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乙女ゲームは終了したのに帰れません〜ハッピーエンドの後に、ひとりぼっちになったヒロインですが、自分の力で生きていきます〜  作者: 国枝 志歩
学院編

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乙女ゲーム完全攻略

「乙女ゲーム完全攻略です。だから――帰してください」

 ドレスのまま、床に跪いてハイレーナは祈った。


 誰も死ななかった。誰も闇に落ちなかった。

 攻略対象五人は全員笑顔で卒業パーティを迎えた。

 約束は果たした。


 なのに――。

 

 

 数時間前まで、ハイレーナは踊っていた。

 

 第二王子ウイレムにエスコートされ、ダンスホールに滑り出る。

 レモンイエローのドレス。亜麻色の髪に揺れるエメラルドの耳飾り。

 学院の大ホール。

 それはそのまま、画面で見ていた乙女ゲームのエンディング。

 


 身を寄せ合ってステップを踏む。ハイレーナのドレープが舞う。

「ハナ、綺麗だ」

 ウイレムはハイレーナを愛称で呼ぶ。

「ウイレムも素敵です」

 金髪と引き込まれそうな空色の瞳。整った顔立ち。スラリとしているのに程よい筋肉がついて引き締まっている。王族の気品と、優雅な仕草。完璧な王子様。見慣れた制服姿と違い正装のウイレムは、会場の注目を集めている。

 ハイレーナはその視線も気にならなかった。

 

 

 完璧。この時を迎えるために四年間頑張ってきた。

 この瞬間をもっとしっかり味わいたい。

 ハイレーナはウイレムの空色の目を見つめる。


 私の素敵な王子様。ありがとう。私を大切にしてくれて。

 好きだと言ってくれて。

 正式に婚約できるよう手を尽くすって約束してくれて。

 あなたのおかげで楽しかった。

 ありがとう。

 

 そんな想いを込めて見つめた。


 最後の和音が響くと二人は一礼して、ホールから退く。

 ビュッフェ近くで待つ四人の友人の元へ歩み寄っていく。


「ハナ、綺麗だったよ」

 エステヴァンがハナの手を取って甲に口付ける。

「イヤリングだけじゃなくドレスも贈りたかったけど、ウイレム殿下の手前遠慮したんだ」

 

 その手をウイレムが取り戻す。

「パートナーがドレスを贈るのは当たり前だろう。他の物は譲ってやったんだ、感謝して欲しいな」

 

「まあまあ」

 と言いながらオットーがハナとウイレムにグラスを差し出す。人の良さそうな笑み。

 

 新しい曲が始まって、ホールの中心はダンスを楽しむ卒業生たちで溢れている。色とりどりのドレスが舞う。

 会場の熱気に当てられて、喉が渇いた。

 

 「ハナはダンスの特訓の成果が出ましたね」

 ハイレーナのそばに身を寄せて、アドリアンはメガネをくいっとあげながら褒めてくれた。

 

「お前も特訓の成果が出るといいな」

 後ろからアドリアンを揶揄ったのはヴァレンス。

 他の三人より背が高い。みんなの頭越しにハイレーナへウインクをよこした。

 オットーとハイレーナ以外は今日で学院を卒業してしまう。

 

 ハイレーナは感慨深く一人一人の顔を見た。

 きっとこれで最後になる。

 攻略対象だから近づいたけど、気がついたらみんな大好きになっていた。

 会えなくなると思うと寂しい。

 どうか、みんな頑張って。


 そして、全員と夜遅くまで踊った。



 みんなでハイレーナを寮まで送り届ける、というので連れ立って学院内を歩く。

 夏の夜の少し軽やかになった風が心地よかった。

 踊り疲れて足が痛くなったハイレーナはウイレムの腕につかまって歩いた。

 

「アドリアンは宰相秘書室だったな。ヴァレンスは騎士団か」

 ウイレムが振り向いて二人に話しかける。

「はい。見習いとはいえ、激務だと脅されました」

「おう。初日の腕試しが楽しみで仕方ない」

 とヴァレンスの笑い声が響く。

「エステヴァンはいつ出発だ?」

「準備が整い次第です。父に、三年は領地を出るなと。ハナに会えなくなるのが一番辛い」

 エステヴァンはハイレーナに片目をつぶって見せた。

 

 みんな学生の顔から大人の顔になっている気がした。

 「なんだか、寂しい」

 心の底から声が出た。

 早く帰りたいとずっと願っていたけれど、この世界の友人たちにも思いが残る。

 帰れないのなら、ずっと長く友達でいたかった。

 

 ウイレム王子がハイレーナの肩を抱き寄せた。

「ハナ、夏はどうする?」

「屋敷で過ごすわ。他に行くところもないし」

 ハイレーナがため息混じりでそう言うと、全員が心配そうな顔をした。


 ハイレーナは屋敷に帰るのを極端に嫌っている。

 入学してからというもの、長い休みは必ず誰かの領地や別荘に招待してもらって過ごしていた。

 今年はオットーも商人の父君に連れられて支店を巡る旅に出る。


「大丈夫なのか?」


 ――大丈夫。屋敷に帰ることはないはず。


 俯きながら小さく微笑んで答える。

「なんとかなるでしょう。みんなに手紙を書く。絶対返事ちょうだいね。待ってる」

 これはきっと果たせない約束。胸の奥がチクリと痛む。


「もちろんだ」

「わかった」

「絶対書く」


 女子寮の前で一人一人とハグを交わす。

 少しだけ涙が滲んでしまう。

 

 オットーがトントンとハイレーナの背中を叩いた。

「僕はいるよ。来年、一緒に楽しく過ごそう!」

 ハイレーナとオットーだけは学院生活があと1年残っている。

 

「俺も留年すればよかった」

 ニコニコ顔のオットーを見ながら恨めしそうにヴァレンスが言う。

「バカなことを。親父さんに勘当されて、放り出されて終わりですよ」

 すかさずアドリアンが突っ込む。


 ウイレムが少し長めの抱擁を解いて、ハナの顔を覗き込んだ。

「しばらく会えなくなるけれど、浮気しちゃダメだよ、ハナ。必ず迎えに行くから待っていて」

 と優しいキスを頬にくれた。


 ――ごめんね待てなくて。私は明日にはここに居ない。嘘ついてごめんなさい。約束破ってごめんなさい。

 

 滲んだ涙を誤魔化し、とびきりの笑顔を向ける。

 あちらへ戻ってもみんなのことは絶対忘れない。

 幸せになってね。


 寮の扉の閉まる音を背に、階段を登る。

 しっかりと前を見つめて、深呼吸する。

 待ちに待ったこの時がやってきた。

 心の準備は整っている。

 

 

 自分の部屋の鍵を開け、中に入るとハイレーナはヒールを脱ぎ捨てた。

 月明かりだけが静かな部屋を照らしている。

 

 「さあ、終わりましたよ」

 ドレスのまま部屋の中央で跪いた。

 両手を組んで胸元で息を整え、目を閉じる。

 この国で信仰されている女神と、自分をここへ連れてきた――正体のわからない何かに祈った。

 

「乙女ゲーム完全攻略です。誰も闇堕ちしなかった。みんな揃って卒業を迎えた」

「だからどうか――帰してください」

 

 一瞬彼らの顔が浮かんだ。

 もう二度と会えないのは寂しい。でも、帰りたい。

 私の居るべき場所はこの世界じゃない。

 ――お母さんに会いたい。

 

 そうして待った。

 

 光に包まれるのだろうか。

 それとも、神?に呼ばれるのだろうか。

 次に目を開けた時、きっとあちらの世界に戻っている。

 そう、信じて目を閉じた。

 


最後までお読みいただきありがとうございます。

第一部学院編の幕開けです。ハイレーナの頑張りを最後まで見届けていただけると嬉しいです。


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