていきます〜  作者: 国枝 志歩
学院編

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前世の夢

「いってらっしゃい、気をつけるのよ」

 懐かしい声に意識が覚醒する。マンションの玄関。早朝。外は暗い。

 華は大きな荷物を持って毛糸の帽子に手袋。無茶苦茶楽しみにしていたスキー合宿に出かけるところだ。

 

 小学校低学年の頃、毎年家族でスキーに出かけていた。両親が離婚して母と二人で今のマンションに引っ越したのは小学校6年の時。

 望んだ高校に合格して、憧れの制服に袖を通し、友達もたくさんできた。


 昨日まで現地が大雪で、出発できるか危ぶまれていたけれど、今朝は晴天。

「ホカロン持った?携帯は?充電器も持ったの?」

「ホカロンはママが10個パック入れたでしょ。心配性なんだから!何か忘れてもなんとかなるって。いってきま〜す」

 元気よくマンションを飛び出した。学校からチャーターバスに乗って5時間。ワイワイ騒ぎながら現地に到着した。

 久しぶりの雪山に大興奮。早速着替えて一滑りする。ゲレンデはたんまりの柔らかい雪で滑りやすかった。吹雪いて大変だったというのが嘘のように晴れて、気持ちが良かった。

 夕食を食べ、温泉に浸かる。そのあとは友達と集まってパジャマトーク。

 恒例の乙女ゲームネタや、リアルの恋バナで盛り上がった。

 

 翌日も雲ひとつなく晴れ渡って、気持ちの良い朝だった。今日は一日滑りまくる!気合いを入れてゲレンデに向かう。

 久しぶりに滑った昨日は、初級コースから初めて中級コースまで。

 今日は中級コースから始めて上級まで行ってみようと決めている。

 体は感覚を失っていなかったようで、どんどん上達して、ますます楽しくなってゆく。昼食後には上級コースへ登った。

 

 日差しが強く、みるみる気温が上がっていて、暑いくらいだった。

 

 3度目の滑降に挑戦し始めたとき、後ろから「雪崩だ!」と声を聞いた。

 

 瞬間、足元の雪が揺らいで崩れ落ちた。滑り落ちる間に上からのしかかる雪。

 あっという間に視界は真っ白になり、悲鳴にならない声。

 苦しさと重さで押し潰される。

 冷たい、重い、息が――できない――

 

 お……かぁ……

 さ…… ん……

 


 

 飛び起きた。荒い息で肺から絞り出すように呼吸する。

 苦しい。

 頬にまざまざ残る雪の冷たさ。

 

 部屋はまだ暗い。

 見慣れた自室の天蓋。薄布の間から月明かりが見える。

 静けさの中にハイレーナの荒い呼吸だけが響く。

 

 ここは、ハイレーナの部屋。

 

 眠る前に読んでいたお母様の日記が床に落ちていた。

 

 

 ――思い出した。

 あの日、小堀華は16歳の短い一生を終えたんだ。

 お母さんにはもう会えない……。

 

 そして、ハイレーナ・デ・ヴァロネスとして生まれ変わった。


 元の世界には帰れない。

 ――華はもう存在しない。


 「華ちゃんって呼んでくれる人には、もう会えないんだ……」

 自分の声に涙が溢れる。枕を噛んで声を押し殺した。

 ひとしきり泣いた後、ベッドから這い出した。窓際まで行ってカーテンを開ける。

 三日月の微かなあかりと満点の星空。


 

 小さい頃は覚えていたのかもしれない。いつの間にか忘れてしまったんだ。

 


 お母様が亡くなった時、ハイレーナは消えてしまいたいと願った。

 それで華が現れた。

 

 

 本当にゲームと同じ世界なのか、どうして、記憶を持ったまま生まれ変わったのかわからない。


 

 理屈なんていらない。

 

 今、私はここにいる。

 ハイレーナも華も、他のみんな、この世界でちゃんと生きている。



 あの生々しい死の記憶。お母さんを思うときの胸の痛み。

 きっと小堀華は死ぬ時「もう一度お母さんに会いたい」と思ったのだろう。

 母を一人置いて先に逝くのが辛かったのだろう。


 あちらでは母を置いて逝き、こちらでは母に置いて行かれた。

 あちらでは父に捨てられ、こちらでは、お父様と二人残された。

 

 きっと、やり直すチャンスを与えられたんだ。

 関わりを持てなかった前世の「父」。

 けれど、今世では「父」と関わって生きてゆく。

 

 ――お父様は私を嫌っていたわけでも、興味がなかったわけでもなかった。

 

 この2日間一緒に過ごしただけでも愛情が伝わってきた。

 日記に書かれたハロルドは娘に夢中だった。

 私の知らないお父様。


 寂しかった記憶も、蔑ろにされたと傷ついた記憶も消えるわけじゃない。

 でも、愛されているのならやり直せるかもしれない。

 


 空に向かって祈った。

 お母さん、私こっちの世界で幸せになりたい。前の分まで長生きして楽しい人生送りたい。

 

 お母様、今まで勇気が出なかったけど、これからハイレーナとして、お父様と仲良く幸せになりたい。

 逃げない。

 

 ね、お母様。

 『私は自由』『きっとなんでもできる』『負けず嫌いの頑張り屋さん』なんだもの。

 

 お母様の日記を拾い上げ、擦り切れた皮の表紙を撫でた。


 思う存分生きる。

 

読んでくださってありがとうございます。

やっと記憶が戻りました。新しいハイレーナの誕生です。

これからはハナではなく、ハイレーナとしてこの世界で生きていく覚悟をしました。これからの成長ぶりを見守ってくださると嬉しいです。明日17時更新します。

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