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第17話 エリーの葬儀

ヴィッセンスブルク シェーネフェルト区 転移門中央ステーション

―第6紀 369年9月61日(土曜日)3刻



「パスカル.」リエリはパスカルを見て,心配で小声でつぶやいた.


事件から5恊日後,パスカルがヴィッセンスブルクへ帰ってきた.転移門前で,エリーの家族,アンジェの家族,リエリ,クロエ,ウィリアムで出迎えた.

プッペンスタットは軍によって完全に封鎖されており,ズーデンヴァルト軍からは両親にさえ来ないようにと厳命が下された.パスカルはその命令が発令される前に現地に行っていたため,一人で対応していたのだ.

帰ってきたパスカルの目は明らかに怒っていた.こんなにも怒っているパスカルの目をリエリは見たことがなかった.


「おとうさん,おかあさん.エリーの遺品です.これだけしか見つけられませんでした.」と,エリーの無傷の杖を父親に,ぺちゃんこになったトロフィーを母親に渡した.


「アンジェのご両親ですよね.初めまして,エリーの婚約者のパスカル・ファンデルメーデンです.明確なアンジェの遺品がわからなくて,たぶんこれがアンジェの私物だったんじゃないかと思います.

もう一人,従者のメアリーが一緒に住んでいたので,2人のどちらのものかわからなかったので,いくつか持ってきました.」と,これらは変形した元が何かわからない金属片や金属塊であった.

アンジェの両親は黙ってそれらを見たり触ったりして,2つを選んだ.

「ありがとう,パスカル君.これは娘のものに間違いない.」と言い,お辞儀をした.


「エリーの杖に【視覚(アウク)聴覚(オーア)記憶(エアインネルング)】が残っています.それを見ると何があったのか確認できますが,見ない方が良いです.」

「いいや,見させてもらう.親として,見ないわけにはいかない.ル・メール夫妻も一緒にご覧になりますか?」

「よろしければ,見せていただきたい.」


「君たちには見せられないよ.これは家族だけのものだ.僕から話をするから,しばらく待ってくれないかな.」と,3人に言った.

「何かわたしたちにできることはないの?」

「葬儀の手伝いをしてくれないか? クロエはエリーの方,リエリはアンジェの方の受付を手伝ったほしい.」

「パスカル,逆じゃないとダメよ.逆にして.」

「…わかった.リエリがエリー,クロエがアンジェで.」

(パスカル に 避けられて いる のかな? 仕方 ないよ ね. クロエに 変な 気を 遣わせ ちゃった.)

というのは,アンジェはエルフなので,受付をハーフエルフハーフトールマンのリエリがやるよりも,エルフのクロエがやった方が良いということで気を遣わせたということである.



ヴィッセンスブルク リンデン区 エリーの家

―第6紀 369年9月63日(火曜日)6刻



エリーの実家の地上階にはエリーの優しく微笑んでいる大きな転写絵画が飾ってあり,その枠がリボンで飾られている.柩が置いてあるが,中身は空っぽである.蓋を閉めているので,それは確認できない.柩の奥にはエリーの杖だった“アールゲブラ・ズィーベン”が飾ってあり,家に置いていたのであろう白いローブも飾っている.天井と壁に光る点が無数に描かれている暗幕をかけ,星を部屋中に飾ってある.死者は「星に還る」そういう言い伝えによって,たくさんの星の中に迎えられることを意味している.トリフェルティアで死者を弔う標準的な作法である.


初日に神官様が来てお祈りをされて,3恊日後に再度来て,お祈りをして故人を火葬もしくは魔法火葬して細かい灰を墓地に埋葬して,別れの葬儀は終了となる.不死のいる世界では土葬は(骨の形が残っているのも含め)禁忌である.

リエリは受付で大学校の頃のエリーの知り合いが来たら,案内をする役目である.パスカルからリエリに声をかけることもなかったし,逆もしなかった.


受付の合間の休憩時間を見計らってアンジェの葬儀にも参加し,例の本の写本5巻セットを星がちりばめられたデザインの布できれいに包装して,アンジェの柩に捧げた.

ル・メール夫妻にアンジェが生前とても仲良くしてくれたことを涙ながらにお礼を言ってから帰ってきた.本は柩と共に火葬されるはずである.

エリーにはヴィッセンスブルク国立ティルールローゼ競技場の砂をお供えした.


リエリはエリーの墓地に灰が埋葬されるときに,その灰にはエリーが含まれていないということを考えると涙が止まらなかった.そのまま解散となったので,エリーのお母さんに一言だけ挨拶をして,家に帰った.リエリもパスカルを避けていた.



ヴィッセンスブルク イルミナウ区 パスカルの家

―第6紀 369年10月10日(天曜日)7刻



「その魔法で,プッペンスタットの街の住民は皆殺された.街に残っていたのはエリーとアンジェ,メアリーの3人のマギアスだけになった.」

パスカルは2恊週間後に皆を集めて,何があったのか話をはじめた.

「そんなバカな!そんな魔法…強すぎるだろ?」

「それで3人は街を放棄して,ズーデンヴァルトへ転移して逃げる選択をしたのだが,すでに転移陣は破壊されていて,逃げることができずに,魔族軍に包囲された.エリーは最後まで戦った.最後に全魔力を使って,四魔殺 中断のグシオニブブを街ごと焼き払ったんだ.その魔人がアンジェを殺したから,エリーは許さなかったんだ.例え,自分の命を引き換えにしても.」


リエリは何も言えなかった.何を言えばいいのかすらわからなかった.

クロエもウィリアムも黙ったままであった.


沈黙を破ったのは,パスカルであった.

「それと,もう一つ言っておくことがあるんだ.僕は軍の士官育成課程に転向するよ.」

「「!」」

そのことを聞いてなかったリエリとクロエは驚いた.

パスカルはエリーの失ったその怒りを魔族へ向けていることが,リエリにでも理解できた.

(そんな こと ダメ!)


「パスカル なんて わたし より 運動音痴 なのに 軍に入っても すぐに 魔族に 殺されちゃう よ!」

「!」クロエはリエリの言いように驚いて,さすがに窘めようとしたが,パスカルが先に反論した.

「リエリ!いいかい.僕が運動音痴なのは君に言われるまでもなく,自分で理解している!だから“士官”なんだ.僕は魔王を殺すまで,戦い続けるつもりだ!」と,パスカルも怒り口調でそう反論した.

「何で!  わたし ,わたしは もう これ以上 みんなを 失いたくない! 何で なの!」と,リエリも泣きながら怒っていた.


「「!」」クロエとウィリアムはリエリがこんなに感情を見せるところを見たことがなく,驚いた.


「リエリ,君は何もわかってない!プッペンスタットの件は はじまりなんだ.これからたくさんの人が星に還るだろう.リエリだって,巻き込まれるんだ.他人事じゃないんだ!」

「他人事 だなんて 思って ない!」


「ちょっと二人とも落ち着いて!わたしも反対よ,パスカル.パスカルは魔法研究ですごい成果を出しているじゃない.なぜ,魔族の魔法研究をやらないの? さっきの魔法だって,対抗策を考えないといけないのだし,パスカルのフィールドで戦うべきよ.そうじゃないの? 士官になっても,成功するとは限らないじゃない.」


パスカルは怒りを抑えて,クロエに答えた.

「僕は魔法研究についても手を止めないよ.両立できると考えているんだ.いいや,両立させないと,魔族に勝てないと思っているんだよ.そして,僕にはそれができるとも思っているんだ,自分を過大評価しているんじゃないよ.冷静に考えて,そう判断したんだ.」


「と,言う話を聞いて,オレもパスカルについて行こうと思っている.軍に志願するつもりだ.」

「ウィリアムまで!」

「ごめん,この前クロエに変な話をしてしまったけど,なかったことにしてくれ,ごめん.」

「何よ,こんな時に!その話は私から断ったの.謝ってもらうのは筋が違うわ.」

「そうだな.ごめん.」

(この 二人にも 何か あったんだ. エリーが いなく なったら, この 仲間も 終わっちゃう の?)



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