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第十六話 お嬢の夜

 「それで、亡命するにしても何処まで逃げれば良いんですか?」

 「東の方に亡命しようと考えています。」


 東か…行ったことないな。


 「東の方に何かつてでも?」

 「いえ。無いからこその東です。」


 なる程。つてが無いということは仮に捜索されても相手は居場所の予想ができない。捜されても問題ないのはこの状況としては良いな。

 たが、それと同時に旅がより面倒になる。

 まぁ一長一短だな。


 「東だと、国境を跨ぐことになりますが、国境には教国兵が居ますよね。どうします?」

 「そこはご心配なく。国境周辺は危険すぎるので通りません。

 その代わり、痕跡を辿られても問題ないように中央のトリニア山脈を経由して迂回します。」

 「トリニア山脈ですか?」

 「はい。」

 「彼処は別の意味で危険じゃないですか?」


 彼処は魔物が多い。


 「ですが、ジルさんをみていた感じだと、対人経験が浅いように見えました。それなら、比較的知能が低い魔物の方が良いでしょう?」

 「まぁ確かに対人経験は浅いですが、何処らへんを見てそう思ったんですか?」

 「我々を助けていただいた時ですね。対人に慣れていれば後ろの見ず知らずの人間から絶対に注意は外しません。そもそも、いきなり出ていって守るという考えにもなかなかなりません。」

 「世の中そんなに薄情ではないと思いますがね。」

 「世を知れば、自ずとそんな事は言えなくなります。」

 「そうですかね。」


 その後、1週間ほど資金調達のために皆で依頼を受けた。

 驚いた事にシナさんはB級だった。

 正確には昔のパーティーでA級まで行ったが、B級以上の個人依頼を受けた事がなかった為、パーティー解散後、B級に下げられたということらしい。


 「本来はB級でもおかしいんですけれどね。

 私は魔物とまともに戦えないし。」

 「まぁ、サポートも重要ですし、お嬢様の付き人になれるくらいなんですから、妥当だと思いますよ。」

 「ちょっと!私はそんなにシナに迷惑かけてないわ!」

 「育ちが冒険者に比べて良いので素直に言う事を聞きますからまぁ、お嬢様の方がマシですね。」

 「ですよね。」

 「ちょっと!マシって何よ!」


 そんな事を話していた帰り道、俺はシナさんから耳打ちされた。


 「今日の朝からずっとつけてる者が居たんですけど気が付きましたか?」

 「え?」


 俺は振り返ったが、辺りは夜ご飯前の買い出しの時間。1日で一番商店街が賑わう時間に人の事など分かるわけない。


 「…敵ですか。」

 「心配はいりません。アレは監視です。」

 「監視…。」


 その時、お嬢が声を掛けてきた。


 「ねえねえ!この屋台の皆で食べようよ!」

 「…続きは今夜宿で。」


 その後、俺は宿に帰るまでずっと警戒していつでも魔術を使う準備をしていたが、襲撃されることはなかった。


 「…やっとお嬢様が寝ましたね。」

 「…それでは、続きを話してもらえますか?」

 「彼らは監視役の者です。戦闘力は皆無なので心配は要りません。」

 「…やっぱり早く出たほうが良かったんじゃないでしょうか。今からでも遅くないです。直ぐにでも出たほうが…」

 「いえ。むしろ危険です。」

 「…彼らは何故襲ってこないんですか?

 闇夜に紛れて宿を襲撃すれば、恐らく此方は負けます。」

 「…向こうもこう言う仕事が多いから分かってるんです。痕跡が残れば雇い主に詰められると。」

 「血痕の事ですよね。」

 「はい。教皇様がまだ亡くなってない以上、彼らはまだ時期教皇・聖女予定者なのです。

 今怪しい動きをすれば今後に大きく響きます。だから痕跡を残せないんです。」

 「具体的には誰から送られて来ているのか分かるんですか?」

 「現教皇様の長男様ですね。お嬢様は長女様の派閥ですので。」

 「因みに、戦力図としては…?」

 「少し長男様の方が有利ですかね。」


 シナさんは詳しく教えてくれた。

 長男(24)側の勢力は次男(19)、三男(15)と枢機卿団の6割を抑えている。

 対して長女(21)側の勢力は次女(17)、三女(10)、お嬢(6)と枢機卿団の4割だそうだ。


 一見聖女予備軍の方が枢機卿よりも力がありそうだが、やはりまだ子供なのが2人居る(この国での成人は15歳)ので正直あまり影響力はなく、長男側の方が有利なようだ。


 「なら長男の方についたほうが良いんじゃないですか?」

 「彼は男尊女卑の思考が有る方でして…権力に溺れる歴史的にもあまり教皇にならない方がいい方なんですよね…」

 「随分はっきり言いますね。僕なら怖くて言えませんよ。」

 「まぁ、私が狙われた所で問題無いですからね。」


 …まぁ、血筋的に重要なのはお嬢の方だからな…でも、価値観が違うとは言え、死んでも良いとは中々肯定できないな…


 「それで、襲われそうな所は目星がついていたりするんですか?」

 「街を出てしばらくしたところで一時的に道が山と被る地点があるんです。

 彼らはそこまで絶対襲ってきません。」

 「断言できるんですね?」

 「今までがそうでしたから。」

 「兵士が居たからとかでもなく?」

 「むしろ、彼らは夜は酒飲んでベロベロでしたけどね。」

 「じゃあ、ほんとに問題なさそうですね。」


 実際、旅立ちの日まで大したことも無く平穏な日が続いた。


 旅立ちまでの2週間は俺がお嬢が寝るまで見張りを任されていた。寝たあとはシナさんに交代する。

 旅に出たらこのスケジュールで動くから今のうちから慣らしておけ。とのことだ。


 「ジルは眠くならないの?」

 「まぁ、そんなに。」

 「寝ないと大きくならないらしいわよ?

 小さい男は大変だってシナが言ってた。」


 この世界でも男は身長を求められるのか…


 「そりゃ大変ですね。」

 「なら寝なさいよ。」

 「仕事なんで寝れないんですよ。」

 「そう。じゃあ、どうすれば仕事は終わるの?」

 「お嬢様が寝たら終わりますよ。」

 「ふ〜ん。でも、今日はまだ眠くないのよね。」

 「僕は眠いんで頑張って寝てください。」

 「さっきと言ってることが違う…」

 「そうでしたっけ?」

 「…ねぇ、ジルは何処から来たの?」

 「お嬢様がこれから行く国ですよ。」

 「何で一人なの?」

 「家に帰る途中だからです。」

 「家族が待ってるの?」

 「そうですよ。」

 「ねぇねぇ、ジルの家族ってどんな人?」

 「え?」

 「知りたい!」

 「もう寝る時間ですよ。」

 「大丈夫よ!話してる間に勝手に寝るから!」

 「…ちゃんと寝てくださいよ?」

 「大丈夫!」

 「じゃあ……姉のことから話しましょうか。」


 自分でやってみると分かるが、自分の人生を語るのは難しいものだ。

 だが、こう思い返すと既に1年近く会っていないのか。メノですら最後にあったのは約半年前。

 …そうか。俺はもうちょっとで6歳だったのか。


 「良いお姉ちゃんなんだね。」

 「良い姉ですよ。」

 「私も三人目のお姉ちゃんは良く遊んでくれたから好きだよ。」

 「年の離れた人達は一人の時間が増えますからね…。」

 「いや?仕事してたみたいだよ?」

 「あ、そうなんですか…ヒデ〜…」


 幾ら天皇みたいな立ち位置の人達だからと言って成人しているとは言え15とかで仕事してんの?!

 ブラック以外の何者でもないな!


 「?別に普通だよ?」

 「そうなんですか?」

 「うん。むしろ遅いもん。」

 「遅い?」


 聞いた所、教国の教えはある程度裕福な人達向けの教えなので貧乏な人達は家ではなく勝手に作った小屋のようなものに集団で住んでるらしい。

 そして、農家が彼らの一定程度の食を保障するかわりに低賃金で10歳頃から働くのは結構普通らしい。


 「中々酷いですね。」

 「別に他の国でも普通にあるし、酷くないよ?」

 「何でそう思うんですか?」

 「神の教えに『今世の運は、前世の行いが還元される』ってあるから。」

 「…そうですか…。」


 俺、この宗教合わないかもしれない…


 「そろそろ寝てください。」

 「え〜まだ〜続きは〜?」

 「続きは明日です。」


 そう言って俺は強制的に蝋燭を消した。


 「ぶ〜ケチ〜」

 「はい、おやすみなさい。」


 その後、お嬢が寝たのでシナさんとバトンタッチする時、俺はさっきのことについて言われた。


 『お嬢様がこの辛い状況に耐えられているのはあの教えのお陰もある。

 貴方はこの教えに納得しないかもしれないが、あまり触れないでくれ。』


 俺は何も言えなかった。

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