第24話 戦況が極めて思わしくない
ヴィッセンスブルク イルミナウ区 リエリの家 地上階
―第6紀 369年12月49日(水曜日)1刻
「ああ,あなた.なぜ西にいるの?」
「西?」
エリアーヌは【真名方向検知 ジョエル・フォレシガール】魔法でジョエルがどの方向にいるか,毎朝日課のように確認しているのである.ジョエルが生きている間は東西南北どちらかの方向を示す.死亡すれば,方向を示さないか,星のある方向を指す.昨日まで,ズーデンヴァルトの方向,つまり,南を指していたのだ.
「ママ, 生きている なら 大丈夫 だよ.」と,リエリはできるだけエリアーヌに不安を与えないように気を使う.
翌日には新聞でエーデルシュタインへ魔族軍が接近しているとの記事が出ており,
「ね, 戦場が 移った だけだよ.」
「そう,そうね.…でも,やっぱり,戦場にいるのね.」
「おぎゃー,おぎゃー.」エリアーヌの不安を感じ取ったかのように,ラファエリーナが泣き出す.
「ラフィー,はいはい.大丈夫よ.」
「…」
(もし, パパが .そんな こと 考えたく ない. でも, でも.)
リエリも不安でいっぱいいっぱいであった.
ヴィッセンスブルク 王城 北棟 1階 女王の私室
―第6紀 370年1月73日(土曜日)3刻
「エーデルシュタインの戦況が極めて思わしくないとはどう言うこと! これ以上は妾の子ルークをそんなところには置いておけません.ルークは次期国王ぞな.」
「それが…」
「それがどうしたのです.」
「エーデルシュタインとの帰りの転移門が稼働しなくなっていると,先程連絡がございました.援軍を送れるのですが,撤退できなくなっているそうです.」
「なんですって!それではウィルダネスを歩いて逃げよと言うことですの? そんなこともってのほか.なんとしてでも,救出なさい.」
「援軍は送っておりまして,殿下の護衛を増やすのは進めているとのことです.撤退の支援についてはまだ検討中とのことです.」
「何とかおし!」
「はっ!必ずや.」
ヴィッセンスブルク 王城 南館 1階 軍務省 掲示板前
―第6紀 370年1月75日(火曜日)4刻
「ウィリアム,これ見ろよ.」
「ルーク王子救出作戦立案優秀者に褒賞を与える.女王陛下勅命依頼だな.」
パスカルとウィリアムは軍の掲示板を見ていた.短期士官育成課程はすでに体をなしてなく,現場実習と言う名の“学生従軍“になっていた.
「エーデルシュタインの状態はかなりまずいよな.」
「ああ,先月授業中に机に座って聞いた話はもう過去のことで,現在はさらにひどい状態になっているのは簡単に想像できるよ.僕でも参加できるのかな?」
「参加条件が書かれてないぞ.」
「作戦立案部に聞きに行くか.」
「そうだな.」
作戦立案部に行くと,若い二人を見て,若造どもが何する者だと言う顔されたがそんなのを気にする二人ではなかった.現地の1恊週間前の地形,敵味方配置図,推定戦力が記載されている資料と作戦提案書のひな型をもらった.締切は短い.二人で夜間2恊日の時間を使って,3つの作戦を作成して提出した.
ヴィッセンスブルク 王城 南館 3階 軍務省 312会議室
―第6紀 370年2月3日(火曜日)5刻
「採択会議に提案者を呼びつけると,公平な採択ができなくなるのではないでしょうか,閣下.」
パスカルは褒賞金がかかっている女王陛下勅命依頼について,誰の案を採択するか選ぶ会議に提案者を呼ぶのは不公平ではないのか,と聞いたのだ.もちろん,不公平でない理由をパスカルは想像できていた.
「ファンデルメーデン士官候補生,問題ない.提出数は18件,一次予選で3つに絞った.全て君の案だった.」
「どの案も成功しそうだと言うのが作戦立案部の見解だ.素晴らしい.」
「ありがとうございます.」
「君の中でどれが最も良い案と思っているんだ.それを採択したい.それで君を呼んだのだ.」
「なるほど,理解いたしました.どれか一つを選ぶのは最適ではありません.僕は全ての案を同時に運用することをお奨めいたします.現場では何が起こるかわかりません.複数の案を同時に進めた方がさらに成功率が上がります.」
「それだと指揮官の数が足りません.誰に指揮をさせますか?」
「ハウエルズ君は確定として,後2名か.」
「僕に提案がございます.」
「言ってみろ.」
「ハウエルズ殿を3つの作戦の総指揮官,僕をその副官,3つの作戦アルパ作戦,ベルテ作戦,ガルパ作戦のリーダーをハンティントン殿,キングトン殿,イクセル殿,グラート殿,僕の副官アームストロングのいずれかでいかがでしょう.それとすべての作戦にエルレンマイヤー殿の助力が必要で,ベルテ作戦にはハンティントン隊の助力が必要です.この布陣で成功できると考えております.」
「…よい人選だ.ファンデルメーデン士官候補生,作戦を立案する時,誰を当てるか考えていたのではないだろうな….」
「勝手ながら,考えておりました.」
「…よかろう.君を副官に任命する.」
「でも閣下.彼にはまだ軍位がありませんが.」そう指摘が上がる.
「そんなもの何とでもなる.」
「…それと知らなかったのかもしれんが,ハンティントン将軍は戦死された.」
「!」
「残念だ.」
「…そうですか,本当に残念です.彼とは個人的に仲良くさせてもらいました.ハンティントン強行偵察隊はどうなったのでしょうか?」
「解散しているはずだ.」
「元ハンティントン強行偵察隊のメンバーを集めていただけないでしょうか?ベルテ作戦に必要です.」
「そうだな.探しておこう.」
「念のため確認させてください.」
「なんだ.」
「今後の戦略的な案も記載させてもらったのですが,そのまま実行させてもらってもよろしいのですね?」
「もちろん,かまわん.それが君の作戦のキモなのではないかね?」
ヴィッセンスブルク 王城 北棟 地上階 応接室“黒白鳥の間”
―第6紀 370年2月6日(土曜日)3刻
「そなたがファンデルメーデン殿か,顔を上げよ.」
パスカルが顔を上げ,女王陛下を静かに見つめる.従者として,ウィリアムもついて行っていた.
「ほう.」
女王はパスカルの瞳に宿る覚悟を見て,ある意味納得した.学生が最も良い案を出したと聞かされた時は軍幹部たちに激高してしまったが,パスカルを見ていやいやこれはすごい人物ではないかと直感した.
「女王陛下におかれましては,ご健勝のこととお喜び申し上げると共に,ルーク王子の件でお心お傷めしておられることについて,この僕にお役に立てることと考えております.」
「なかなか良き青年であるぞな.」
「ありがとうございます.」
「そなたには国王陛下から準爵への陞爵を受けたまっている.」
これは女王が国王に無断でやったことであるが,内務省が適切に処理を行ったので,正式に適用された.女王は以前にも同様のことを何度もやっていたのだ.それはパスカルにとってはどうでもいいことである.彼にとっては,貴族の地位はエリーの復讐ための道具でしかない.
「有り難く拝命いたします.」
「王子救出に成功した暁には少なくない褒賞金を与えようぞ.」
「有り難く思います.僕には欲しいものがございます.」
「ほう,言うてみよ.」
「僕に将軍の地位をください.」
「…なるほど,そなたのことは少し聞き及んでいる.つまり,そなたは魔族に対して恋人の復讐がしたいと言うことなのね?」
「ご明察の通りにございます.」
「良きに計らおうぞな.」
「ありがたき幸せに存じます.」
「では,我が子ルークを頼みました.」
「成功してお見せいたします.」
「なあ,パスカル.女王擁護派に入るつもりなのか?」
「なぜ,そんなことをする必要があるかな?」
「いや,後ろから見ていたら,そういう風にも見えたぞ.」
「そんなことはしないよ.僕はどこの派閥にも属さない.僕の派閥を作るつもりだよ.ただ,当面は第一王子派のふりをするつもりだ.」
「おおう,そうなんだ.」
「この成り行きなら,それが自然かな.使えるものは王子でも,女王でも,国王でも,いや,この王国全てですら,使うさ.目的を達成するためならそうするよ.」
「おおう.」




