第20話 自称ヒロインのヒーローは……
今回の話は、あのキャロルがメインで、少し短いです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ついに、ついに!この日がきたわ!私の日が!
この世界に転生して、散々な日々だったけど、5日前のあの日から私の物語が始まったのよ。
これは、悪役令嬢のいない、イージーモードの乙女ゲームなんだと思ったわ。ただ、好きなキャラを攻略するっていう。
だって、別邸にストロベリーが居なかったから。あの子は『悪役令嬢』になってないと思ってるのよ。
ストロベリーが意地悪になったのは、私に嫉妬してたからだし、私はずっと修道院に居たから、嫉妬の対象が近くに居なかったものね。
だから、普通に侯爵令嬢をやってるんだと思ったわ。まぁ、もしかしたら冷遇されてるのかも?と思ったけど。
だって、招待状の宛先が『ストロベリー・ディ・シュタイザー』になってたもの。
それが私のところにあるって事は、ストロベリーはデビュタントしないって事でしょ?
貴族令嬢の義務なのに、普通の令嬢だったら絶対にデビュタントするもの。
「参加しないのは、あのクソババアに言われたからかもね。傲慢が服着て歩いてるようなヤツだし、性格クソ悪そうだしね」
ヤミー 《お前が言うなと言いたい。ブーメランをお見舞いするわ》
「……なんか、この間から誰かに見られてる?ような……ちょっと気持ち悪いのよね。ゾワッとするの…風邪かしらね」
ヤミー 《くくく。私だよ!お前の頭に乗ってるヤミーちゃんだよ》
ヤミーちゃんは、キャロルの偵察で5日前から傍にいる。頭に乗って一緒にいる。いちいち面白くて見ていて飽きないからキャロルの傍にいる。
コンコン。(キャロルお嬢様、お支度の手伝いに伺いました。入っても宜しいでしょうか)
ヤミー《お、ボスゴブリンの子分だ》
来たわね。侍女という名の監視。ピアーズの腰巾着。
「いいわよ。入りなさいスパイさん」
侍女 「失礼致します。キャロルお嬢様、何回も言いますが、私の名前は『スパイ』では有りません。ドロシーです」
ヤミー《『スパイ』って、密偵だっけ?地球の言葉ね》
「はぁ?名前なんて知らないわよ。お前はスパイよ。ス・パ・イ。分かったならさっさとしなさい使えない女ね」
侍女 「…くっ…畏まりました。(奥様の言い付けだから手伝うけど、なんなのこの小娘!)」
痛っ!苦しっ……「ちょ、あんた締めすぎっ……ぐっ……」
ヤミー《凄ぇ。ガリガリの身体にコルセット要らんくない?恨みこもってるねぇ》
侍女 「申し訳ございません。骨しかないのに締めすぎました。でも、コルセットはこういう物ですから」
この女!絶対わざとね!階段から突き落としてやりましょうか。首の骨折って死ねば良いわ!天罰よ!
それに、骨しかないのは今までの質素な生活と、ピアーズの専属料理人のせいでしょ?
クッソ不味い料理しか作んないんだもの。香辛料ドバドバ掛けた肉とかスープなんて食えないわよ!
本邸のコックと交換しなさいよね!このエセ料理人が!
ヤミー《ドレスは素敵だけど、9歳にAラインは冒険しすぎね。貧相さが際立つわ》
侍女 「ぷッ……」
「は?なに笑ってんのよ?次は装飾だけだし自分でやるわ。下手くそなアンタにピンで刺されたら困るもの。
部屋を出たら、あのソバカス侍従に馬車回すように伝えなさい。あのババアとは別で行くわ」
ヤミー《侍従くん、可愛いのに。あのソバカスが良いのよ?分かってないのねキャロルは》
侍女 「お嬢様はどこもかしこもツルッツルで…ドレスは素敵ですのに。ぷッ」
「なんですって!!侯爵令嬢の私に向かって!不敬よ!」
ヤミー《キャロちゃん、侯爵令嬢じゃないよぉ~》
侍女 「侯爵令嬢?貴女はただの修道女。勘違いなさいませんように。
支度が終わったら奥様の部屋へとの事です。馬車の用意等は奥様の指示が無い限り致しません。それでは失礼致します」
巫山戯んじゃないわよ!ただの修道女ですって?この別邸に住んでる以上、私は侯爵令嬢よ!
しかも、今日から私がヒロインなのよ?これから聖女として花開くのよ!?
そんな私に向かって、「ただの修道女」ですって!?あの女、絶対そのうち殺してやるわ……
で、なんでピアーズのところに行かなきゃならないわけ?またイヤミ言われるだけじゃない!
あのババアの傍に行ったら、何故か萎縮しちゃうのよ。前のキャロルの影響で、拒否反応が出るのかしらね。
「はぁ、面倒くさい。行きたくないけど、行かないと馬車乗れないし……仕方ない。行くか」
ヤミー《ガリキャロって、ボスゴブリンの前だとちっちゃくなるのよねぇ。苦手なのかしら。ま、私はキライだけど》
コンコン
「キャロルです。支度が終わりましたので来ましたわ。お母様も終わりましたか?」
ピアーズ 「ふん。《《お母様》》なんて言わないでちょうだい。キャロルさん。
今日、貴女が高貴な方々に見初められたら、母と呼ばさせてあげるわ。それまでは「ピアーズ様」と呼びなさい」
ほんとこのガマガエル死ねよ。てか、腸詰まりか、肥満で、そのうちポックリ逝くんじゃない?その時は拍手で見送ってやるわ。大笑いして。
そう心の中で毒づいても、ピアーズ相手に口は開けない。言おうとしても言葉が詰まる。実に腹立たしい。
しかも、座る事を許されず、ドアの前に立たされ、虫けらを見るように見てきては罵ってくる。
(マジで死ね。国王より上の立場、『聖女』になったら、一番にお前を処刑してやるわ。晒し首にしてやろうかしら)
ヤミー《はわわ。思考がヤバいね。もう殺人鬼よ。聖女にはなれないってのに、なれる自信があるのかな》
コンコン「失礼します。お時間になりましたので馬車までご移動をお願い致します。結界を通り抜けますので、弾かれないよう注意して下さい」
そうよ、そうだわ!結界があるじゃない!どうやっても抜けれなかったのよ?侍女や侍従は通れるのに。
何か条件があるんだと思って、無心になったり、神に祈ったりして通ろうとしたのよ。でも弾かれちゃう。
それが、今日は弾かれず出れるというの?一回出たら別邸に戻りたくないわ……あの部屋は気に入ってるけど、自由に動き回れないんじゃ攻略しに行けないのよ。
(あ!だったら、伯爵以上の貴族に助けを求めて養女にして貰う?そしたらピアーズとも離れられるし、自由に動けるわ!)
よく小説とかだと、『男爵家の令嬢がヒロイン』とか、『平民が光魔法でヒロイン』とか、『実はとある国の姫だったヒロイン』とかの設定話はあるけど、男爵も平民も底辺すぎてイヤなのよね。
『とある国の姫』という設定も、『どこの国?』とか聞かれても答えられないし、墓穴を掘りそうだからムリなのよ。
だから無難に『伯爵以上の貴族家の養女』が、手っ取り早いのよね。出来れば『ライオット』の家が良いわ。ワンコ子息は攻略対象じゃないけど、顔は可愛いから、弟として愛でられるもの。
色々と思考しながら馬車に乗り込み、結界を通る瞬間……
ガンッ…馬と御者席だけ通れたけど、箱の部分だけ弾かれた。軽かった私は座席から吹っ飛び全身強打。
「キャァア!痛い!」どういう事?弾かれたわ。
ピアーズ 「全く煩い子ね。貴女のようなキャロルが乗ってるから通れなかったのよ。置いて行くから降りなさい」
クソババアに言われ、侍女に摘み出された。地面にヘタリ込み、唖然として見ていたが、私を降ろした馬車も通れなかった。中からキーキーと怒鳴ってるピアーズ。
まさかアイツが居たから出られなかった?と、思い、トコトコと結界まで歩いたら、それまで通るのを拒否していたのが嘘のようにスっと通り抜けた。
後ろを振り返ったら口をあんぐりと開けたピアーズと、オロオロしている侍女がいた。
「勝った」そう思ってニッコリ笑い、カーテシーをして「無様なオバサン。私は選ばれたわ。貴女はそこから出られない。いい気味ね、オホホホホ」と言い捨て、結界を通り抜けた馬車に乗り込んだ。
ピアーズ 「キー!レイア!貴女があの小娘に付き添いなさい!近くで監視なさい!急いで!」
命令された侍女が返事をし、走り出した馬車に飛び乗った。危機一髪。
キャロルはそんな侍女の行動に驚き、馬車の乗り口にいる女を蹴飛ばした。悲鳴をあげ落ちた侍女。
「あっはは!落ちちゃった。吃驚して咄嗟に足が出てしまったわ。あれ、死んでないわよね?
くくく。まぁ、死んだらそれまでよね。それがあの女の運命だったって事で、神様も許して下さるわよね」
邪魔者は居なくなったし、晴れ晴れとした気持ちでパーティへ行けるわ!
待っててね、私のヒーロー達。貴女のヒロインが、聖女が、もうすぐ貴方達の元へ行くわ。
「渡り廊下で迷子になってるから、声を掛けてね?未来の旦那様達♡」
ヤミー《不必要な外出禁止。ボスゴブリンの生誕祭出席は、不必要と判断されたのね。
と、いうよりは、外出の際の条件に、ピアーズが含まれて無かったのかも?あえてそうしたのか、忘れてたのか……ベリーちゃん、たぶん忘れてたんだろうな……》
ヤミーちゃんが呟いたと同時に、エドとビットと話をしていたベリーが、クシャミを連発していた。そして、(誰か噂してるのかしら?)と思っていた。その通り。犯人はヤミーちゃんです。
爽快に走る馬車の中では、キャロルがキャイキャイとはしゃいでいた。「もうすぐよ、もうすぐ…」
御者をしていたソバカスくんは、中から時折聞こえてくる高笑いに恐怖していた。
『自称ヒロイン』ことキャロルが、とうとう王城に到着した。入城は下位貴族からなので、後ろの方で待機。
キャロルは一応『ストロベリー侯爵令嬢』の身分で入るからだ。その事を忘れてるキャロルは、
「待つのはイヤだけど、私って侯爵令嬢だものね。当然よね。オホホホ」と笑っていた。
そして順番が来て、外から扉が開けられ、金髪の凄いイケメン騎士が手を差し出し、「レディお手を」と言ってきた。
スマートなエスコートに頬を染め、「わたくしの手を取る栄誉を与えるわ」と、鼻息荒く答えて手を乗せたら、
「有り難き幸せ。デビュタントおめでとう御座いますレディ」と、言ってウインクをされた。
キャロルは「騎士様のお名前は?」と聞いた。一発で気に入ってしまったから。名前を聞いて護衛騎士になって貰おうと思っていた。
だけど、金髪騎士から返ってきた返事は、NOだった。
「私は一騎士にすぎません。姫のお耳を汚してしまいますので、名乗りは遠慮させて頂きます。パーティ楽しんで来て下さい」
そう言って頭を下げ、次の馬車の対応をしていた。見ていたら、他の人にも同じ対応をしていたので、「自分だけが特別ではない」のだと身をもって知った。
「ふ、ふん。とんだナンパ野郎だったわ!ヒロインのヒーローじゃ無かったのよ。ふん!」
城の入り口で招待状を渡し、「お付きの方は?」と聞かれたので、「お母様は出かけに倒れましたの。侍女は付き添いをしているわ」と伝えたら、「では、騎士に案内させます」と言って、近くにいた騎士に声を掛けていた。
今度はガタイの良い熊みたいな騎士だった。(あの金髪騎士が良かったわ)と内心で愚痴りながら、熊騎士について行った。
そして、待ちに待った渡り廊下に差し掛かり、熊騎士の目を盗んで傍を離れた。
逸る気持ちを抑えて、ドキドキしながら『キャロル』が迷子になる場所に向かった。
(ここよ、ここだわ!天使の像……ん?ガーゴイル?醜い像ね。でも、ここだわ!この像の下で蹲って泣くのよ)
まだダメだわ。人が沢山いるものね。あ、あの柱の影なら時間が潰せるかもしれないわ。
息を殺し、今か今かと待っていたら、騒つきが聞こえなくなった。そっと柱から顔を出しキョロキョロと見渡してから、(よし!今よ!)
ガーゴイル……天使の像の下で蹲り、「シクシク、お父様、お母様、何処に行ってしまったの?シクシク」
ヤミー《はい。始まりました!乙女ゲームオープニングシーン!『出会い』です!わざと迷子になった自称ヒロインは、イケメン男性に声を掛けられるのか!!
あ!?マジで誰か来た!え?マジで始まっちゃう感じ?凄くない!?遊戯神のせいかな?恋愛神かな?》
コツコツコツ……(あ!誰か来たわ!)
「シクシク、シクシク、お父様、お母様……」
??「探しました。レディ、泣き真似ですか?本日の付き添いは無かったのでは?」
「ん゛??声を掛けてくれた素敵な王子様…貴方の…」名前をお聞きしても?と言おうと顔を上げたら吃驚。
??「あー。その、王子様で無くて申し訳ない。
近衛騎士、第3部隊隊長をしている『ディルムンド』と申します。
レディ、デビュタントホールはこちらです。ご案内しますので、はぐれないようにして下さい」
「…………」
迷子演出中の私に声を掛けてきたのは、巨大な熊!入り口から案内人として先導してた熊!途中で目を盗んで傍を離れた熊!
キャロルは口をパクパクとさせて、金魚のようになっていた。『ディルムンド』は、(小さな子にまた怖がられたか。参ったな)と、動かないキャロルに困っていた。
だが、パーティ開始までもうすぐで、このままでは……と思ってしゃがんで声を掛けた。
ディルムンド 「レディ、パーティがもうすぐ開始される。俺が怖いなら一人で行けるか?」
「んなんなんな、あんたさっきの熊騎士!なんで?私の王子様は?ジュノンは?セルビスは?アルヴィンは?ユージーンは?ルカリオはーー?誰か私を探して、いや、ここの、こ・の・場・所に!来なかった!?」
ディルムンド 「レディ、殿下方には敬称を。不敬罪に問われます。ジュノン殿下、セルビス殿下、ルカリオ様は別通路。ユージーン殿下は不参加、アルヴィン侯爵令息は、先程父君と共にジュノン殿下に挨拶を済ませ帰宅、パーティには不参加です」
ウソでしょ……私のヒーローは?私の物語は?やっとここまで来たのに?
チラッ……まさか、私のヒーローってこの熊!?イヤよ……顔の傷……あれ何?ヤクザ?そっちの裏系の人?
四つん這いになってグルグルと考えていたら、違う声が聞こえた。(今度こそ私のヒーローよ!)と、顔を見たら知ってる人だった。
??「お、ディルムンド隊長。久しぶりっすね。何してるんです?」
目が合った。この世界じゃ珍しい黒い眼。そしてサラサラな燃えるような赤い髪、洗礼式の馬車停留所でルカリオ様と並んで立っていた冒険者の方!!
「私のヒーローは貴方だったのね!!漸く迎えに来てくれたのね!私の王子様!私はキャロル、貴方のヒロインよ!」
エド 「げっ。ベリーちゃんの成りすまし女。俺はキミのヒーローじゃないぞ。キミのヒーローはディルムンド。良かったな、ヒーローが見付かって。
ディルムンド、その子ストロベリー侯爵令嬢の招待状でまんまと王城に入り込んだ平民だぞ。気を付けろよ」
「な!?ま、待ちなさいよ!私、迷子になってしまったの!会場まで連れて行きなさい赤髪冒険者!!」
シッシッと追い払う仕草をした赤髪は、軽蔑の眼差しを向け、颯爽と歩いて行ってしまった。
渡り廊下、乙女ゲームオープニングシーンが始まる場所に現れたのは、ヒーローでも王子様でもなく、熊騎士と赤髪冒険者だけだった。
こんなゲームの始まりなんて許せない!私のヒーローは会場にいるんだわ!
もしそうなら早く行かないと……私を待ってるハズだもの。いま行くわ、待っててね。
ムクっと立ち上がり、会場に向かって走り出そうとしたら、グイッと持ち上げられ、肩に担がれた。
「何事!?」と吃驚して暴れてたら、ケツをバッチーーン!と叩かれた。
「痛い!やめて!」と叫んでるのに、太鼓のように叩かれ続けた。『鼓』のように。
叩きながらズンズンと王城の敷地外まで担がれ、漸く地面に降ろされた時にはクタクタになっていた。
頭が逆さになって、揺れて、グワングワンする。「ゔぅぅ…」と唸っていたら説教された。熊に。
「悪い事はしちゃダメだぞ。平民は王城にも入っちゃいけない。もし見付かったら処罰される。覚えておくんだぞ」
そして、手に金貨を一枚乗せて、「馬車の停留所が近くにあるから、そこで街馬車に乗って帰りな。金は返さなくていい。デビュタントおめでとうレディ。じゃあな」
ディルムンドは頭をひとなでして城の中へと消えていった。その姿を見届け、手に乗せられた金貨を見ていたら涙が込み上げてきた。
声を出し、泣くに泣いた。悲しかったのか、悔しかったのか、両方だったのか、力の限り声を出し泣き叫んだ。
どのくらい泣いてたのか分からないけど、目がヒリヒリする。ヨロヨロと立ち上がり、足取り重く停留所へ行き、別邸へと帰った。
ピアーズに出会して頬を殴られた。腹が立ったので階段の上から突き飛ばした。
ゴロゴロと転がって落ちて行く様を見ても何も思わなかった。落ちた先から見詰めてくる目に恐怖が見えた。それを一瞥して自室に入った。
それから3日、一度も部屋から出ず引き篭った。その間、思い出してたのは、熊騎士の強面と、頭を撫でてくれた時の悲しそうな笑顔だった。
キャロルが転生してから夢にみていた、乙女ゲームのオープニングシーンは、散々な結果で幕を降ろした。
迷子になって声を掛けてくれたキャロルの王子様は、顔面に傷のある大柄な熊の騎士だった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いつもご覧になって下さってありがとうございます。
この話で『幼少期編』が終わります。
次話からは、12歳になったベリーが色々やらかします。
ここまで書いてて思ったのですが、1話が長いですよね。読んでて疲れませんか?大丈夫ですか?
1話が長いですが、お付き合い下さいね。では、次の章でまたお会いしましょう
アルファポリスでも掲載しています




